八話:誘因(下)



 俺は話を続ける。


「俺が三人を本気で鍛え上げれば、難易度十等級は無理でも八等級や九等級までは絶対に行けるようになる。ここに居る全員のレベルも上限の100まで上げるつもりだ」


 俺がそう言うと、ミャオが眉を顰めて聞いてくる。


「でも、さっきは十等級を攻略するって言ったッスよね?」

「ああ。だが難易度十等級を攻略するためには少なくともここに居るメンバーの他に、あと三人は仲間が欲しい。というか絶対にいる」

「どういうことッスか? パーティを組めるのは最大で五人までッスよ?」

「そうだな。だけど、さっきゼムが自分で言っていたが、本来は鍛冶師スミスなんだ。難易度十等級を攻略するならゼムに変わりに強力なアタッカーが一人欲しい」

「なるほどッスね。じゃあ、あと二人は何なんッスか?」

調薬師ファーマシスト遊び人プレイマンだ」


 二つの職業名を聞いた三人の表情が曇る。


 それも当然の事である。

 調薬師ファーマシストはともかく、俺は遊び人プレイマンが必要だと言ったのだ。


 この世界で遊び人プレイマン冒険者シーカーをしていること自体少ない。

 というのも、遊び人プレイマンというだけで煙たがられるからだ。

 

 何故か。

 理由は簡単。

 使えるスキルが殆ど無いからだ。


 だが、しかし、だ。

 遊び人プレイマンは昇格した後にこそ開花する。

 遊び人プレイマンの優秀さををこの世界の人間は知らないのだけなのだ。


 まあ、今、説明しても説得力無いのでしない。

 遊び人プレイマンが仲間に加わった時に驚くと良いさ。


「話が逸れたので戻すぞ。繰り返すようだが、俺は本気で難易度十等級のダンジョンを攻略したい。そのためにお前たち三人の力を貸してほしいんだ」


 この世界に住む者なら誰でも知っている。

 難易度十等級ダンジョンなど、入るだけで棲まう魔物や苛烈な環境などに瞬殺されてしまうような場所だと。

 決して人の身で立ち入って良い場所ではないと。


 しかし敢えて言わせてもらおう。

 その認識は否、断じて否だと。


 人の身じゃ敵わない? 誰が決めた。

 難易度十等級ダンジョンだろうが、何だろうが、知識と経験さえ積めばどうにかなる事の方が多い。


 だからこそ、俺は諦めん。 

 そしてこの三人も諦めん。

 こんな優秀な人材を逃がしてたまるものか。


 俺はミャオに真剣な表情を向け口を開く。


「ミャオ。俺たちのパーティのを任せたい」

「へッ!? アタシ盗賊シーフッスよ!? ダメージなんて出せないッス! アタシは索敵と罠解除しかできないんッスよ……。戦闘では逃げ回ってばっかでほんとに役に立てないんッスよ……」


 自虐めいていくにつれ、自分で言ってて悲しくなってきたのか言葉が尻窄みになっていく。


 ここまで言うとは何かあったのだろうな。

 まあ、そんなことは知らん!


 俺は真っ直ぐミャオの目を見て言う。


「断言する。ミャオなら絶対に出来る」


 ミャオは下を向き口を噤む。



 言いたい事は言ったので俺は視線をリヴィに移す。

 表情は未だに青ざめたままで、俺と目が合うとビクッと肩を竦め目を逸らしキョロキョロと瞳を泳がせた。


「俺はリヴィを含めて八人の魔法使いウィザードと面接をして、全員のステータスを確認した。その上で俺はリヴィを選んだ。この意味が分かるか? 俺は言ったな。一切妥協していないと」

「……はい。」

「リヴィは他の魔法使いウィザードが持ってない才能を持っている。俺たちのパーティのを任せたい」

 

 バッファーとは、パーティの要と言っても過言ではない存在だ。

 味方ステータスの強化や敵ステータスの弱化をはじめ、多彩な行動阻害や状態異常を敵にばら撒きパーティを何倍にも強くする支援役。


 リヴィにはその才能の種、<無属性魔法>がある。

 それを燻らせておくのは勿体ない。


 しばらくして相変わらずの小さな声で呟く。


「……アタッカーじゃなくて……いいんですか?」

「リヴィにアタッカーはまず向いてない。バッファーでこそ光る」


 これでリヴィにも言いたい事は言えた。

 次で最後だ。



 俺は視線をヘススに移す。


「拙僧はヒーラーであるか?」

「ああ」

「拙僧はヒーラーよりアタッカーの方が得意であるぞ?」

「ステータス見りゃわかるよ。今はそうだろうが、絶対に俺の思い描くヒーラーの方が向いてる。ヘススも気に入るんじゃねえかな?」


 最上位職の説明しようと思い昇格スクロールを手渡す。

 ヘススが題簽に書かれている文字を見た瞬間――「任されたのである」と言った。


 は? 俺、まだ何も言ってないんだが?


