初期登録
こほん。
未来の花嫁を育てると決めた俺は、もう迷いも恐れもなかった。
起きた少女に軽く声を掛けると、その隣に座りスマホを取り出した。入力画面の操作以外一切を受け付けないスマホの画面である。
すると少女の前に差し出したスマホのテキストが知らない言語に変わった。それを見て驚く俺をよそに、少女はそこに書かれていることを理解したのか自身のことを指差しながら俺に顔を向けてきた。
俺は頷いた。
彼女は恐る恐るスマホの画面に触れて入力画面をなぞっていった。
キーパッドを打ち込むように俺が手を出そうとすると、なんと意外にも指先の筆書き入力も出来るようで、俺の知らない言語で彼女の名が画面に記されていった。
「これが名前?なんて読むのか分かんないけど、とりあえず良かった」
書き終えたスマホを受け取ると、しかし、そこは有能なマジュラアプリ。俺に合わせて文字を変換させた。
「ラティスフィア。ラティスフィアっていうのか。良い名前じゃん。うん、可愛い。んじゃ、これで登録だ」
さて、名前を入力した。
次は何が出てくる?
スマホを掴む手に知らず力が入る。
なんだかんだ言っても俺は身構えてしまっていた。
すると、黒一色だった背景が突然明るみを持ち始めて、そこにあるものが映し出されていった。
「え?足?」
それは俺の足だった。
拍子抜けも拍子抜け。
予想していないことに一瞬、頭が追いつかなかったが、どうやらスマホのカメラが起動してしまったらしい。力み過ぎて要らぬボタンを押してしまったのだろうか?
急いでカメラのアプリを落としてマジュラに戻そうとした瞬間、画面上に変化があった。
【オーナー:神林一輝の両足。脚力は基準値以下。推定速力20】
カメラに映った俺の足の横にテキストウィンドウが表示されたのだった。
「……基準値以下って分かってたけど、なんかムカつくなこれ。特に数値化してくるあたりが、悪意を感じる」
しかし、この表示は通常のカメラアプリにはない機能だった。ということは、これは誤作動ではなく、ラジュマのアプリそのもので間違いないらしい。
試しに自分の手も写してみる。
【オーナー:神林一輝の右手。握力27kg。女性の平均以下。推定攻撃力は基準値を下回っており測定不可能】
「悪かったな、基準値下回ってて!攻撃力は現代日本人にいらないんですう!すみませんでしたね!!」
なんだろう。すごくムカつくこれ!
俺は手を引っ込めると、隣で大人しく様子を見ていたラティスフィアに向けた。
俺が【オーナー】などと呼称表記されていたくらいである。ラティスフィアにも何か表示されるだろう。
そんな安易な考えからだったのだが、当の本人は嫌だったらしく、その場にじっと座りつつも目を閉じて顔を背けてしまった。まるで注射を嫌がる子供の様だった。
しかし、デリカシーを欠いてしまったのは俺なので、すぐさまスマホを下げてごめんと一言謝った。
ヴゥヴゥッ!
すると、スマホがいきなり震えた。
ラティスフィアの反応も見ないままそこに目を落とすと、画面に『スキャン完了』の文字が現れていた。
何が?と、思いながら画面をタップしてみると、カメラモードが切り替わり、瞬間、スマホ画面にラティスフィアが表示されたのだった。
「何このゲームチックな画面」
ついその表示にボソッと言ってしまう。
画面に映し出されたラティスフィアは、よくあるゲームのキャラクター紹介よろしく、プロフィールとステータスパラメータ付きで表示されていたのである。
試しにステータス詳細を開いてみる。
【ジンマー:ラティスフィア。種族:エルフ。体力:35000。魔力:700000。ーー:000。ーー:000。ーー:000。】
ぱっと見、全然参考にならない詳細だった。
まずジンマーってのが意味わからないし、体力と魔力の記されている値が基準がないせいでその実力がまったく理解できない。その後の空白表記みたいになってる【ーー:000】だ。分からないことだらけである。
俺が一人唸っていると、ついついと不意に袖を引かれた。
「ラティスフィア、ごめんね。勝手なことして。スキャン完了って出てきてさ。これどういうことなの?」
「ーーー!!」
すると画面を見せたリアル版ラティスフィアはアホ毛のような寝癖をピコーンと揺らして目を見開いた。
どうやら驚いているらしい。
そのまま手を伸ばしてきたのでスマホを渡すと、ラティスフィアは画面に覆いかぶさるようにしてスマホを突き出した。
「お、おいおい、なに?どったの?貸して言うのもなんだけど、壊すなよ?」
「壊さない」
「あっそ、なら良いんだけど」
「……………………………………」
「………………………………え」
「ん?」
「ーーーーーーーーっ!今、なんて?!言葉!え!!?わかんの!?ねえ!ラティスフィアもしかして、言葉分かんの?!!マジで!?」
「うるっさいっ!」
「ひぃッ!!」
「はいこれ。もう要は済んだから。じゃあ私トイレ行ってくるからよろしく」
「は?え、何を?てかトイレ二階にもあるぞ!そこ左!左だぞ!」
…………………………………………………じゃないわボケぇえええええ!
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