六話:面接



「「転移、王都シャンドラ」」

 

 『嘆きの納骨堂』を二周したところで夜になり、俺たちは王都へと戻ってきた。

 肩に魔石と素材がパンパンに入った麻袋を抱え、冒険者シーカーギルドへ向かう。


 俺たちが麻袋をカウンターに載せると受付嬢たちは目を白黒とさせていた。

 その光景を遠巻きに見ていた他の冒険者シーカーたちは、俺たちがカウンターから離れた後、ぞろぞろと集まり受付嬢たちと共に中の魔石や素材を見て絶句する。


 量が量だったので、査定してもらっている間に食事を済ませてしまおうと料理を注文し、ギルドにいた冒険者シーカーたちに料理一品とお酒を一杯、各テーブルに奢った。


 よくあるやっかみやトラブルなどを避けるための行動だ。

 他意はない。


 料理とお酒がテーブルに運ばれてきた冒険者シーカーたちは、俺たちの方を向き笑顔で手を振ってくるので、手を挙げて応えておいた。


 食事を食べ終わる頃、丁度良く査定が終わり受付嬢がお金を持って走ってくる。

 骨のドロップした闇の魔石は使い道が少ないという事もあり安価だったが、骨の素材は畑の肥料など様々な用途があるため、二人で分配しても結構な金額で売ることが出来た。


「こんなに貰って良いのか!?」

「ん? 何が?」

「お金じゃよ。ワシはそこまで働いとらんぞ」

「何言ってんだ。ゼムが居なかったら二周も出来なかったぞ。いいから貰っとけ」

「……わかったわい」


 ゼムは本当に良い働きをしてくれた。

 タンク職である俺は、どうしても火力が出ない。

 その分を補ってくれたのだ。

 均等に割るのは当然の事だろう。


 換金も終わった所で俺たちは受付嬢にお礼を言い、他の冒険者たちに軽く手を挙げながらギルドを出る。

 お腹も膨れ、後は寝るだけだ、と思った時に気付いた。

 

 全く考えてなかったけど、宿……どうしよう。

 いつもの如く、後先考えずに行動してしもた。

 『いにしえの皇城』まで戻るのも転移スクロールが勿体ないしな。


 そんなことを考えていると、ゼムが俺の顔を覗きこんでくる。


「どうしたんじゃ?」

「いや、宿をどうしようかなと思ってさ」

「とってないのか? ワシの家でよけりゃあ泊まってけ」

「いいのか?」

「いいぞい」

「悪いな」

 

 俺はゼムに連れられ、家へと向かう。

 着いたのは、ゼムの営む武具店だった。


 店が家だったのか。

 

 さすがに疲れていたのか、武具店の扉を開ける時既にゼムはウトウトとしており、ベッドに潜り込んだと思ったら数秒と経たずに寝息を立てていた。


 俺は毎日お風呂に入る派の人間だったので、シャワーを借りる事にする。

 序でに今日着ていた服も手洗いし、新しい服に着替えてリビングのソファで眠りに就いた。

 


 ――翌朝。


 ゼムがシャワーを浴びに行く音で目を覚ます。

 俺はキッチンと食材を少々拝借し、二人分の朝食を作り始めた。


 何を隠そう、俺は元の世界では独身で、男の一人暮らしだった。

 故に料理は大得意だ。

 フハハハハ……ハハッ……ぐすん。


 俺が心の中で血の涙を流していると、シャワーを浴び終えたゼムが近付いてくる。


「おはようさん」

「おはよ」

「シャワーくらい浴びて寝りゃあ良かったわい」

「疲れてたんだろ」

「ああ! そりゃあ、もう疲れたわい! ……じゃがな、昨日のお前さんを見て、ついて行くって判断は間違って無かったと思えたわい」


 そう言ってゼムはニカッと笑う。


 死=死の世界。

 そんな世界で、一つミスれば死ぬような方法でレベル上げをしたという自覚はある。

 だからこそ、ゼムの肯定は素直に嬉しい。



 この先、出会うであろう“新たな仲間たち”がゼムと同じように思ってくれるように――そして、安心してついて来られるようなタンクを目指そう。


 俺はそう心に決めた。

 