 突然の承諾にミャオとリヴィが驚き、勢いよく顔を上げてへススを見ていた。


 ヘススに渡した最上位職のスクロールは、字面だけでは内容を理解しづらいと思うんだけどな……。


 まあ、いいか。

 理由はどうあれ、まずは一人だ。


 うーん……ミャオはともかく、リヴィの最上位職は説明がしやすい。


 よし。

 リヴィ行くか。

 

 俺はリヴィに最上位職の昇格スクロールを手渡し、事細かに説明していく。

 すると話しているうちに少しずつではあるが、ビクつき青ざめていた表情が徐々に変わっていった。

 そして話し終わる頃には真剣な表情で昇格スクロールを見つめ「やってみたいです」と小さく呟いた。


 よし。

 これで二人。


 その様子を見ていたミャオは訝しげな表情で俺を見てくる。


 ハハハ。

 すっごい警戒してる。

 俺が詐欺師にでも見えてんのか? だが関係ない!


 俺は最上位職の昇格スクロールを片手に堂々と近付いていく。


 逃げられた。

 ……が、逃がさん。


 ゼムを一瞥すると小さくため息を吐き、出口を抑えてくれた。

 

 俺が部屋の隅に追い詰めると、耳を折り畳むようにして両手で塞ぎ、目を閉じ俯きながら座り込む。


 往生際が悪いな。

 俺の<STR>はC-、ミャオの<STR>はD、その行動が無意味なのは火を見るよりも明らかだ。


 ……まあ、何もしないんだけどね。


 俺はミャオの前に片膝を立てて座る。

 そして、数分間じーっと待っているとミャオは目を開け、俺の方を見た。


「説明だけでも聞いてみないか? これが最後だ。聞いた上で本当に嫌なら辞退してくれて構わない」

「……わかったッス。聞くだけ聞くッス」


 少し悩んだ後、聞くことを選択したミャオに最上位職の説明をしていく。

 しかし、説明を聞き終えても浮かない表情をしていた。

 どうしても自分がアタッカーをしているというイメージが湧かないのだろう。


「騙されたと思ってやってみないか?」


 ミャオは無言のまま小さく頷く。


 よし。

 一応、これで三人確保した。

 後は俺の言ったことを実現させて、証明するだけだ。

 俺について来れば、誰も見た事も無い景色が見れる、と。



 俺は立ち上がり元の席に戻る。

 それを見たミャオも元居た場所に座った。


 俺は全員を見ながら、最後にどうしても言っておかなければならないことを伝える。


「俺から焚きつけておいてなんだが、レベル上げは正直、キツいと思う。それに最悪死ぬかもしれん」


 ヘススは無表情で、リヴィはおろおろとして、ミャオは浮かない顔で俺を見てくる。

 俺の横では一度レベル上げを経験したゼムがウンウンと顔を上下させていた。


「だがな……。俺がタンクで、俺が生きてる以上は絶対に誰一人死なせないと約束する」


 俺の言葉をきいた全員は一様に驚いたような表情で俺の顔をガン見してくる。


「何か変なこと言ったか?」

「いや、タスクさんが笑うところ初めて見たッスけど、なんか不気味……てか怖いッス」


 ミャオの言葉にリヴィがコクコクと頷く。


 おん? こいつら失礼ではないか?

 

 俺はコホンと一度咳ばらいをして、三人の方を見ながら――。


「俺からは以上だ。改めて聞くが、俺と来るか?」


 右手を差し出す。


「付き合うのである」

「……行きます。」


 先ほどの事もあってか全員がミャオを見る。


 ミャオは俯いていた。

 が、すぐに顔を上げ、ニヤッと笑う。


「……行くッス! アタシにアタッカーが勤まるかわかんないッスけど……タスクさんを信じてみるッス」


 よぉぉぉし。


 内心でガッツポーズを決める。

 了承がもらえたところで三人のギルドカードを受け取り、全員で一階へと降り受付嬢にパーティ登録をしてもらった。

  

 その後、個室に戻り、これからの話をする。


 現状ミャオとゼムがアタッカーだが、まだ火力攻撃力が足りていないので、上位職に上がるまでの間だけという約束でリヴィとヘススにも攻撃に参加してもらう旨を伝えると了承してくれた。

 


 これで、ようやく本格始動フルパーティだ。

 

 

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