六十二話:ランダムヘイト
『キャアアアアアアアアアアアアアアアア』
ティタニアが吠えたと同時に、俺は叫んだ。
「全員!真横に飛べッ!」
刹那、ミャオが居た方向とリヴィが居た方向に向かって、無数の蔦が地面から生えながら波打ち、襲い掛かる。
ダメだ、リヴィが間に合ってない。
『オーバーガード』『ポジションスワップ』発動。
リヴィと場所を変わった俺は、蔦の波に飲み込まれる。
「……あ。」
これがティタニアが最悪だと言われる所以。
IDO時代に“ランダムヘイト”と呼ばれていたもので、パーティ内から抽選が行われ、選ばれた者にヘイト無視で攻撃が来るというもの。
ティタニアの場合はパーティ内から二人が選ばれ、蔦の波が押し寄せてくる。
今回選ばれたのが、ミャオとリヴィだったという事だ。
IDO時代、ランダムヘイト対象者の頭上にマークが付き、誰が選ばれたのかわかる仕様になっていた。
だが、この世界でランダムヘイト対象者の頭上にマークが付くとは思えない。
だからこそ、俺は前回の『幻惑の花畑』でボスを倒さずに引き返した。
案の定、マークは付かず全員が横に飛ぶ以外の回避方法がなかった。
「リヴィ、心配すんな」
そこそこ痛かった。
だが、これはある意味で収穫があった。
高難易度ダンジョンのランダムヘイトをどうするか考える必要が出てきたのだ。
俺の知らないダンジョンでランダムヘイトが飛んで来たら目も当てられない。
蔦が消え、立ち上がった俺にティタニアが突っ込んでくる。
ティタニアは、纏っていた風が無くなると、近接攻撃主体に切り替わる。
それだけではなく、ランダムヘイト攻撃を一定時間が過ぎる度に使ってくる。
あー、鬼畜。
最高に愉しいなぁ?!
ティタニアは地面から蔦を生やしながら、俺に対して殴りかかってくる。
『シールドバッシュ』発動。
ティタニアの拳に合わせて、パリィして吹っ飛ばす。
直後、地面から生えてきた蔦で薙ぎ払うように振られ、直撃したが踏ん張る。
パリィされたティタニアは体勢を崩し、尻もちをつく。
そこに、駆けてきたヴィクトリアが『マグナム・メドゥラ』を顔面に叩き込む。
拳を打ち込まれたティタニアは地面を滑るようにして倒れ込んだ。
「ヴィクトリアさんッ!」
「!!」
ヴィクトリアは真横に飛ぶと、後ろから弦音が聞こえる。
ミャオの『パワーショット』が倒れたティタニアの肩に突き刺さる。
「チッ。逸らされたッス」
ミャオはティタニアの頭を目がけて放っていた。
その矢を地面から生えてきた蔦が辛くも逸らした。
だが、ヘススの『ディングリース』でティタニアの傷から漏れる魔素の量が多くなる。
すると、ヴィクトリアは矢筈に狙いを定め『マグナム・メドゥラ』を
ピンヒールで踏みつけられるように放たれた蹴りは、しっかりと矢筈を捉えており刺さっていた矢はティタニアの肩を貫通した。
『キャアアアアアアアアアアアアアアアア』
「回避ッ!!!」
一方は俺の方に、そしてもう一方はまたもリヴィ。
……回避が間に合っていない。
<
ミャオがそれに気付いて飛び出してるが、間に合う距離じゃない。
蔦の波を喰らえば間違いなくリヴィは―――死ぬ。
死なすかよ。
―――発動。
「リヴィイイイイイ!」
ミャオの叫び声が響く中、俺とリヴィは波に飲まれ姿が見えなくなる。
リヴィが居た場所にミャオが駆け付け、目を潤ませながら蔦を千切っていく。
ヴィクトリアとヘススはティタニアを見つめ、警戒を解かない。
「……ミャオ?あれ?」
「リヴィ!無事ッスか?」
「……うん。」
蔦が消え、リヴィが姿を現す。
ミャオはリヴィに駆け寄ると怪我が無いか確認するが、かすり傷一つ無かった。
蔦の波が消えると、ティタニアはヘイトを維持している俺に向かってくる。
大盾でティタニアの拳と数本の蔦を捌き、弾いていく。
俺の足元には鮮血がボトボトと落ちていた。
「タスクさん……?」
「……え……嘘。」
ミャオとリヴィの目に映っていたのは、凄惨な姿の俺。
軽鎧の至る所が赤く染まり、足元には水たまり程の血溜まりが出来ている。
リヴィが蔦の波を喰らう瞬間に発動させたスキルの効果でできたものだ。
<守護者>スキル『ライフガーディアン』:対象の傷を自分が受ける。
このスキルは対象の傷を引き受けるため、俺の<
リヴィの<
詰まるところクッソ痛い。
二人してなんて顔してんだよ。
早く攻撃してくんねえかな?
