六十四話:別の行き先



 ようやく終わった。

 俺は地面に落ちた魔石と一本の小瓶を拾い上げる。

 <鑑定>。


――――――――――――――――――――――――

 ・慈愛の雫

 効果:幻惑の解除。呪いの解除。

――――――――――――――――――――――――


 運が良かった。

 実は、このアイテムのドロップ率は五十パーセントだったりする。

 落ちてくれて本当に良かった。

 それにしても、最後までランダムヘイト対策は思いつかなかったな。

 本当に高難易度のダンジョンどうすっか。


「……タスクさん。」


 そうこう考えていると、すぐ隣から声がした。

 振り向くとリヴィが立っており、上目遣いで俺の顔を覗き込んでいた。


「ん?どした?」

「……あの、ありがと。」


 リヴィの頭に手を置き、雑に撫でる。


「俺の方こそ、助かった」


 ヘススと<VIT生命力>を入れ替えた時、リヴィが咄嗟に『ガード・バフ』を俺に掛けてくれていた事を知ってる。

 蔦の波が迫ってくる中、生き残れるという確証は無かったのにだ。

 あの状況下でよく動けた、と笑ってしまった。

 

 されるがままのリヴィと俺に三人が近付いてくると、ヴィクトリアが口を開く。


「申し訳ございません」

「なに謝ってんだ?」

「それは……。私が皆さまを危険に晒しましたわ」


 そんな事か。

 俺にとってはその程度だが、ヴィクトリアにとっては許容できない事なんだろう。

 口を開こうとした時、隣から声が上がる。

 

「……ヴィクトリアさん。……大丈夫ですよ。」

「何がですの?」

「……タスクさんが守ってくれましたから。……タスクさんが居れば死にません。」


 リヴィの言葉にヴィクトリアは声を詰まらせると、へススの方に振り返る。


「拙僧も同意見である」


 困惑の表情を浮かべるヴィクトリア。


「事故だ、気にするな。蔦を千切ったくらいで、ブチギレるとは誰も思わない。それに蔦に攻撃しろって言ったのは俺だ」

「ですが……」


 ヴィクトリアの気持ちもわからなくもない。

 難易度六等級のティタニア相手でこのザマなのだ。

 もっと高い難易度のダンジョンに行けば、どうなるかなど想像するまでもない。

 

 しかし、まだ成長出来る。

 お前たちには最上位職があるのだ。

 IDOはレベル上限の100になってからが本番であり、愉しいんだ。


 ヴィクトリアはまだ何か言いたげな顔をしていたが、俺はパンパンと手を叩く。

 

「話はここまでだ。さっさと帰るぞ」


 それだけ言うと魔方陣の方へと歩きだす。

 ヴィクトリアの隣を通りすぎる時、声を掛ける。


「仲間を信じとけ。お前は軽口叩きながら笑ってる方が似合ってるぞ」


 一瞬ポカンとしたヴィクトリアはクスクスと笑い、何か小さく呟いた。




 『幻惑の花畑』を出てきた俺たちの方へ凄い勢いでジェラが駆けてくる。

 

