第18話
遡ること1時間半ほど前、大沢と勇樹は、正人の病室にいた。
「今日、2度目の不法侵入ですよ。しかも、正人に鍵を開けさせるなんて聞いてませんよ。」
顔を真っ赤にして起こる勇樹を正人が「まぁ、まぁ」となだめていた。
「まるでどちらが兄だか分からんな。」
大沢は笑いながらそう言った。
「でも、いったい何しにこんな夜中に忍び込んだんですか?電話ではダメだったので?」
正人の言葉に大沢は少し考えるような素振りを見せた。
「いや、的外れだったら、まったくの無駄骨なんだけどね。冴木友恵くんがもう1度、君に会いに来なかったかい?」
「えぇ、来ましたよ。何でもお守りの効き目が気になったって。変でしょ。」
そう言って正人はとても嬉しそうに笑った。
「また、来たのか?」
勇樹が思わず声を荒げる。正人は口元に指を当て静かにするように仕草を送った。
「でも、なんで分かったんですか?冴木さんがまた来たって?」
「いや、自分でもそうするだろうなと思ってね。お守りの効き目が気になる気持ちは分かるよ。でも、それだけかい?何か話はしなかったかい?」
「別に特別な話はしませんでしたよ。クラスメイト達が大変な状態だから学校の話はお互い避けていました。そういえば、織姫神社に退院したら、いっしょに行こうって。兄貴も知ってるだろ。あそこからの夜景が綺麗なの。前に彼女に話したときはいやらしいって馬鹿にしてたくせに。今日は、一緒に行こうって。そんな話ですよ。」
「へぇ。長いこと、この街に住んでいるが、それは知らなかったな。有名なのかい?そこの夜景は。」
「いえいえ。知る人ぞ知るって感じです。親父が元気な頃、山にカブトムシをとりに連れて行ってくれたんですが、その帰りに兄貴と俺と3人で織姫神社に行くのが恒例だったんで知ってたんです。でも、冴木さんがスマホで検索したら写真が結構出てきて。」
正人の顔が少し赤らんでいるように見えた。
勇樹が、試しにスマートフォンで検索をしてみる。すると、なるほどかなりの数が出てきて、幼き頃の思い出が蘇ってきた。
「松の木が横に映りこんでる写真があるだろ。満月が綺麗な。それ、たぶん神社のベンチのところから撮影した写真だよ。兄貴もわかるだろう。いつも、3人でカブトムシを籠にたくさん入れて。虫刺されのスプレーの匂い漂わせて3人で汗だくで見てた景色だよ。それを冴木さんに話したら絶対いっしょに行くって。カブトムシは触れないけど行くって。兄貴にも会ってみたいって。そんな話を大声でしてたら看護師さんに声が大きいって怒られちゃって。」
大沢は「なるほどね。」とつぶやき大きく頷いた。
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