 その後、朝食を二人で摂り、ギルドへ向かう。

 すると俺たちに気付いた受付嬢が赤いポニーテールを左右に揺らしながら笑顔で駆け寄って来た。


「おはようございます!」

「おはよ」

「見てくださいよ! これ!」

「ん? 何これ?」


 受付嬢が両手で突き出してきた紙の束を見る。

 それは十数枚のパーティ加入申請用紙だった。


「は? こんなに? なんで?」

「こっちが聞きたいですよ! それと……昨日の昼間にギルドを出て行った後どこに行ってたんですか!? 私は早番担当なので直接は見た訳ではないですけど、遅番の先輩に聞いたら夜に凄い量の魔石と素材を持って帰ってきたらしいじゃないですか! それもあってお二人の事がギルド内で結構噂になってるんですよ!?」

「へえ」

「それに加えて……この募集内容が異例中の異例なんですよ!! ダンジョンがメインとか! 固定パーティとか! 報酬の均等分割とか! お二人がギルドを出て行った後、内容を確認した時には色々と驚きましたよ!」


 めっちゃ喋るやん。

 グイグイくるな。

 迫力がすごい。


 てか募集内容くらい渡した時に確認しろよ。


「それで? この人たちはどこに?」

「あちらで待ってもらってますよ!」


 受付嬢が指を軽く揃え、手の平をテーブルに向け示す。

 そこにはこちらを見ている男女が十九人がいた。


「ありがと。でさ、個室とか借りられないかな?」

「二階に貸出できる個室がありますよ!」

「んじゃあ、そこ貸して」


 俺は料金を支払い、個室を借りる。

 個室は八畳ほどの広さで中央にローテーブルが一つあり、挟むようにソファが二つ設置されているだけの簡素な部屋だった。


 早速、加入申請用紙を確認する。


 魔法使いウィザードが八枚。

 治癒師ヒーラーが四枚。

 その他が七枚。


 今現状で欲しいのは魔法使いウィザード治癒師ヒーラーだ。

 だからと言って誰でもいいわけではない。

 人柄やステータス、覚えているスキルで決める。

 

 本来、条件の満たした状態で昇格スクロールさえ持っていれば任意の昇格先が選べるのだが、今回募集したメンバーには上位職や最上位職も全て俺に決めさせてもらう予定だ。


 申し訳ないという気持ちはあるし、自己中心的だということもわかってはいるが、俺の目標である難易度十等級に挑むためには必要な事だからと心を鬼にする。


 だが俺の我儘に付き合わせてしまう以上、仲間たちには衣食住や金銭面など、何一つとして不自由させないようにするつもりだ。


 もちろん、不安要素があるなら全て排除する。

 俺は何よりダンジョンに真っ直ぐな奴と組みたい。

  

 加入申請用紙に一通り目を通した俺は一階へと降り、待ってもらっていた十九人の冒険者シーカーたちに近付き声をかける。


「待たせたな。最初は魔法使いウィザードからで」


 そう言うと、八人が席を立ち俺の後に着いてくる。

 その内の一人を入室させ、他の七人には個室の前で待ってもらう形で面接をした。


 まず自己紹介をしてもらい、ステータスを確認しただけで面接を終える。


 その後の十八人も同じ内容の繰り返し。


 正直、ステータスだけ見たかったな。

 しかし、まあ、明らかにダンジョンに向いて無さそうな奴や輪を崩しそうな奴が居たから、ゼムと話し合って一応自己紹介だけはしてもらう事にしたのだ。



 面接の結果――三人に絞られた。



 他の十六人には申し訳ないが、採用を見送る旨を伝えた。

 案外、すんなりと受け入れ、各々帰っていく。


 不平不満の一つでも言われるかと思ったがアッサリしているんだなあ、と思いつつ残った三人に声をかけ再度二階の個室へと着いてきてもらった。 

 

 今までの面接は形式的な物。 

 ここからが実質的な面接だ。


 正直、この募集に期待はしていなかった。

 最悪、ヘッドハンティングも考えていたくらいだ。


 だが、この三人は俺の予想を何段もすっ飛ばしてきた。


 嬉しい誤算だ。

 普通ここまで“優秀な人材”が来るとは思わない。


 不敵な笑みを浮かべる俺の後ろを着いてくる三人。

 


 この三人は……何としてでも仲間に欲しい!


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