第229話 ドードレックの墓地

 長老さんに案内され、ご先祖さまである前水の聖女の従者という方のお墓へ。

 街を出て、少し離れた森の中にあるらしい。


「祖父から聞いた話ですと、元は何もない平地だったらしいんです。ところが、水の聖女様が水を撒かれると、たちまち曾祖父の墓の周りが森に様変わりしたと。まさに、先程アニエス様に見せていただいたお力かと思います」

「そ、そうですね」


 以前に、私も同じ事をやらかした事があるのよね。

 前の聖女様と違って、森を作ろうとした訳ではなくて、地中に逃げた植物系の魔物を倒そうとして、大量の水を撒いちゃったんだけどさ。


「アニエス様。見えてきました。あちらの森の中に、ドードレックの街の墓地があり、その一つが曾祖父の墓なんです」


 長老さんがどんどん森に近付いて行く。

 遠目には小さな森かなって思ったけど、近付くと木が高くて、結構密集しているように思える。

 うぅ……お昼だから平気だと思っていたけど、森の中の墓地ってちょっと怖いかも。

 木々が生い茂って陽の光があまり差しこまないみたいで、ちょっと暗い。

 だけど、自分で行くっていったし、イナリやコリンも居るし、何よりまだお昼だし。

 大丈夫、大丈夫……行けるっ!

 勇気を出して、森の中への一歩を踏み出すと……


「待つのだ、アニエス」

「ひゃぁっ! い、イナリ!? ど、どうしたのよっ! いきなり!」

「ちょっとな……全員、ここで暫し待っているのだ」

「え? イナリ!? ちょっと、理由を説明……行っちゃった」


 イナリから待ったがかかり、私たちを置いて一人で森の中へ行ってしまった。


「アニエス様。お連れの方が行ってしまわれましたが、いかがされますか?」

「うーん。イナリは無意味な事をするような人じゃないから、きっと訳があるんだと思う。言う通り、少し待ちましょう」

「畏まりました」


 長老さんもわかってくれたようで、三人で木陰に移動し、イナリの帰りを待つ。

 最初は休憩って事で、みんな座っていたんだけど、結構……いえ、かなり待ったからか、コリンは弓矢の練習を始め、長老さんは歩けるようになったのが嬉しいからと、同じところをグルグルと回り始めた。

 うーん。イナリにしてはかなり遅いわね。

 今まで待つように言われた事は何度かあるけど、今回は遅すぎる気がする。


「コリン。イナリが遅すぎると思わない?」

「そうだよねー。いつもは、あっという間に戻ってきて、ドラゴンのお肉とかを持って来るよねー」

「ドラゴン……もしかして、何かの魔物と戦っているって事!?」


 そういえば、イナリは今朝のいつ頃に神水を飲んでいたっけ?

 もしかして、神水の効果が切れて、大きな狐の姿から元の姿に戻れず、こっちへ帰って来られないとか?

 あの姿を長老さんに見られたら、絶対にマズいもんね。S級の魔物にされている妖狐そのものだし。

 それに、そもそも神水の効果が切れて苦戦していたりしたら……助けなきゃ!


「長老さん。少しだけ中の様子を見て来ますので、待っていてもらえませんか?」

「それなら私も行きますが……」

「いえ。ちょっと気になるので、走って行こうかと。必ず戻って来ますので、ここで待っていてください。……コリン、行こう!」

「えっ!? アニエス様っ!?」


 長老さんには悪いけど、森の入り口で待っていてもらい、私とコリンは森の中へ……入った!

 うん。ピンチかもしれないイナリを助けないと……って思ったら、不思議と脚もすくまない!

 イナリ、今行くから待っていてねっ!

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