第17話
(指先さえ動かない。何とかして社長と連絡が取れれば・・・)
歯を食いしばり、バルタン先輩は、腕にありったけの力を込めるが全くいうことを聞かない。
だが、冴木友恵の視線は暗示に掛かった二人とは別の所にあった。
さきほど、通り過ぎたタクシーが信号のだいぶ前で止まり、2人の男が車から降りてきたのだ。
若い方の男は、車から飛び出すなり、こちらに全力で走ってくる。もう1人の男の方は、タクシー運転手に料金を払いゆっくりと歩いて近づいてきていた。
(2人とも見覚えのある顔。田所正人の病院にいた男たちだ。)
冴木友恵は、舌打ちをし、ドルトジンの入った香水瓶を握りしめた。
タクシーから降りてきたのは、大沢社長と田所勇樹であった。
勇樹は、倒れている立花律子とバルタン先輩に駆け寄り声を掛た。
そして、大沢は、その横を通り過ぎ冴木友恵の目の前にやってくる。
「冴木友恵くんで間違いないね。」
冴木友恵は、頷くこともしなかった。
「君が手に持っているものはドルトジンかな?」
大沢がそういうと同時に勇樹が冴木友恵に掴みかかった。
「ふたりに何をしたんだ。君は、いったい何が目的なんだ。」
反射的に冴木友恵は、勇樹に向かってドルトジンを吹きかけた。
「友恵くん。私や彼にドルトジンを使っても無駄だよ。私は、自己暗示を掛けることが出来るんだ。君が暗示を掛ける直前に自分に暗示が掛からぬようにすることが出来る。あそこでみっともなく、藻掻いている男もそれが出来るはずなんだけどな。まぁ、私は彼よりもよっぽど上手に出来るよ。」
そう言って、バルタン先輩を指さした。
「そして、先ほど君がドルトジンを吹きかけた男にも君は暗示を掛けることが出来ない。どうしてだか分かるかい?」
冴木友恵は、無表情のまま「さぁ?」と答えた。
「その男はね。田所正人のお兄さんなんだよ。」
目を見開き、口を大きく開ける冴木友恵。明らかに取り乱した様子で首を振り、「なんで・・・。」とつぶやいた。
「私と彼は、先ほど正人くんの病院に行ってきた。正人くんに電話して非常階段のカギを開けてもらってね。いや、ずっと疑問に思っていたんだよ。なぜ、君は正人くんにだけは、暗示に掛かってほしくなかったのか?しかし、その疑問も解けた。」
大沢は、にっこりと笑いながら冴木友恵に近づき、彼女が持つドルトジンの瓶をゆっくりと引き抜いた。もはや抵抗する様子もなかった。
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