五十四話:破壊蜂(上)



 知ってんじゃねえかよ。

 何が我は何も聞いていないだ。

 心の中でツッコむが声には出さない。


「それで何を頼みたいと?」


 俺がそう返すと国王は満足気に一度頷く。


「サントリナの話は聞いておるか?」

「スタンピートの話ですか?」

「ああ。サントリナも王国の領地だ。何とかしてやりたいのだ」


 なるほど。

 サントリナは王都であるシャンドラから早馬でも三日はかかる。

 まだ情報が届いていないのだろう。


「その件なら大丈夫ですよ?」


 ヘススに視線を移すと国王の視線も自然と向く。

 俺と国王にヘススは頷き、口を開く。


「拙僧とリヴィが確認したのである。間違いなく全滅していた」


 ヘススは魔法鞄から亀竜の魔石と素材を取り出しダイニングテーブルに置く。

 国王とテアはガタッと椅子を後ろに飛ばし立ち上がる。

 手に取り魔石や素材を凝視しては置き、何とも言えない表情をしていた。


「これを全てお主らが……?」

「俺たちがやったのは八匹だけです」


 国王とテアは驚いた表情で俺を見る。

 テーブルの上には三十近い亀竜の魔石が置いてあるからだ。

 因みにフェイたち留守番組には<天体属性魔法>の話をした時に、亀竜の話もしているので知っている。

 

「お主ら以外にも七等級の魔物を倒せるものが居る、と?」

「間違いないですね。それに俺たちより遥かに強いです」


 眉を顰め訝しげな目を俺に向ける。

 そんな人物を知らない訳がないとでも思っているのだろう。

 

 この国内で七等級に挑もうとする者はまず間違いなく居ない。

 いたとしても自殺志願者くらいなもんだろう。

 俺たちですらまだ七等級ダンジョンに行く気はないのだ。

 

「お主の知り合いなのか?」

「わかりません」


 その後、国王に当時の状況だけを掻い摘んで話す。

 国王に俺の昔話やかつての仲間の話などはしていない。

 あくまで今回のスタンピートで亀竜と戦った時の事だけを伝えた。


 隕石を落とす魔法が存在すると聞いた時は顔を真っ青にしていた。

 因みに<天体属性魔法>の隕石は魔力で出来ているため、実物を落とす訳じゃない。

 威力は知っての通り亀竜を一撃で屠って余りある。


「お主が言う事が本当なら国が亡ぶのだ」


 だろうな。

 IDO時代、街中の家や店はダンジョンと同じで破壊不能オブジェクトだった。

 だがこの世界では破壊できる。

 もし<天体属性魔法>を使う者が悪人なら、と考えるだけでゾッとする。

 

「その者をお主らで捕らえ……」


 国王も同じこと考えたのだろう。

 だが途中で言葉を詰まらせた辺り、しっかり考えているな。

 もし捕まえようとして、シャンドラ王国に牙を剥かれようものなら絶対に亡ぶ。

 俺はパンと一度手を叩き、口を開く。


「これ以上ある事ない事考えても意味ないのでは?それよりサントリナが無事だったことでも喜んどいた方が幾分いいですよ」

「う、うむ!そうだな!」


 完全に空元気だが、まぁいいか。

 隕石が落ちてきたら諦めるしかないんだし。

 俺は意地でも屋敷は守るけどな。


「そういえば!!お父様!!」


 話がひと段落した所でテアは思い出したかの様に立ち上がる。


「なんなのだ?」

「わたくし、『侵犯の塔』に加入したいのです!!」


 なんて?

