3話 始まり


俺は勉強の一環として小説を読むことがある。

一時期ライトノベルのラブコメというジャンルを読んでいたことがある。幼馴染と恋人になっただとか学園のアイドルと恋人になっただとか。『クラスメイトと家族になった』だとか。

その時は小説の中だけの話として楽しんでいた。


でも、どうだろう。その小説の中の話つまり、『クラスメイトと家族になった』という事実が今目の前で突きつけられた。事実は小説よりも奇なり。この言葉がしっくりくる。


「なんだ?司の知り合いか?」


そう親父は物珍しそうに僕に問いかけてきた。

目の前にいるのは紛れもない俺の最大のライバルであり、クラスメイトの神崎七海だ。

神崎も俺と同じで驚きの表情を隠せていない。

こんなことなら相手の娘の名前まで聞いておけばよかったのだがここ1週間、情報を整理することでいっぱいだった。


「いや、クラスメイトなんだよ....」


俺は、ガッチガッチ固まった唇を動かしそう告げた。


「なんだ!そうだったのか!なら、初対面よりはマシだな!はっはっはっ!」



俺の驚きを他所に極楽しそうに親父は笑った。


「あら、あら〜七海のクラスメイトなのね!司くん!私は七海の母親で司くんの新しいお母さんになる神崎 姫華です。よろしくね司くん!」


「な、七海です!よ、よろしくお願いします」


神崎のお母さん、そして今日から俺のお母さんになる姫華さんのあと神崎も親父に向かって挨拶をした。

まぁたしかにいきなり全く知らない異性と同居するよりは勝手知ったるクラスメイトのがいいのかもしれない。だがら学校での立場は?どうなるんだ?この思考が今頭から離れない。


当の神崎はもうなんか諦めたような表情をしている。親父には幸せになって欲しいし俺らが上手くやるしかない。

そう覚悟をし家にあがった神崎と姫華さんの後に続いてリビングへ向かった。







現在、俺は神崎と自室で小さい丸テーブルを間にし対面になって床に座っている。


「なぁ、神崎。とりあえず今はライバル関係とか無しに家族会議をしよう。」



普段罵りあってる癖で多少声色が固くなってしまうができる限り柔らかく神崎にそう告げた。


「そ、そうね。正直私はホッとしてるよ。全く知らない異性と兄妹なんて無理だし。なら、まだクラスメイトで多少縁の長いあなたで良かったと思ってるよ。」


その雪みたいに真っ白い頬を少し朱色に染め神崎は言った。


「奇遇だな、俺もそう思ってた。そりゃ、最初は驚いたが俺も親父には幸せになってもらいたいからな。そうなると小学校の頃から知ってる神崎なら割と心配はしてない。もちろん、俺は神崎を「そういう目」で見た事ないから俺を信用して欲しい。」


そう、俺は神崎に対して対抗心をもっているが恋愛感情で見たことは無い。だから俺はこの同居生活において最大の心配事である「男女のそれ」に対して信用して欲しい。という旨を伝えたかったのだ。これが初対面の女なら手こずるが俺と神崎の仲だ。ライバルだと言っても本気で喧嘩してる訳では無い。

偶に遊ぶし普通に喋る。普通の女友達として俺は見ている。



「そうね、あなたとはライバルだけど同時にいい男友達だと思ってるからね。信用するよ。でも、もし万が一あなたが獣になろうものなら━━━━」



「絶っっっったいにならないから安心しろ」


ハイライトが消えた目でその後が告げられる前に俺は否定の言葉を挟んだ。


あのハイライトが消えた目から発せられる言葉は以上だ。人を殺す勢いがある。


「そう、じゃあ、これからは仲のいい兄妹でいましょうね。まぁ、あなたの妹ってのは納得行かないけど、誕生日的には私のが遅く産まれたからね。だからと言って調子に乗らないでね?」



ニコッと笑って神崎がそう告たが笑顔が怖いの何の。目が笑ってないんだぜ?マジで怖いよ。



「あぁ、そこは対等にな。じゃ、これからよろしく」



そう言って俺と神崎は握手を交わした。



俺は不安と同時に僅かな期待を胸に抱いた。

単純に嬉しかったのだ。唯一ライバルとして今まで張り合ってきた相手と家族になり、同時に母親という存在を得られた事が。



ただ、この再婚から俺たちの運命が大きく動くことになるなんてこの時の俺たちが知る由もなかった。

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