五十三話:徹宵話
「―――以上だ」
俺の事を話し終える時には朝方になっていた。
それなのに眠そうにしている者は誰一人おらず、皆一様に俺の話を真面目に聞いてくれた。
「……てことは未来から来たって事っスか?」
そう、この世界についてだけは濁して話していた。
ミャオたちが住んでいるこの世界が、娯楽内の世界だったとは言えず未来から来たという事にしたのだ。
だからこそダンジョンやアイテムなどの情報を多く持っている、と言ったら納得してくれた。
ゼムだけは少し納得のいかないような顔をしていたが、初めて会った時にアレコレ聞いたからだろう。
「まぁ、そういう事だ。他に質問があるやつはいるか?」
「……前の仲間も来てるの?」
少しだけ目尻に涙を浮かべたリヴィが聞いてくる。
「来てない。とは言い切れない。だが昨日見た隕石は間違いなく、かつての仲間の<天体属性魔法>だ」
「……前の仲間が居たら私はいらない?」
「あ?なんでそうなる?今はお前たちが仲間だろ」
リヴィはコクコクと頷き、そのまま顔を伏せてしまう。
すると、隣に座っていたヴィクトリアが口を開く。
「そうですわね。もしもタスク様を連れ戻しにいらっしゃるなら、私がお相手致しますわ」
「百パーセント負けるぞ」
俺の言葉にヴィクトリアがニコリと笑う。
だから怖えよ。
だが、今のままじゃ手も足も出ないのは事実だ。
ダンジョンでレベルを上げて、装備を揃えて、メンバー追加して、ってやること多いな。
そうこう考えていると、一人の手がピンと挙がる。
「質問!!タスク兄の生まれた未来って行けるんですか?」
「あ、私も行きたーい」
カトルとポルが興味深々といった風に聞いてくる。
「行けないとは言い切れんが、この時代の方が愉しいぞ?」
「それでも行ってみたいですよ!!冒険です!!」
「そーだそーだ」
これ以上問答すると駄々を捏ねてきそうなので放置。
探しに行く!とか、一緒に行こう!とか言われたら困る。
ただでさえ今までの親が自由人だったようなので、なかなか好奇心旺盛に育っている。
冒険者にとってはいい事なんだがな。
「何処にもいかないですよねっ?」
「出ていっちゃ嫌ですぅ」
アンとキラが俺の両肩から顔を出す。
「居なくなったりしねぇよ。それに二人が居ないと困る。もちろんバトラもだぞ」
「恐縮でございます。私共も屋敷を出られるのならば付いて行きたいものですが……」
「今のままで十分だ」
居ないと困ると言った瞬間、姉妹は嬉しそうに飛び着こうとするがスカ。
思念体は無機物を魔力で掴むことは出来る。
だが生者に触ることは出来ないという。
何故かは俺もわかっていない。
「そういや、フェイは『塔』のメンバーに勝手に入れたが良かったのか?」
「大丈夫デス。ワタシも『塔』の一員になれて嬉しかったデス!」
うーむ。
そう言ってくれるのは嬉しいのだが、そういう話ではない。
俺の過去話している時にふと気になったのだ。
ベルアナ魔帝都に家族が居るんじゃないか、と。
カトルとポルの親はダンジョンで亡くなっていたし、他のメンバーは成人してる……よな?多分。
「そうか。でも帰りたくなったら言えよ?」
「ハイ!」
フェイは満面の笑みで答える。
まぁ、フェイが良いならいいんだが今度ベルアナに連れて行くことにしよう。
その後、他にも幾つか質問を投げかけられた後、全員で朝食を摂り就寝した。
昼過ぎに起き、ダイニングに行くと既に何人か起きてきていた。
俺はいつもの席に座ると、ゼムが話しかけてくる。
「お前さん。大盾の替えは持っとるのか?」
「いや、今使える物は持ってないな」
「そうか。ならワシに作らせろ。三日もあれば作り上げるわい」
「ん。任せた」
ありがたいな。