ヘススから飛んでくる『ハイヒール』が痛みを和らげる。
俺も治癒ポーションを咥え、手を使わずに首を傾け器用に飲む。
飲み干した小瓶を吐き捨て、ティタニアの拳をパリィする。
ミャオの方を一瞥すると、戦線に復帰しており弓を引絞っていた。
それでいい。
タンクはこういう職業だ。
いちいち気にしてたらキリがない。
ミャオがティタニアの顔を目がけて放った矢はまたも蔦に逸らされる。
今思えば、蔦にこんな行動はなかった筈だが。
ランダムヘイトの事だけ考えていて気にしてなかったが、この蔦はなんだ?
一本一本に自我でもあるのか?
それとも―――。
「リヴィ!蔦燃やせ!」
「……はいっ!」
<強化魔法・火>スキル『ファイアブースト』:火属性魔法の威力上昇。
威力の上がった『ファイアショット』を、ティタニアの周りを蠢く蔦に直撃させる。
燃えた蔦は地面に引っ込み、鎮火させるとまた地面から伸びてくる。
鎮火する前に燃えていた場所を見てみると少し焦げていた。
やはりな。
ただのフレーバーかと思っていたが、あの蔦はダンジョンに作られた魔物だ。
恐らくボスの眷属的な扱いになってるんだろう。
新しい蔦を生やせる可能性はあるが、蔦の波や細く鋭い蔦のようにティタニアのスキルで作り上げた蔦は効果終了時に消える。
だとすれば……あの大元の一本は倒せるはず。
考えながら、ティタニアと蔦の猛攻を大盾で弾く。
すると、ヴィクトリアは握った拳を解き、手のひらを振り上げる。
<戦士>スキル『スラッシュショット』、俺と戦ってた時の爪撃だ。
放たれた三日月型の斬撃は蔦を目がけて飛んでいき、浅い傷をつける。
「……正解ですわよね?」
俺にクスッと笑いかけてくるヴィクトリア。
燃えた蔦を見て判断したんだろう。
『明月の館』でも思ったが本当に戦闘センスが高い。
間違いなく“あの最上位職”が向いている。
「ああ。正解だ」
言うと同時に、俺とヴィクトリアは駆け出す。
『チャレンジハウル』をティタニアに放ち、ヘイトを固定する。
そして『チェインゲザー』を発動、対象は大元の蔦。
鎖の絡みついた蔦は、地面に倒れ伏す。
倒れた蔦に目がけてヴィクトリアが殴りつけ、ティタニア本体にはミャオが矢を放つ。
ヴィクトリアが蔦を牽制しているので、ミャオの矢はティタニアの弱点である頭にクリーンヒットし始めた。
皮膚が硬いのか刺さりはしないが、傷が付き魔素が漏れ出している。
「チェックメイトですわ」
ヴィクトリアが地面から蔦を引きちぎる。
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