五十五話:破壊蜂(下)



 カトルのスキルを躱した破壊蜂デストロイビーの上空。

 <糸操術>スキルを使い、木の上に登っていたポルは飛び下りる。

 両手の指先から伸びた細い魔鉄糸を朝日でキラリと光らせながら、破壊蜂デストロイビーに襲い掛かる。


「アハハハハハッ!蜂かっこいーーー!」


 ポルは見た事がないほど口角が吊り上がっており、無機質な目は真っ直ぐ破壊蜂デストロイビーを捉えていた。

 

 怖ッ!

 震えてたの何だったの?

 まぁ、欲しいから来たんだもんな。

 うん、それでも怖いわ。


 <糸操術>スキル『動』:糸を操る。

 <糸操術>スキル『斬』:糸に斬撃を加える。

 同時発動、ポルは宙を舞いながら右腕を振り下ろす。


 シュッと風切り音が聞こえると、破壊蜂デストロイビーの体の至る所に傷がつき、青い血が飛び散る。

 手数が多い上、威力もある攻撃だが敵意ヘイトはしっかりフェイが『ナイトハウル』を使い固定している。


 <糸操術>スキル『縛』:糸を結ぶ。

 発動、振動していた片方の翅が止まる。 

 飛んでいた破壊蜂デストロイビーは翅を細い魔鉄糸で縛られ、自由落下する。

 ポルは左手から伸びる糸を操り、自由落下する破壊蜂デストロイビーに乗り、カトルの指示と同時にフェイの方へと蹴り飛ばす。


 <騎士>スキル『ランページ』:突進攻撃。

 発動、バックラーを構え、狙いを定める。

 刹那、飛んでくる破壊蜂デストロイビーの頭部目がけて突進する。


 ゴリッと鈍い音が鳴り、バックラーが破壊蜂デストロイビーの頭を捉え、吹っ飛ぶ。 

 吹っ飛んだ破壊蜂デストロイビーは地面に何度かバウンドした後に止まり、ピクピクとしている。

 

 さすがに破壊蜂デストロイビー相手でも苦戦はしないな。

 三人揃って、庭でよく修練してるだけはある。

 レベルも上がって来たしな。

 って、感心してる場合じゃない。 


「お前らストップ!殺す気か!?」


 君たち忘れてない?

 テイムしに来たってこと。

 

 テイムとは言ってしまえば飼い慣らす事。

 <調教師>のスキルである『テイム』はせいぜい家畜を飼い慣らすのが限界である。

 だが、<調教師>の上位職であるポルの<虫遣い>は虫種の魔物のみだが普通の『テイム』とは違うテイムが可能になる。


 それは『契約』と呼ばれている。


 契約にはテイムとは違う点が存在する。

 契約した魔物は契約者が好きな時に呼び出せるため、連れて歩かなくて良くなる。

 転移先や、ダンジョン内部までも呼び出し可能という強力なものだ。

 もちろん連れてくるだけではなく、元の場所に帰すことも可能だ。


 そして『契約』に必要な物は二つ。


 一つ目は、HPを削ること。

 言ってしまえば主と認めさせる事だ。

 だが、この世界のフィールドで生きている魔物は実際に生きている。

 なので、認めさせさえすればゲームの時ようにHPを削る必要はないかもしれない。


 二つ目は、<LUK幸運>。

 IDO時代はシステム上で成功確率が設定されていたため、相手のHPを1だけ残して<LUK幸運>がSだからと言って、絶対に契約が成功することは無かった。

 逆にしない事の方が多かったくらいだ。

 クソ運営め。

 だが、もしも一つ目の理由と同じで主と認めさせることが出来れば、<LUK幸運>もいらなくなるかもしれない。

 要検証だな。


 まぁ、ポルに検証を任せたりはしないが。

 <LUK幸運>も上げさせてるし、順当にHP削るのが一番だ。

 変な事させるのは危ないし。

 

「もういーの?」


 ポルがトコトコと俺に近付いてくる。

 

