第8話

その後、大沢は正人がプロレス好きだと知ると目を輝かせ、どこの団体が好きだとか選手のテーマソングや技の名前で盛り上がっていた。


途中、正人が「除霊はしないんですか?」といったん話を切ったが「いや、もう霊の姿見えないし」とすぐにプロレスの話題に戻る。


勇樹はすっかり呆れていたが、まぁ、正人が元気になったのであれば、それでいい。椅子から腰を上げ、窓から外の景色を眺めていた。


「ジュース買ってきましたよ。」


両脇に缶ジュースを抱えた律子がやっと帰ってきた。


「コンビニ行ってたんですか?」


勇樹がそう尋ねると律子はふくれっ面で「何それ?随分、待ったような言い草ね。」と鼻息を荒くした。


「いやいや、実際、随分待っただろう。20分以上経ってるぞ。」


大沢も勇樹の弁護をする。


「何言ってるんですか。すぐそこの自販機に行くだけで20分もかかるわけないでしょう。」


そういって、3人に買ってきたジュースを手渡す。


「それより、除霊・・・。」


と律子が言っている途中で「あぁ、それなら済んだ。それよりトイレ、トイレ。」と大沢は速足で病室を出て行ってしまった。


しばらくして、大沢は病室に戻ってくるなり、「そろそろ帰りますか。すでに正人くんも元気になっているようですし。」と腕時計に目を落としながら2人に伝える。


(いったい、何しに来たのか?)


勇樹と律子は目を合わせるが、実際、正人の容態はかなり良くなっているようだし、これ以上、ここにいる必要もない。


しかし、まだ何の解決にもなっていない。野崎第二中学校ですべての生徒が霊を信じ込み3名もの死者を出した原因を突き止めずに大沢社長は納得したのか?それとも、この短時間でそれを掴んだのか?


心の中で首を傾げながらも勇樹と律子は、大沢の指示通りに病室を後にした。


帰りに大沢は何かあった時のためにと自分の携帯番号の記載された名刺を渡したのだが、そこには『除霊専門会社 OSAWA』と書かれていた。初めから霊媒師の設定で来る予定で作っておいたのかと勇樹は「くすっ」と笑ってしまった。

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