第7話

勇樹を先頭に大木病院に入る。この辺りでは一番大きな総合病院なので受付前の椅子にはすでに座る場所がないほど混雑していた。勇樹らは、その受付を通り過ぎ、いったん外に出た。精神科の病棟は別棟にあるらしい。


本館よりも古い建物の裏手。まるで関係者しか知らないような一般家庭の勝手口のような扉を勇樹が開けた。大沢も律子も本当にここで間違いないのか何度も田所勇樹に確認するが「私も最初はびっくりしましたよ。」といって中に入る。


建物の中は外観からは想像できないほど綺麗になっていた。


本館よりはかなり小さいが受付もちゃんとあり若い女性が丁寧に挨拶をしてきた。勇樹が弟の名前を出すと「学校のお友達もお見舞いに来ていますよ。」と教えてくれた。


しばらくすると若い男性職員がやってきて病室まで案内すると言ってきた。3階のエレベーターを降りると職員がカードを差さないと開かない自動ドアがある。なるほど、それで職員がわざわざ着いてくるのかと納得する。


病室は1人部屋で田所正人が丁度、部屋から出てくるところであった。勇樹がそれを見て声を掛けると笑顔を見せ、傍らに立つ大沢幸雄と立花律子に向かって軽く頭を下げた。


「正人、だいぶ良くなったみたいだな。」


本当にほっとしたのだろう。勇樹は、顔をくしゃくしゃにして喜んだ。


「かぁさんと学校の友達はどうした?」


「あぁ、かぁさんは友達が来たからいったん帰るって家に帰ったよ。友達もさっき帰ったところ。」


母親も正人の状態が良くなったのでいったん帰って休んでいるようだ。勇樹は、そのことも心配だったので「そうか、よかった」と安堵の表情を見せた。


「それより、兄貴。こちらのお二人は?」


勇樹が声を出す前に大沢が口を開いた。


「お兄様よりご依頼いただきました霊媒師です~。あと、その助手・・・。」


勇樹と律子が怪訝な表情を同時に見せる。


(霊媒師???高級スーツにロレックスをした霊媒師がどこにいるんだ?しかも、そんな設定聞いてないし!)


「普通ですと私レベルになるとかなりの高額な除霊料を頂いておるのですが、田所勇樹さんの職場の社長様にはとてもお世話になっておりまして、今回特別にタダで除霊させていただきます。いや~。実にいい社長様のいる会社に就職したものですねぇ。お兄様は。」


引きつった笑顔のまま勇樹は弟に「部屋を出てどこに行くつもりだったのか」と尋ねた。自動販売機にジュースを買いに行くところだったというのを聞いて、大沢が「助手に買いに行かせましょう。」と律子に小銭を渡し人数分買ってくるように指示を出す。律子は、「行ってまいります。霊媒師様。」と正人には分らぬように大沢を睨みつけた。


「ところで正人くん。学校の友人とは、いったいどなたがお見舞いに来ていたのかな?」


病室に戻り、正人はベットに腰を掛けた。大沢と勇樹もパイプ椅子に腰を下ろす。


「冴木さんっていう同じクラスの女子です。なんでも、霊を寄せ付けないお守りを買ってきたからって持ってきてくれたんです。」


勇樹は眉間に皺を寄せる。


(冴木って、冴木友恵のことか?彼女がここに来ていたのか?)


勇樹とは対照的に大沢は一切表情を変えず、にこやかな表情を保つ。


「少し話は聞いているんだけど、冴木さんって壁に出た女性の霊を最初に見たっていう女の子かい?」


大沢がそういうと、


「えぇ、彼女もあれ以来、責任を感じているようでわざわざこうしてお守りまで持ってきてくれたんです。」


そう言って、正人は首から下げ医療用ガウンの胸元の隠れていたお守りを見せた。


赤い布性のお守りで何やら象形文字のようなものが書かれている。大沢は、正人から許可をとり、じっくりと眺めていた。


「冴木さんは、これを持ってきて君に除霊の効果があると伝えたのかい?」


「はい、何やらすごい効果があるらしくて有名な神社のものだと。」


大沢は、口に手をやり「そうか。」と何やら考え込んでいる様子であった。


「確かに、これは私もよく知っているお守りだ。なかなか手に入らないらしいが、よく手に入ったものだ。」


蔓延の笑みで正人にお守りを返した。

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