第230話 墓地の人影

 森の中へ入ったのは良いものの、どっちへ行けば良いのかが分からない。

 でも、行くとしたらお墓がある場所よね?

 だとしたら、一応道らしきものがあるので、これを真っすぐ進めば良いはず!


「……って、どうしていつまで経ってもお墓に着かないの!?」

「そうだよね。僕たち、結構走ったよね?」

「そもそも、そんなに大きな森だったかしら?」


 いえ、決して小さな森ではないと思うんだけど、コリンの言う通り私たちは森の中を走り続けたのに、墓地へ辿り着かないし、森を抜けたりする訳でもない。

 長老さんだって、平地に森が出来たって言っていたし、実は大きな森へ繋がっているって事はないと思う。


「あれ? お姉ちゃん。この木、さっきもあったよね?」

「そ、そう?」

「うん。一本だけ枯れているし、ちょっと変な形だから覚えていたんだー」

「じゃあ、私たちは真っすぐ走っていると思っていたけど、実は少しずつ道が曲がっていて、同じところをグルグル回っていたりするの!?」

「うわぁ……それは結構悲しいかも」


 立ち止まって前後を確認してみると、緩やかに道が左側に向かって曲がっている様にも見える。

 真ん中に木が生えていたり、枝が突きでていたりして、元々直進ではないにせよ、走っている最中に気付けなかったのは悲しい。


「急がば回れ……かしら。少し速度を落として、どこか通れそうな所があったら、曲がりましょう」


 コリンと一緒に、獣道などが無いか確認しながら早歩きで進んで行くと、あった! 細いけど、奥に続いてる!


「コリン! きっとここよ!」


 左側に細い獣道を見つけたので、そちらへ進んで行くと、灰色の石が見えた。

 おそらく、あれが長老の言っていた墓地ね。

 ようやく目的地に着いたんだけど、肝心のイナリが居ない。

 そう思った直後、街で感じたのとは全然違う、異質な嫌な気配を感じた。

 これをどう表現すれば良いのか……凄い悪意を向けられているというか、妬みや嫉妬、怒りや悲しみなど、いろんな負の感情を向けられているような感じがする。


「お、お姉ちゃん……僕、何だか寒気がする」

「そうね。これ以上、近付かない方が良いかも。でもイナリは……」

「お姉ちゃんっ! あれっ!」


 真っ青になっていたコリンが振るえる手で指し示した方角を見てみると、暗い森の中に更に暗い人影が見えた。

 暗闇の中で一層濃く、暗く見える闇色のそれは、遠くに見えていたけど、私たちに向かって近付いて来る。

 これは……逃げなきゃっ!

 そう思ったのに、身体が動かず、声も出せない。

 どうしよう! せめてコリンだけでも何とか……でも、どう頑張っても金縛りにあっているかのように身体が動かず、暗い影が目前に迫ってきている。

 もうダメ……と思ったところで、身体が浮き、黒い影を避ける事が出来た。


「全く。来てはならぬと言ったのだがな」

「イナリっ! ありがとう! ……あっ! コリンは!?」

「もちろん無事だ。だが、二人共油断するでない。奴は……レイスという魔物だ。アニエスには悪いが、いわゆる幽霊系の魔物だな」

「うぅ、やっぱり……」


 暗い墓地で、人影で、金縛りみたいなのを掛けられて……そういう系なんだろうなって思ったけど、やっぱりそうなのね。

 イナリが私とコリンをかかえながら、一旦墓地から離れる。

 これでひとまず安全なのかな? と思ったら……いやぁぁぁっ! まだ追いかけてくるぅぅぅっ!

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