 国王の目が点になり、無精髭の生えた口をポカンとあけている。

 国王だけではなく、そこに居た誰もが同じ表情をテアに向けていた。

 我に返った国王は一瞬ハッとした後、テアに言う。

 

「だ、ダメだ!それだけはテアの願いでも聞けないのだ!」


 ブスーっと頬を膨らまし、俺の方を見てくる。

 見られても困るんだが。

 俺はクランマスターだけども。

 国王を敵に回す気はない。


「テア、我儘はダメだぞ」


 俺が味方をしてくれると思っていたのか一瞬驚き、すぐムッとする。

 テアはダイニングを飛び出していき、バタバタと足音を立て二階へと上がっていった。

 恐らく、この場に居ないミャオかリヴィのところに行ったのだろう。

 

「許してやってくれ。ずっと寝たきりだったのだ」

「気にしてないですよ」


 戻ってきたテアは案の定、ミャオとリヴィを連れてきた。

 話を聞いていなかったのか二人は「?」を頭に浮かべていた。

 その後、ミャオとリヴィにも裏切られたテアはトボトボと国王と帰っていった。




 国王の依頼を回避?した翌日。

 朝日もまだ昇っていない早朝、俺は森に居た。

 何故、こんな所に来ているかと言えば数十分前。

 カトルとポルとフェイが俺の部屋を訪れ、寝ている俺を叩き起こしたからだ。

 俺が書いたリストの中に欲しい虫が居たとの事だった。


「なぁ、起きてからで良かったんじゃないか?」

「だめー」


 俺たち四人が転移してきた場所は東大陸、獣人の国近くのダンジョン。

 ダンジョンが目的ではなく、その近くのフィールド、森の中だ。

 その深い森の中の獣道を歩いている。


「タスク兄!!虫取りと言えば朝ですよ!!」

「あー、うん。そだな」


 小学生の頃に行ったカブトムシとかクワガタを捕るみたいに言ってやがる。

 だが、お前らが捕まえようとしてるのは虫だが魔物でもあるからな?

 森の中探すならミャオも叩き起こせば良かったな。

 全然居ねぇ。


 『ブゥゥゥン』


 しばらく歩くと、何かの羽音が聞こえる。

 三人も聞こえたのか、左の前腕に魔鉄製バックラーを付け魔鉄製の長棒を構える。

 フェイは<棒術>を持っているので、同じタンクとはいえ俺とはまるで戦い方が違うのだ。

 カトルとポルはフェイの一歩後ろに下がり、魔鉄の短斧と細く加工された魔鉄糸を持って構える。

 <斧術>と<糸操術>を持っている双子も自分に合った武器を使っているようだ。


 ここ最近見てあげられてなかったからな。

 お手並み拝見と行こうか。

 俺、盾無いし。


「フェイ、ガード!!」


 カトルが声を上げるとフェイの体が淡く発光する。

 <指揮官>スキルか。

 一言で防御上昇効果発動って化け物かな?

 

 ガードをしたフェイのバックラーに飛んできた細長い円錐型の針が当たる。

 飛んできた針の先に本体は居た。


 黒色に黄色のストライプ柄の腹部。

 その先端からは鋭い円錐状の針が生えてくる。

 胸部には四枚の透明な翅が生えており、羽音を鳴らしながら飛んでいる。

 人の腕程度なら簡単に噛み千切ってしまいそうな顎でガチガチと音を出し威嚇してくる。

 全長一メートルほどの蜂、『破壊蜂デストロイビー』。

 リストに書いた一匹だ。


「…………。」


 破壊蜂デストロイビーを見たポルは俯きプルプル震えている。

 もしかして……。

 好きじゃなかった感じか?


 破壊蜂デストロイビーは飛びながら腹部をこちらに向けると、針が腹部から離れ飛来する。

 カトルの指揮に従い、フェイは針に向かってバックラーを構え前進する。


 <騎士>スキル『プロテクシールド』:盾の強度増加。

 発動、飛来した針はバックラーに当たり、弾かれ地面に落ちる。

 カトルが離れた位置で短斧を振り上げ、破壊蜂デストロイビーに向けて振り下ろす。

 以前、ヴィクトリアが使った爪撃か。


 <戦士>スキル『スラッシュショット』:斬撃を飛ばす。

 発動、カトルが振り下ろした短斧から三日月型の斬撃が飛ぶ。

 空中で身を翻しながら、破壊蜂デストロイビーは躱す。


 

 破壊蜂デストロイビーの上で何かが光る―――


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