俺の武器防具を作るのは最後で良いとは言ったものの、大盾は木端微塵にされたので正直どうしようか困っていた。
それがなくとも、亀竜との戦いで所々凹んだり欠けていたりしたので修理はしてもらうつもりだったのだ。
それならばゼムの修練にもなるので作ってもらおう。
という事は……だ。
「三日間お休みなんですねっ」
「そうだな」
「なにするんですかぁ?」
やはり来たか、姉妹。
昼食を運んできた後、後ろで俺とゼムの会話を聞いていた。
「特に予定はないかな」
アンとキラの顔にパッと花が咲く。
早速、俺の休日が一日溶ける事が決定した。
遅めの昼食を終えた俺は、休日の事を考えていた。
丸一日は姉妹に付き合うとして、あと二日間は何をしようか。
この世界に来てからダンジョンの事ばかり頭にあったが、最近ではいろいろ遊んでみたい気持ちが出てきた。
もちろんダンジョン優先だが。
うんうんと唸っているとダイニングの扉が開く。
入って来たのはフェイ、カトル、ポルの三人だった。
俺の姿を見た瞬間、ポルがタタタっと小走りで近付いてくる。
「おはよー」
「おはよ」
「タスク兄。強い虫教えてー」
虫か。
フィールド上の魔物はIDO時代から専門外なんだよなぁ。
ダンジョン内の魔物なら幾らでも教えられるのだが。
「あまり期待はするなよ?」
紙をインベントリから取り出し、いくつか候補を書いて渡す。
虫の名前だけでなく、能力や攻撃方法などをわかる範囲で書いた。
「ありがとー」
紙を受け取ったポルは席に着き、テーブルに置いて眺めている。
その横からカトルとフェイが覗き込み、三人で話をしていた。
出来るだけ三人と相性が良さそうな虫を書いてみたので、是非テイムしてほしいものだ。
話し合う三人を眺めながら紅茶を啜っていると、屋敷の呼び鈴が鳴る。
俺は立ち上がり、玄関ホールへと向かい扉を開ける。
扉の前には金色の髪を風で揺らしながらテアが立っていた。
「どうしたの?」
「遊びに来ました!」
この子、仮にも次期国王だったよな?
病気で外に出られなかった反動なのだろうが、程々にしないと近衛が大変そうだ。
「どうぞ?」
「お邪魔します!」
テアは屋敷に入ると、慣れた足取りでダイニングに入っていく。
俺も追うようにダイニングへ入ると、ポルに渡した紙を四人で眺めてワイワイ話し合っていた。
テアが次期国王じゃなかったらアタッカーとして加入しても良かったかもしれない。
俺がしばらく書き物をしていると、テアが真っ赤な顔で足音を荒げ近寄ってくる。
「タスク様!クラン設立したって本当ですか!?」
「うん。したよ?」
「なんで教えてくれなかったんですか!?」
そういえば言ってなかったな。
さっき加入云々考えてたのに忘れてた。
どうしよ、なんて答えたもんか。
「すまん。知ってると思ってた。国王なら知ってたんじゃないか?」
すまん、国王。
帰って娘に謂れの無い説教を受けてくれ。
「我は何も聞いていないのだ」
聞き覚えのある声に振り向くと、ダイニングの扉を閉めている途中の国王が居た。
だからなんで居るんだよ。
国王と次期国王が気軽に平民の家に来るなよ。
「居たんですね。何か用があるんです?」
「いつも言っておるのだ。テアの付き添いだ」
「なるほど」
テアを一瞥するとプクっと頬を膨らませていた。
うん、テア絡みじゃなさそうだな。
国王に視線を戻し、口を開く。
「で、本当の要件は何ですか?」
「頼みごとがあるのだ……」
今回のは断る案件だ。
俺には今、大盾がない。
それに、テア関係じゃないとなれば間違いなく国絡みの厄介事だ。
「ことわ―――」
「お主ら『侵犯の塔』にな」
こいつ。
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