六十六話:王都ジュラルダラン

 ~Side:ヴィクトリア~




 「「転移、王都ジュラルダラン」」


 視界が切り替わると、目の前には巨大なクレーターがあった。

 一瞬、大きな隕石でも落ちたのかと思ったけれど、どうやら違うようでクレーターの中央には湖があり、その周りに街が出来ている。

 湖の中心には城が建っており、橋が一本架かっていた。


「ここがジュラルダランで間違いありませんの?」

「相違ない」


 私とヘススは魔人種について調べるために、ジュラルダラン獣王国の王都に来ていた。

 本当ならタスクに付いて行きたかったけれど、ダメだと言われては仕方ない。

 だが、屋敷でジッとしてるのも嫌だと思っていると、ミャオがごねてくれたおかげで仕事を貰えた。

 今回でティタニア戦の挽回をしなければ。


「私、ジュラルダランに訪れた事がありませんの。エスコートをお願いしても?」

「構わない」


 私がそう言うと、ヘススは門の方へと歩き出す。

 ヘススとはあまり喋った事は無いけれど、悪い人ではないという印象。

 特に話すこともなく、挨拶する程度の関係だが今は仲間であることに変わりはない。

 それに、私としても彼らにも興味がある。

 何故あれだけタスクを信頼できるのか……。


 私は信頼関係というより利害の一致で一緒に居る。

 互いを利用している状態。

 その事はタスクも既知している。

 だから今回の件も力を貸す、そして代わりに私を強くして貰う。


「ところでヘスス様?どちらへ向かわれていますの?」

「ギルドである」


 ギルドには色々な情報が集まる。

 私が以前、情報を集めていたのも酒場か冒険者ギルドだった。

 ギルドに着いた私たちは開きっぱなしの扉を潜る。

 内部は奥にカウンターがあり、壁には依頼などの紙が乱雑に貼られている。

 ロビーには長テーブルと長椅子が複数、置かれている何の変哲もないギルド。

 長椅子には昼時だというのに酒を呷る獣人の冒険者が複数座っていた。


 私とヘススは真っ直ぐ、カウンターへと向かう。

 カウンターには捻れた角が生えた女性が立っており、こちらに気付くと笑顔で口を開く。


「ようこそ。ジュラルダラン冒険者ギルドへ。どういったご用件で?」

「私『侵犯の塔』のヴィクトリアと申します。ギルドマスター様とお会いする事は可能でして?」

「面会のお約束は御座いますか?」

「いいえ。お約束は致していませんわ」


 そう言うと、受付嬢である羊の女獣人は困った表情をする。

 すると、私たちの後ろから声が掛かる。


「おい。姉ちゃん、魔人だろ。ちょっとそこまで付き合ってくんねえか?」

「あら?ナンパですの?」

「うんうん。すぐそこにいい店があるんだよ」


 ニヤニヤとしながら梟の男獣人が私の腕を掴もうとする。

 チラリとヘススを一瞥すると、ただ無言で立っているだけだった。

 なので、私は『ファスト・ステージ』を発動したと同時に、『マグナム・メドゥラ』を男の腹部に叩き込む。

 直撃した男獣人はくの字形に折れ、ギルドの外まで吹っ飛んで行く。

 その光景を見ていた冒険者や受付嬢はポカンとした表情で目が点になっていた。


「ヘスス様?何故お助けして頂けませんでしたの?」

「拙僧の助力が必要であるか?」

「いいえ。正直申しますと必要ではありません。ですが、エスコート中の女性をお守りするのも殿方の大事なお役目ですわよ」

「そ、そうであるか」


 私がヘススに説教をしている中、我に返った羊の受付嬢はバタバタとカウンター裏へと走っていく。

 数分後に、羊の受付嬢が戻ってくると隣に獅子の女獣人が立っており受付嬢の制服を着ていた。

 

「お前がウチのギルドで暴れたって魔人か?覚悟できてんだろうな?」

「不埒な輩を成敗致しただけの事ですわ」

「問答無用!」


 獅子の受付嬢は拳を突き出してくる。

 突き出された拳を私は軽々と片手で受け止め、力を籠める。

 獅子の受付嬢が拳を引き抜こうとしても、ピクリとも動かない。

 恐怖からか、小さく言葉を漏らす。

 

「化け物」


 以前、何度も聞いた言葉。

 タスクと出会うずっと前から。

 まさか獣人の国でも言われるとは思ってなかったけれど。


 ギルドに来るまではフードを被っていたので特に問題は無かった。

 だけど、先ほどの梟の男獣人に何故かバレてしまった。

 私の左目を見た?

 フードをとっていないので見えない筈。

 それとも何か別の……?

 考えていてもわからないし、興味もないので考えるのをやめた。


「続けます?私は構いませんわよ?」


 黙り込んでいる獅子の受付嬢をニコッと笑顔で見つめる。

 すると手から力が抜け、その場にペタンと座りこむ。


「この調子ですと、お話をお聞きするどころではありませんわね」

「であるな」

「ちょっとよろしいですか?」


 ギルドを後にしようと踵を返した時、隣から声を掛けられる。

 振り向くと、私たち同様にフードを深く被り、口元もバンダナで隠している人物が立っていた。

 いかにも怪しい人物は続ける。


「お話がございます、付いて来ていただけないでしょうか?」


 敵意や害意は感じられない。

 だけどこの人……強い。


「構いませんわよ。ヘスス様も宜しいですわよね?」

「構わない」

「感謝します」


 フードの人物に付いて行くようにギルドを出る。

 少し歩き、人気のない裏通りまで来たところで、フードの人物は足を止める。

 するとフードに手をかけ、ハラリとフードを脱ぎバンダナを外す。

 その人物はこちらに向き直り、私たちの目の前で膝を付く。


「私はジュラルダラン獣王国、王国第一騎士団隊長、ゼファと申します」


 ミャオと同じ。

 全身が真っ黒の豹が二足歩行で歩いているような見た目。


「私は『侵犯の塔』のヴィクトリアと申します。それで、何の御用ですの?」

「ヴィクトリア殿にお願いしたいことが」

「お願い?私に?」

「はい。私は獣王様の『強き者を連れてきて欲しい』との命で冒険者ギルドに居りました所、先ほどの見事な一撃を見て、ヴィクトリア殿にお願いしようと思い声を掛けた次第です」


 獣王という事は王城。

 私たちの目的にとって好都合。

 断る理由はない。

 ヘススに視線を送ると微妙な表情をしていた。


「お時間を頂けませんこと?お返事は明日致しますわ」

「わかりました。それでは明日またギルドでお待ちしております」


 そう言うと、ゼファはフードとバンダナを付け去っていく。

 私たちは宿を二部屋取り、話し合う事にした。


「ヘスス様。如何致しますの?」

「拙僧は断るべきだと思う」

「何故ですの?」

「危険である」


 難易度六等級を踏破した人が言う事?

 それ以上の危険なんて滅多にない。

 それこそ六等級以上のダンジョンに挑むくらいしか。


「もしものお話ですわよ?タスク様が行こうと仰ったら如何致しますの?」

「無論、行くのである」


 私では信頼できないと。

 確かに、私よりタスクの方が実力は上。

 けれど、私もあの時より強くなっている。

 

 頼まれた仕事くらい私一人でもこなして見せる。

 ずっと独りでやって来たのだから。


「そうですか。では今回はお断りする、という事で構いませんわね?」

「構わない」

「では、私はお部屋に戻りますわ。おやすみなさい」



 翌朝、私は一人で宿を出た。


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