九話:買い物

 


 個室の鍵を返した俺たちはギルドの一階のテーブルに座り、全員一緒に昼食を摂っていた。


 もちろん、俺の奢りで。

 

「早速、明日から泊まり込みでダンジョン行くぞ。モグモグ。予定が入ってる奴はいるか? モグモグ」

「ワシに予定はない。というか食べるか喋るかどっちかにしろ!」

「ア、アタシも大丈夫ッス!」

「……私もです。」

「拙僧も問題ないのである」

「ゴクン。なら、食べ終わったら買い物に行こうか」


 予定も決まった所で昼食を終え、ギルドを出る。


 先ずはテントを買いに行くことにした。


 代金はもちろん、全て俺が持つ。

 なんせIDO時代からの貯金が腐るほどあるのだ。

 こういう時に使わなければ、いつ使うというのか。



 ――街中を歩き続ける事十数分。


 俺たちは大きなアウトドア中心の商会にやって来た。

 店に入ると、中には安っぽいテントから魔物の皮で作られたそこそこ丈夫なテントが複数陳列されている。


 俺は即決で一番丈夫なテントを二つ購入した。

 ここでの用事はテントだけだったので、店内から出ようとすると気になるものが目に入る。


 ん? なになに? 魔物の嫌がる周波の音を放つ魔道具だと? ……ほう。


 俺は試しに起動させてみた。

 そしてミャオの方をチラッと見ると、目と目が合う。


「どうしたッスか?」

「いや。何でもない。気にするな」

「魔物が嫌がる周波の音を出す魔道具? ……ッ!? なんでさっきアタシを見たッスか!? タスクさんはアタシの事を魔物だと思ってたッスか!? 酷いッス!」

「そ、そんなわけないだろ」

「絶対に嘘ッス! ばっちりアタシと目が合ったッスよね!?」

「俺が嘘なんて吐くわけないだろ。俺の目を見ろ」


 ジト目で俺の目を覗き込んでくるミャオは一度「はあ」とため息を吐き、諦めたような表情をする。

 

