第二章:《終戦行動編》

六十一話:花霊王ティタニア



 俺は戦争の事は良く知らないし、興味もない。

 この戦争が互いの国や大陸にメリット、デメリットがあってやってる事なら首を突っ込む必要もない。

 やりたい奴は勝手にやってりゃいい。


 だが、今回の話は別だ。

 恨み辛みで始めた戦争。

 そして何より、間接的にではあるがヘススが関わっている。

 以前、司教が訪れた時にヘススは明らかにレヴェリア聖国について気にしていた。

 それに差別がここまで酷い物だと思ってなかったのか苦虫を噛んだような表情をしている。


 不安の芽は出来るだけ早めに潰す。

 俺も気になるところがいくつかあるしな。


「他種族は何とかする。魔人種はアザレアに任せる」

「だから陛下は床に臥せておられると言っているだろう!何を聞いていた!」

「先に助ける。だから助けた後の条件を呑め」 

「だが……」


 一騎士に多種族との改善なんて条件、さすがに決められないか。

 だったら、決められる奴を叩き起こして、決めさせればいいな。


「じゃあ助けた後にアザレアと話をさせろ。それでいい」

「それなら……」

「決まりだ」


 ジェラにそう言うと、振り返る。

 なぜか既に野営の準備が終わっていた。

 ミャオとリヴィは座って茶を啜っており、ヴィクトリアはクスっと笑う。


「私も手伝わせて頂きますわ」

「もちろんアタシも手伝うッスよ」

「……私も。」


 話を聞いて火が付いたのだろう。

 よかったな、ヘスス。

 お前の仲間は最高な奴らばかりみたいだぞ。

 俺はヘススの腰を一度軽く叩き、野営地へと歩く。


「おら、飯作るから座ってろ。ジェラだっけ?お前も座れ」

「人間。私に指図するんじゃない」

「皆―――」


 ヘススは少し声を張り、俺たちを呼ぶ。

 全員の視線がヘススに集中すると頭を深く下げる。


「―――感謝する」


 この感謝は素直に受け取っておく。

 いずれ俺の目標に付き合わせる為ではあるが、この言葉はヘススの心から出た言葉だ。

 気にするな、なんて簡単には言えない。

 それは皆も同じだったようで、誰も口を開かず頷くだけだった。

 食事を終えた俺たちは明日潜る『幻惑の花畑』のボスについて話し合い就寝した。




 翌朝、朝食を終えた俺たちはダンジョンに入る。

 一度ボス部屋まで進んだことのあるダンジョンだが、花植物竜は決して弱くない。

 気を抜くことなく、二時間ほどでボス部屋まで辿り着くことが出来た。


「昨日言ったことは覚えているな?」

「大丈夫ッス!」

「……はい。」

「私は問題ございませんわ」


 ヘススは無言のまま頷く。

 今回は事前に『幻惑の花畑』のボスの情報を四人に話していた。

 何故かといえば答えは単純。

 

 からである。


「じゃあ、行こうか。」


 全員の顔が引き締まり、武器を構える。

 ボス部屋である大きな一輪の花、その根元にある扉に力を込めると抵抗なく開いた。

 

 一言で表すなら『神秘的』。


 扉を開けて中へと入ったはずなのに壁は無く、頭上に蒼穹が広がっていた。

 地面には明色とりどりの花が咲き誇り、花弁が舞っている。

 俺たちの入って来た扉は蔦のアーチのような物になっており、景色を邪魔しない。


「……綺麗。」

「凄いッス……」


 その光景にリヴィとミャオは言葉を漏らす。

 視線の先に居たそれは―――。


 孔雀石のような白緑色の長い髪を風に靡かせ、立っている女性。

 白く美しいワンピースからは蝶のような翅が生えている。

 顔や体は人間と同じ姿をしており、目を瞑り佇んでいた。

 ただ、立っているだけのソレは身が凍るほどの魔素を放つ。

 『幻惑の花畑』のボス、『花霊王ティタニア』だ。


 放たれた魔素は『恐怖』のバッドステータスを与える。

 光景を見ていたリヴィとミャオはビクッと肩をあげると構えなおす。


 気を抜くな。

 と言いたいが、この景色を初めて見る人は大体、見とれる。

 そして―――死ぬ。

 俺は咄嗟に大盾をティタニアに向けて構えると衝撃が来る。

 