「十分だ。教えた通りやってみろ」


 ポルはコクリと頷き、倒れている破壊蜂デストロイビーに近付く。

 

 <虫遣い>スキル『テイム』:虫種の魔物をテイム出来る。別称、契約。

 発動、破壊蜂デストロイビーを淡い光が包む。


 『パリィン』


 淡い光はガラスの割れたような音と共に霧散する。

 倒れていた破壊蜂デストロイビーはこちらを睨むように顔を動かす。

 

「あれ?なんでー?」

「飼い慣らすだけのテイムと、従わせるテイムじゃ違うんだ。絶対成功するわけじゃない」

「そーなの?じゃーどうするの?」

「チャンスは一匹につき一回だ。次の蜂を見つけに行くぞ」

「はーい」


 返事をしながら片手を挙げると、ポルは歩き出す。

 俺たち三人も続いて、森の奥へと進んでいく。


「あのままで良かったんデスか?」


 歩いている途中フェイが首を傾げながら話しかけてくる。


「ん?蜂の事か?」

「ハイ」

「いいんだ。無駄な殺生は好きじゃない」


 こちらの都合で縄張りに入っておいて、仲間にならなかったら殺す。

 なんてことは魔物相手でもしたくない。

 仲間になってくれないなら次を探せばいいだけだ。

 ダンジョン内は別だが。



 しばらく歩き続けたが二匹目がなかなか見つからない。

 という訳で、三人を森に残し俺は屋敷に戻ってきた。

 ダイニングに入るとゼムと森に居る三人以外の全員が座っていた。

 

「おはよ」


 ニッコリ笑顔で俺がミャオに話しかけると逃げ出そうとする。

 が、俺は既に肩を掴んでおり外せない。

 

「嫌ッス!何の用事か知らないッスけど嫌ッス!リヴィ助けて!」


 暴れるミャオをしっかりとつかむ。

 助けを求められたリヴィはミャオから目を逸らしている。


「リヴィ……?」

「……ごめん。」


 リヴィは行先を知っており蜂が嫌いなのだ。

 ハハハ。

 残念だったなァ。

 

「タスク様?私は連れて行っては頂けませんの?」

「あ?いいけど森の中で昆虫探しだぞ?」

「構いませんわ」

 

 俺はアンに四人分のサンドイッチを貰うと、ミャオの首根っこを掴みヴィクトリアと三人で森近くのダンジョンへと転移する。

 視界が切り替わると、既に三人はダンジョンの前で待ってくれていた。


「ミャオ姉!!手伝いお願いします!!」

「ミャオ姉ちゃん。おねがい」

「お願いしマス!」


 ミャオを見るなり、三人は勢いよく頭を下げる。

 

「うー。わかったッスよ。手伝うッス」


 仕方ないかのように言うミャオ。

 だが、もとより手伝うつもりが無かったら転移してこなかっただろう。

 なんだかんだ面倒見のいいやつだ。

 リヴィの背中押してるのもこいつだしな。


「ところで、ヴィクトリアは何で来たんだ?」

「タスク様とデートをするためですわ」

「…………」

「結構ですわ」


 無言で転移スクロールを渡すと断られた。

 まぁ、ヴィクトリアはあの三人の修練を見ているのをちょくちょく見る。

 こいつもこいつで面倒見がいいのだろう。


「じゃあ、行くッスよ」


 ミャオとフェイを先頭に森の中に入っていく。

 その後、夕方まで破壊蜂デストロイビーを探しは続いた。

 数十匹と戦い、ようやく契約することが出来た。


 のだが……。

 ポルが俺にステータスウィンドウを見せてきた。

 ポルのステータスかと思い、覗き込むと―――


――――――――――――――――――――――――

【破壊蜂】

<名前>なし

<レベル>1/50

<種族>虫種


【スキル】

下位:<飛針><噛付><飛行>

上位:<毒針>

――――――――――――――――――――――――



 ステータス見れるだと!?


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