第20話

正人の病室の前、勇樹と大沢は扉を開けるのを躊躇していた。バルタン先輩と律子は、廊下の長椅子に腰を掛け俯いていた。


「正人くんには、私からすべて話そう。私が彼女を殺したようなものなのだから、その責任がある。なるべく精神的に負担が掛からぬよう話を進めるよ。」


大沢の提案に勇樹は首を横に振った。


「いえ、大丈夫です。兄弟ですから。私から話をします。社長達は、病室には入らず、ここで待っていてください。」


そう伝え、勇樹は病室の扉を開けた。


「あれ?兄貴。こんな時間にどうしたの?面会の時間、もう30分くらいしかないよ。」


弟の顔を見た勇樹は、言葉がどうしても出なかった。


「昨晩の件だけど、あれ結局、何だったの?冴木さんが来たかとか何を話したとか?」


言葉を出そうにも口を開けば涙が出そうでどうにも話が出来ない。


「冴木さんのことで何かあったのか?」


正人の口調はとてもやさしく思えた。勇樹は、何度も頷き、やっとの思いで声出す。


「冴木さんが・・・。冴木さんが亡くなった。」


そう伝えるだけで精一杯であった。涙がこぼれ、続く言葉が口を出ない。


正人の方はというと兄からの言葉が理解できず首を傾げるばかり。しかし、唇を震わせ、顔を赤らめ泣きじゃくる兄の姿に友恵が亡くなった事実だけは本当であることは悟っていた。だが、感情が追い付いては来ない。


「どうして兄貴がそんなに泣いているんだよ。何があった?」


自分でも驚くほど冷静な口調で正人はそう言った。事故なのか?病気ということはないだろう。しかし、なぜ友恵の死を兄貴が知っている?


「やはり、昨晩なにかあったのか?」


勇樹は頷き、正人に言われるがままにベットの横のパイプ椅子に腰を下ろした。そして、俯いたまま「実は・・・。」と話を切り出す。


霊媒師と名乗っていた人物が実は、自分の会社の社長であること。正人の通う学校での一連の出来事を調べていて分かったドルトジンという薬の事。善田教授という人物と冴木友恵との関係。冴木友恵が学校で行ったクラスメイトへの暗示。昨晩の出来事。


上手く伝わったかどうかは分からないが、ゆっくりと勇樹は正人に話した。


その間、正人は一言も発さずにただ黙って聞いていた。


「信じろというのが難しいと思うが・・・。」


勇樹の言葉に正人はゆっくりと目を瞑る。そして、


「今、冴木さんはどこに?」


「この病院の隣。本館の病院の方で眠っている。」


そう伝えると正人は「わかった。」といって病室を出て行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る