2話 こんなことってありなの?


私は幼稚園の頃、親に本当にどんくさいわねと言われてきた。何をやってもダメダメで。

小学生の頃、テレビでオリンピックの放送がやっていた。種目はフィギアスケート。金メダルを取っていた選手のインタビューだった。


金メダルをとった選手はこういっていた。


『これは私の努力の成果です。私は天才ではありません。そりゃ、結果が1番です。ですが、私はその「過程」を皆さんに知ってもらいたいです。』


あぁ、なんていい言葉だろう。小学校に上がる前の私にはその「努力」という言葉が胸の中でまるで除夜の鐘のように響いていた。


それからというものの私は努力をした。勉強、運動。この頃はまだ身嗜みには気を付けてなかった。



私は血のにじむような努力を小学校という小さい頃からしていた。それは結果としてついてきた。

親からは「凄いわね!」と言われ周りからは「ななみちゃんすごい!」と言われた。でも誰もその「過程」に触れることは無かった。



だから私は周りを下等な生き物として見てきた。




━━━━━━━━小学2先生の頃。



私は筆箱を隠された。否、隠されたと気付いた。

だって朝家出てくる時に絶対持ってきたと確固たる自信を持っていたから。この頃私は幼いながら完璧な行動をしたと思う。

クラスメイトが全員揃っている朝のホームルームの時間に先生に筆箱が無くなったことを告げた。


同時にクラスメイトの反応を見た。ある1人を覗き全員先生の方に目を向けている。


1人だけ窓の外に顔を向け反応を悟られまいと頑張っていた。


結局放課後まで筆箱は見つからず私は家に帰ってまた探すようにと先生に言われた。


私は放課後ある1人の男子生徒に話しかけた。



「ねぇ、あなたでしょ。筆箱隠したの。」


その時の男子生徒の顔と言ったら、焦り、不安。の感情が浮かんでいた。


あぁ、なんて哀れな。


私はオーバーキルがごとく彼に対して筆箱を隠した犯人があなただという証明をした。


彼はものすごく焦っていたけどどこか覚悟したかのような顔でこう告げた。


「お前に勝ってやると。」


ドクンッ!胸が高鳴った。彼は努力をすると言った。だから私は信じてみた。結果として......



彼は私と互角の力を持っていた。テストの順位勝負では互角。私は更に努力をすることが出来た。


これからもずっとライバルだと思っていた。彼とずっと張り合える。彼は私自身に力をつけてくれる。そんな存在だと。


ある日、いつも通り彼と張り合い家に帰宅すると

リビングからお母さんが私を呼ぶ声がした。


「七海ー、大事な話があるからちょっと来てー」


40代とは思えない綺麗な声で呼ばれた。私は短く「はいー」と返事をして、玄関から真っ直ぐすすんで左手にある自分の部屋に入りスクールバッグを勉強机の上に置き制服から部屋着へと着替え、お母さんがまつリビングへ足を進めた。



リビングに入るとお母さんが左手にある机の奥に座っていた。

40代とは思えない顔立ちに軽く化粧を施しその髪は長く腰辺りまで伸びており、さっらさらだ。見た目20代と言われても納得出来る。


私はお母さんの手前に腰掛けて尋ねた。


「話って?」


ふぅとお母さんが息を吐く音がした。


「お母さんね、再婚することになった。」



「へぇ?」


精一杯だった。だって仕方がない。そんな大事な話だとは思わなかったから。

私が小さい頃に、お父さんが他に女を作って家を出ていってから女手1つで私を育ててくれていた。だから、そのお母さんの意思に私は反対しない。だけどいきなりすぎる。


「1週間後にこの家を出て向こうの家で住むよ、向こうにも同い年の息子さんがいらっしゃるけど私たちの話し合いで大丈夫ってことになったから。あなた大丈夫?」


息子?同い年?ってことは高校一年生?この年で兄妹?え?え?え?完全にオーバーヒートだ。情報の容量の大きさに処理しきれなくなった頭で必死に口を開いた。


「お母さんには感謝してる。私も我慢する。大丈夫。息子さんと仲良くなるから。」


そう言うとお母さんは目尻に涙を浮かべながら



「よかった、良かった。」

とだけ口にしていた。



1週間後の土曜日私はお母さんの再婚相手つまりお父さんにあたる相手の家の前にいた。

お母さんがインターホンを鳴らすとすぐに扉が開き、中から出てきたお父さんとその息子。


その息子を見るなり私は絶句した。



「こんなことってありなの?」

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