第6話
「その大野くんというのが最初の犠牲者だったね。確か心臓発作で亡くなっている。」
大沢が後部座席で腕を組みながら呟いた。
「えぇ。ネットの情報の拾い集めですが・・・。大野祥平くんがクラスメイトに霊を見たと話した2日後に自宅の部屋で亡くなっています。クラスでは、それ以降、壁の女は自分と親しい人間の声で近づいてくるといった噂が流れるようになったようです。」
野崎第二中学校の霊の話はマスコミも今のところ報道を控えている。他の学校にも噂が広がったりすると同じように精神異常になったりする生徒が出かねないという判断で落ち着くまでは報道を控えるということになっているらしい。
それでも、ネットなどには野崎第二中学校の生徒や家族などから情報が洩れてはいた。立花律子は、それらの情報の中から信憑性の高いものを選んで整理していたようだ。
「2番目に亡くなったのが生徒会長の木村くんだったね。」
大沢の問いに律子はうなずく。
「木村直人くんは、学校のトイレで亡くなっています。大野祥平くんが亡くなってから3日後ですね。やはり、心臓発作が原因で他のクラスの生徒が発見しております。3番目に亡くなったのが三島紀佳さん。自宅で母親が帰宅すると母親の顔を見て”来るな”と叫びながら団地の5階から飛び降り自殺をしております。」
田島勇樹は、運転をしながら溜息をついた。中学生の若い命がわずかな期間で3名も亡くなった。そして、自分の弟も精神的にひどい状態だ。何としても守ってやらねば。
「蓼沼くんという生徒も危険な目にあっていたね。」
「はい。蓼沼翼くんは、駅のホームで何かに追われるようにして線路に飛び込んでいます。幸い、電車は来ておらず軽い捻挫で済みましたが、彼曰く、先生に呼ばれる声が聞こえて振り返ると真っ赤な顔の女が立っていたと話していたそうです。」
大沢は、口のへの字にして「う~ん。」と唸った。
「やはり、おかしいな。普通に考えれば、冴木という女の子が壁に女の霊を見た。そして、皆死ぬと言っていると伝える。それを信じた大野くんが精神的に不安定となり、心臓発作で亡くなる。その事実が更に他の生徒たちにも霊の存在を信じ込ませることとなり死の連鎖が始まったといったところだろう。しかしなぁ。」
「どこが変なんですか?」
勇樹が尋ねた。
「時間が短すぎるのだよ。あるいは経ちすぎている。」
「どっちですか?時間が短い?長い?」
「いや、冴木という女の子に悪意があったかなかったかはさておき、霊を見たということと、皆死ぬということを伝えたのには暗示効果がある。精神的に”あなた達は死にます”と暗示をかけたわけだ。しかし、昼休みの出来事だろう。だとしたら長くて60分にも満たない時間。どんなにショッキングな出来事があり、強い暗示をかけたとしても、心臓発作が数日後に起こるような暗示は60分程度で掛けられるものではない。毎日のように極力、他人と会わないように他の情報が入ってこないように注意しながら何度も何度も深い暗示をかけなくてはならない。それでも人が死ぬほどの暗示を掛けるのは容易ではない。さらに云えば、最初に亡くなった大野くんにしても昼休みの出来事から3日後に亡くなっているだろう。これは長すぎるんだ。暗示が掛かっていない時間が3日も続いたことになる。どんなに深い暗示であっても、他の人や情報が入ってくるうちに暗示の効果はどんどん薄れていくはずだ。たった60分程度の暗示で3日以上、他の2人ではそれ以上も深い暗示効果が続いたことになる。そんなことは通常考えにくい。やはり、本当に霊が出たといった方がよっぽど合点がいく。」
その時、車の前方に田所正人が入院している病院が見えた。
「まぁ、彼に会ってみれば何か手掛かりがつかめるだろう。」
大沢は、そういって両手を上げ背伸びをした。
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