六十五話:アザレア女皇帝
金の刺繍が入った赤い絨毯が目立つ大きな部屋。
部屋の中央には豪華なカーテン付きのベッド。
壁には高そうな絵画や武器が飾られており、目がチカチカする。
一言で言えば煌びやかだ。
ベッドのカーテンは透けており、誰かが寝ていることが見て取れる。
ジェラはベッドの隣に控えていた白い角と尻尾の生えた黒髪の女性に声を掛ける。
「第三騎士団長ジェラ、只今帰還しました。陛下のご容態はどうですか?」
「遠征お疲れ様でした。アザレア様は相変わらず目を覚ます気配は御座いません。それで?そちらの方は?」
女性は丁寧な口調だが、眉に皺が寄っている。
そら、そうなるわな。
遠征から帰った騎士団長が人間を連れてきたんだ。
「俺は『侵犯の塔』のタスク。慈愛の雫を持ってきた」
「!? それはどういう意味でございますか?」
女性が視線を移すとジェラは膝を付き、頭を下げる。
「申し訳ございません。遠征小隊は私以外、全滅しました。なので、丁度その場に居合せたタスクとその仲間たちに命を救っていただき、雫を入手するための助力をして頂いた次第です」
「そうですか……。良く生きて戻ってくれました」
ジェラは頭を下げたまま、肩を小刻みに揺らしている。
女性は俺の方に向き直ると腰を折り、深々と頭を下げる。
「ジェラを助けていただき感謝します。ロザリー・ツー・リレイドアと申します。アザレア様の妹にございます」
ほー、妹居たのか。
IDOには一切出てこなかったけど。
この見た目で
「失礼を承知でお伺いします。目的は何でしょう?」
「終戦だ」
深く下げた頭を勢い良く上げると、ロザリーは俺を睨みつける。
「降伏しろと仰るのですか?」
まじで勝つか負けるしかないの?
講和条約とか結んで終わるもんじゃねえの?
「違う。落としどころ見つけて、お互い後腐れなく戦争を終わらせようって話だ」
「無理ですね。貴方達人種が何をしたかお忘れですか?」
「忘れるも何も、俺は人伝でしか聞いてねえからな。謝罪する気もない」
「貴方と同じ人種がしでかした事でしょう?」
「言う通り俺は人種だが、どっちかといえばお前らの味方だ」
俺は続けて口を開く。
そして皇族と皇帝のその信頼厚い者しか知りえない筈の情報を話をしてみる。
するとロザリーは青褪め、ジェラはガバッと立ち上がると、腰にぶら下げていた剣を抜く。
この感じだと、ジェラも一応知らされているって事だな。
メインストーリー真面目にやっといてよかった。
長いかった事にイライラしたけど、今回は感謝しておこう。
「人間!何故貴様がソレを知っている!?」
「未来から来たからだが?俺が敵なら既に今言った情報は周知されている筈だ」
二人は訝しげに俺を見ると、ジェラはハッとした表情をした後、小声で呟く。
「陛下の名を知っていたのは……」
おい、それくらいはこの世界の一般常識ってやつじゃないのか?
皇帝の名前くらい知ってるもんだと思うが?
まぁ、ツッコまないけど。
話が逸れてしまったので本題に戻す。
「とにかく俺はアザレアを起こして、これからの事を話たいんだが」
「…………」
うーん、埒が明かん。
俺はインベントリから慈愛の雫を取り出し、ベッドへと近付く。
その間、ジェラとロザリーは黙って俺を見ていた。
カーテンを開けると、真っ黒な髪に白い角、安らかに眠っているように見えるアザレアが居た。
ロザリーを十歳は幼くしたような見た目の彼女は魔人種の
頭頂部には寝転んでいるのに、落ちない『不死者の宝冠』が乗っている。
その『不死者の宝冠』からは黒い魔素が漏れ出し、アザレアの体を包んでいた。
飲ませるもんねえかな?
小瓶ダイレクトだとさすがになあ。
俺がキョロキョロとしていると、後ろから吸い飲みを渡してくる。
振り向くと、ロザリーが立っていた。
「味方という言葉を信じます。どうかアザレア様をお願いします」
俺は頷き、吸い飲みを受け取る。
中に慈愛の雫を流し込み、飲み口部分を口に差し込み傾ける。
すると、頭に乗っていた『不死者の宝冠』がコトリと落ち、アザレアを包んでいた黒い魔素が消える。
因みに、『不死者の宝冠』はいらないと言うので俺が貰った。
「……うぅ」
「アザレア様!」
「陛下!」
十分ほど待っていると、呻き声が聞こえロザリーとジェラが駆け寄る。
「ロザリー?ジェラ?どうしてここに?僕は……」
何かを思い出したのかハッとすると辺りを見渡す。
すると、俺の姿が目に入った瞬間―――。
『ギイイイイン』
俺は咄嗟にインベントリから大盾を取り出し、アザレアの一撃を防ぐ。
アザレアは寝たままの状態から<闇属性魔法>を放ってきた。
病み上がりなのにイイ威力だ。
だが、弱い。
やはりアザレアも最上位職じゃなくなってるのか……。
すげえショックだな。
悠々とアザレアの一撃を防いだことに驚いていたが、すぐさまジェラは声を上げる。
「お待ちください陛下。彼はタスク。人種ですが陛下を助けてくださったのです」
「アザレア様、お体に障ります。ジェラの言う通りですから落ち着いてくださいませ」
二人の言葉を聞いたアザレアは俺の方を見ると、顔を真っ赤にして頭を下げる。
「ごめんなさい!僕はアザレア・ツー・リレイドアです!」
俺は膝を付き、頭を下げる。
「お初にお目にかかります。王都シャンドラギルド所属、クラン『侵犯の塔』のタスクです」
ロザリーとジェラは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
あ?なんだよ?
俺だってやりゃあ出来るわ。
「なんで僕を助けてくれたの?」
「一度、お会いして話を聞いてみたかったからです」
「なに?」
「アザレア様は本当に恨み辛みで戦争を始めたんですか?」
アザレアの眉がピクリと動く。
「どういう意味かな?」
「アザレア様は争事が嫌いではありませんか?」
アザレアはロザリーとジェラを交互に見る。
二人は顔を横に振ると、ロザリーがアザレアに耳打ちをする。
少し長めの耳打ちをしているあたり、今までの流れを説明しているのだろう。
「話はわかったよ。未来の僕を知ってるってことだよね?」
「はい」
「だったらタスク君が思ってる事は当たってると思うよ」
MPの権化、腹黒幼女、魔法幼女、魔女っ子……。
IDO時代、色々あったアザレアの仇名の中には『平和ロリ』というものがあった。
その理由はアザレアだけ、戦闘が発生するクエストをプレイヤーに渡さないというもの。
それなのにMPだけは異常に高く、化け物じみており当時ラスボス説すら立ったほどだ。
「では、なぜ戦争を始められたのですか?」
「民のため。これでも僕、一国の皇帝なんだよね」
「他の方法は無かったのですか?」
「魔人種の国はギュレーンだけじゃないからね?僕
「には」の部分を強調し、アザレアはニコッと笑う。
方法を他に提示して、他の国を説得して来いってか?
それを言われたら詰む。
アイツだけは何が何でも関わりたくない。
「それでも、アザレア様には今回の戦争を止める手助けをしてほしいのですが」
「具体的に何をしたらいいの?」
「他種族との和解と関係の改善です」
「うーん、いいよ。僕の命を救ってくれたんだし手を貸したげる。ただし、ベルアナ魔帝国だけは説得に付き合ってほしいな?」
終わった―――。
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