 一本の蔦。


 鋭く先の尖った蔦が、花の中を這ってくる初撃。

 いわゆる初見殺しってやつだ。

 ……愉しくなってくる。

 ある意味ではティタニアが俺たちにとって、最悪と言われる敵との初戦だ。

 

「行くぞお!」


 俺はティタニアに向けて真っ直ぐに駆け出す。

 ティタニアは瞑っていた目を開くと―――


 咆哮。

 

 蔦攻撃が終わった直後の攻撃パターン。

 ここまでがシステム通りの動きだ。

 いつもなら、開幕と同時に左右どちらかに走る。

 だが、来るとわかっているので真っ直ぐ向かい、四人は俺の後ろに隠れる。

 

 足を止め腰を落とし、大盾を前に構える。

 『オーバーガード』発動。

 突風が俺たちの方へと横方向に渦を巻きながら大盾に衝突する。


 後ろに居た、リヴィは全員に『バフ』系のスキルを掛ける。

 ミャオとヘススも同じように『ミティゲーション』『アイアンハート』を発動した。


 突風が止み、俺はティタニアの左側へ、四人は右側へと駆け出す。

 『チャレンジハウル』発動。

 ティタニアは俺に向け、手を翳すと地面から鋭く尖った蔦が数本伸びてくる。


 大盾に蔦が当たる直前に『インパクト』を発動。

 俺を中心に衝撃波がばら撒かれる。

 伸びてきた蔦は弾き飛び、地面に転がる。

 

 すると『メルトエア』『イーグルアイ』『ジールケイト』『ウィークアタック』の発動を終えたミャオの『パワーショット』がティタニアを襲う。

 翅に直撃した矢はバチンと音を立てて、弾かれる。


「刺さらないッス!」

「違う!風!昨日教えた!」


 ティタニアは風を纏い、防御力を上げている。

 その突破方法は貫通系だ。

 昨日、教えたはずなんだが。

 あの猫め。


 視界の端に見えるミャオに叫んでいると、ティタニアに突っ込んでいくヴィクトリアが見えた。

 『ファスト・ステージ』でギアを入れた状態から『イラ・メドゥラ』で殴りかかる。

 ヴィクトリアの拳は纏った風を物ともせず、ティタニアの横っ腹に打ち込まれる。

 

 ―――が、運がない。

 ティタニアの纏った風が刃となり、可視化する。

 俺の『オートカウンター』に似た、確率で起こる風の自動反撃だ。

 咄嗟に『ポジションスワップ』を対象ヴィクトリアで発動。

 俺とヴィクトリアの居た場所が入れ替わり、風の刃が俺に迫る。


「タスク様!?」

「問題ない、かすり傷だ」


 だが、<RES抵抗力>A+ある上、リヴィにバフまで貰ってる俺に傷付けるとか……。

 ティタニアの<INT知力>ミスってるだろ、運営!

 まだ六等級だぞ、ここ!


 内心で文句を言っているとヘススの『ハイヒール』が発動する。

 傷が徐々に癒えていく中、ヘイトが飛ばないように『チャレンジハウル』を放つ。

 俺の反対側からはミャオが言われた通り、貫通重視の<弓術>スキルを使った。


 <弓術>スキル『ペネトレイトショット』:貫通力重視の射撃。

 

 一直線にティタニアの飛来する矢は、翅に小さな風穴を開ける。

 翅を狙っている理由だがティタニアの纏う風は、背中の翅が微振動することで起こしているのだ。

 そんな厄介な翅を使い物にならない様にする事が、ミャオの仕事。

 

「どこ狙った方がいいッスか?」

「翅!」


 伸びてくる蔦を弾きながらミャオの質問に対し簡潔に答える。

 

「それはわかってるッスよ!?翅のどこッスか?」

「穴増やせ!」

「了解ッス!」


 ミャオが弓を引絞り『ペネトレイトショット』を連発する。

 次々とティタニアの翅に風穴が空いていく。

 徐々に翅がボロボロになっていき、辺りの風が止んだ。

 

「この時を待っていましたわ!」


 ヴィクトリアは『マグナム・メドゥラ』を横っ腹に打ち込む。

 弾かれなかった、という事は纏っていた風は消えた。

 

 ティタニアは嘆くように吠える。



 来たか。


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