「もうわかったッスよ。そういう事にしとくッス」


 よし。

 本当に効果があるのかわからないが、寝るとき用として魔物除けの魔道具を一つ購入した。


 それにしてもIDO時代はテントやこんな魔道具はなかったはずだ。

 街中を見て回るだけでも新しい発見ばかりで楽しいもんだな。



 次に市場へとやって来た。


 野営時の食材を見て回るためだ。

 とはいえ食材だけ買っても仕方がないので、ナイフや鍋などの調理器具や調味料は既に一通り揃えた。

 その後、とりあえず一週間分の食材を買う事にし、それぞれ好き嫌いがあると思うので聞いてみることにする。


 まずはミャオ。


「魔鹿か魔羊のお肉が大好きッス!」


 うん。

 まあ、猫だもんな。

 一応、肉食だし。


 次にヘスス……と、思ったらどうやらリヴィも同じだったようで同時に答えてきた。


「拙僧は菜食である」

「……私もです。」


 うん。

 リヴィはわかる。


 だが、ヘスス。

 お前、竜人だよな? 恰好だけじゃなく中身まで修行僧なのかよ。


 うーん……こうして実際に聞いてみたらやっぱり色々とわかるもんだな。


 これからは一緒にダンジョンやフィールドを駆ける仲間の事はもっと知っておきたいという気持ちがある。

 何が好きで何が嫌いかは特に知りたいところだ。


 結局、買った食材は現実世界と殆ど同じ物にした。

 売っている中に魔物の肉・魔物から採れた野菜・魔物キノコなどがあったのだが、いざ食べるとなると怖い。

 といいつつも、少し気になったので魔物食材も買ってしまったのだが。 



 最後に魔道具専門店に足を運んだ。


 店内にはいろいろな魔道具が陳列してあったが、俺はお目当ての物が置いてある棚へと一直線に進んでいく。


 見つけた。

 魔法鞄マジック・バッグだ。


 魔法鞄マジック・バッグとは見た目とは異なる容量の物が収納可能な鞄の事である。

 俺の持つインベントリとは違い、容量はそこまで大きくない上、中に入れている物は劣化するがそれは些細な事だ。

 ダンジョンから帰る時に麻袋をいくつも抱えてギルドに行くのは億劫なので、昨日から購入を決めていた。


 せっかくなので、四つ購入し全員に渡す。

 俺の分を買わなかったのはインベントリがあるから。

 決してドロップ品を集めるのが面倒だった訳ではない。

 本当です。



 こうして買い物を終えた俺達は一度、ゼム以外の三人が借りている宿へと行き装備品を回収する。


 その後、通りから外れた裏路地のマンホールを持ち上げ中に入る俺とゼム。

 それを眺めている三人は微妙な表情をしていたが俺たちに続く。 

 降りた先の扉を開け店内に入って来た三人は壁に掛けられた武器や防具を見て驚き、俺とゼムに向けていた微妙な表情は消え、店内を見て回っていた。


 出発の準備を済ませていると、ミャオが話しかけてくる。

 

「ところでどこに行くんッスか?」

「ましらの穴倉だけど」

「「「「!?」」」」


 『ましらの穴倉』は難易度三等級の洞窟型ダンジョン。

 出現するのは猿猴種、『洞窟猿ケイブモンキー』のみ。

 洞窟猿ケイブモンキーは四種類? 四色? 存在しており、体の色によって火・水・風・土の属性魔法を使用してくる上、弱点属性も違う。

 明記こそ三等級ではあるが、四等級といっても過言ではないようなダンジョンである。


「本気ッスか!? レベルが全然足りてないッスよ!? アタシのレベルまだ18ッス! タスクさんも確か19だったッスよね!?」

「……私なんて8です。」

「拙僧は問題ないのである」

「ワシも問題ないが、嬢ちゃんたちにはキツいじゃろ」

「大丈夫。たかが三等級だ」


 それに、格上と戦わないと経験値はほぼ入ってこない。

 俺・ミャオ・リヴィは難易度二等級でも十分な経験値が入ってくるが、一緒に付いて来ているのにゼム・ヘススが育たないのは勿体ないだろう。


 それならゼムとヘススの適正に合わせたダンジョンに行った方が全員が育つし、レベルの低い三人の取得経験値量も増える。


 一石二鳥。

 パワーレベリングこそが正義だ。


「ところで馬車は手配しなくてよかったッスか? ましらの穴倉って結構遠かったッスよね?」

「それも大丈夫だ」


 俺は全員に一巻ずつスクロールを手渡す。


「お前さん、転移スクロールいくつ持っとんじゃ」

「三桁ほど」

「「「!?」」」


 俺たちの会話に三人が驚きの表情を浮かべる。


「……いいんですか? ……こんな高価な物使って。」

「そうッスよ! 買い物といい、高価なスクロールといい、タスクさんはアタシらにお金かけすぎッスよ!」

「は? 少ないくらいだろ。死ぬかもしれないような俺の我儘に付き合わせるんだぞ? その程度させてもらうわ。これは決定事項だ。それにさっきも言ったけど転移スクロールの在庫は三桁ある」

ぬしは何者であるか……」

「タスクだ」


 そう返しながら、念のための治癒ヒールポーションと魔力マナポーションを詰めたポーチを全員に渡したら呆れられた。


 何故なのか。


 ん? デジャブを感じた。


 そして、時刻は夕方。

 時間が勿体ないので早速、ゼムの店から転移する。


「「「「「転移、ましらの穴倉」」」」」


 俺たちの視界が室内から一瞬にして変わり、岩肌が剥き出しになった崖になる。

 目の前には『ましらの穴倉』の入り口が、大きく口を開けていた。

 入り口から少し離れた場所に移動し、インベントリから王都で買った物を取り出す。


「こんなダンジョンの近くで野営して大丈夫なんッスか!?」

「ダンジョン内の魔物はに外に出てこないから大丈夫」


 そう。

 には出てこない。

 この世界ではまだわからないが『』が起こるなら出てくる。

 それはまた別の話だが……起きて欲しくはないなあ。


 そんなことを考えながら、野営の準備に取り掛かる。

 初めてテントを組み立てたが<DEX器用さ>が物を言うようで、サクっと組み立てることが出来た。

 そして、野営の準備が終わり、全員にフル装備をさせる。


 今日はやめよう? 否。

 明日に備えよう? 断じて否。

 眠い? 甘えるんじゃあない。



 いざ――突貫。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る