「無事だったか!ケガはないか?雫は?……持ってないという事は行かずに引き返してきたのか?あれだけ大口を叩いておきながら、やはり人間というやつは―――」

「落ち着け」


 ジェラの頭に軽くチョップを入れると、キッと睨んでくる。

 俺はインベントリから小瓶を取り出しジェラに見せる。


「こ、これは……もしや……」


 目を潤ませながら小瓶を見つめるジェラ。


「約束は守った。だからそっちも―――」

「任せておけ!ギュレーンの騎士は恩を仇で返すような真似はしない!」


 言葉を遮ったジェラは胸をドンと叩きながら鼻を鳴らす。


「じゃあ、先に帰っててくれ。アザレアの所には俺一人で行ってくる」


 一様に驚いた顔をすると、ほぼ同時に口を開く。


「アタシも行くッスよ!?」

「……私も行きます!」

「私も同行致しますわ」

「拙僧も行こう」


 一人ずつ喋れ。

 大体、言ってること同じで聞き取れたけど。


「ジェラ。ギュレーンに魔人種以外は住んでるのか?」

「ギュレーン魔帝国と言っても広いのでわからんが、帝都はもう魔人種しかいない筈だ」

「という訳だから帰っとけ」


 そういうと、ヴィクトリアが一歩前に出る。


「魔人種でもあります私の同行は許して頂けますわよね?」

「ダメだ。お前は人間にしか見えん」

「タスクさん?ブーメランって知ってるッスか?アタシの方が魔人っぽいッスよ」

「お前は猫だろうが」

「……私も行く。」

「今度、一緒に行こうな」

「拙僧も行こう」

「もう少し言葉のバリエーションを増やせ」

 

 ヴィクトリアに続き三人まで前に出てくる。

 しばらく押し問答を繰り返し、埒が明かないので代わりに仕事をお願いしたらようやく折れてくれた。

 野営地の片付けを終えた所で転移スクロールを取り出し、パーティメンバーに二巻ずつ渡す。

 ジェラに一巻渡すと、腰を抜かし声を荒げる。


「こ、こ、こ、こんな高価な物を!ば、馬鹿か人間!これがあれば―――」


 鶏か?

 面倒くさいので放置。

 しばらくして落ち着いたジェラに声をかけ、それぞれスクロールを用意する。

 


 行き先は―――

 俺とジェラは南大陸、《ギュレーン魔帝国》。

 ヘススとヴィクトリアは西大陸、《ジュラルダラン獣王国》。

 ミャオとリヴィは東大陸、《レヴェリア聖国》。



 この三国にした理由は色々と情報が欲しかったのだ。

 ジュラルダラン獣王国は西大陸で一番国力があり、巨大な領土を持っている。

 獣人の国なので最初はミャオに頼もうとしたのだが「行きたくないッス」との事だったので聖国側に参加してもらう事になった。

 逆に人種史上主義国家である聖国には人間に見えるヴィクトリアに行ってもらおうとしていたのだが、こちらも断られ今のメンバーに着地した。

 

 完全に人選ミスである。

 もうどうにでもなあれ。


「仕方なく仕事を頼んだが、絶対に無茶はするなよ。何かあればすぐに屋敷に戻れ」

「了解ッス」

「……はい」

「畏まりました」

「承知した」

「んじゃあ、行くぞ」


 二人ずつ光に包まれていく。

 ヘススたち、ミャオたちの姿が消え最後に俺たちが転移する。


「「転移、魔帝都ギュレーン」」


 視界が丘陵の遺跡跡地から切り替わり、目の前には大きな山が聳え立っている。

 山の頂上には城が建っており、斜面には埋め尽くすほどの家や店が並んでいる。

 帝都に入るための大きな門の前には角の生えた門番が二人、待ち構えている。


 懐かしいなあ。

 俺の母国―――。

 

 IDO時代、俺は魔人種でキャラ作成をしていた。

 魔人種でキャラを作ると、ギュレーン魔帝国がゲームのスタート地点になる。

 故に母国。


 ギュレーンの門に近付くと、門番二人が槍を突き出してくる。


「人間。何をしに来た?」

「お前のような者が来る場所ではない。出ていけ」


 まだ入っていないのだが。

 俺はジェラを一瞥すると大声を上げる。


「貴様たち!この人間は……えっと……」

「タスクだ」

「そ、そうだ!タスクは人間だが、陛下を救うために私が呼んだのだ!通してもらおう」

「「ジェラ第三騎士団長殿!?」」


 んんんんん?

 こいつ騎士団長だったの?

 ふっ。


「「失礼いたしました!」」

 

 門番の二人は頭を下げると、ギュレーン内へと通してくれる。

 ジェラに連れられて向かった先は、山の頂上である皇城。

 門からは馬に乗って移動をしていたのだが、通行人はやはり魔人種ばかり。

 チラチラと見てくる、その目には憎しみすら感じられた。


 これがフェイが感じてた視線か。

 ……痛えな。

 元凶は誰だか知らねえけど腹立ってきた。

 見つけたら一発思いっきりぶん殴るか。

 それはともあれ―――



 ようやくアザレアとご対面だ。


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