フットボールに生かされ殺され

kakeru

第1話

 いつ以来だろう。こうして空を見上げたのは。そうだ。あの時だ一年前フットボールに全てをかけ一瞬でその全てを奪われたあの時そう考えながらソフトケースの下を叩き、風もないのに風除けを作り、たばこを咥え、そっとライターに火をつけた。 

 五年前私は不安と希望と共に地元を出た。母親からは会えなくてどうなるかわからないからと高校生なのにも関わらず大きめの制服を見にまといダサい鞄を持って入学式の体育館にいた。校長の話なんて覚えてはないけど甲高い音のCD音とともに流れる校歌にはずっしりとした重い感覚を今でも忘れない。それはそのはずだこの校歌は何回も聞いたことがある。いやこの校歌をあのピッチで歌うためにここまで来たのだから。ここは全国でも有数のサッカー進学校である。私だけじゃない多くの選手が地元を離れ、ここに乗り込んできたのである。「勝ち残るしかないんだ」そう自分に言い聞かせ奥歯を噛み締めすっと深呼吸をした。

 そんなことを考えているうちに入学式は終わり自分のクラスが発表された。指定された教室に行くとそこには数人の先客がいた。「ここってD組で合ってる?」

もちろん合ってるのは知ってるけど話す口実が欲しかった私は聞いた。

「合ってんで。自分サッカー部なん?」

明らかに関西弁でそう聞かれた。私はこの手の人は苦手だ。TPOをわきまえられないように感じてしまう。

「そうだよ。きぃみも?」

声色に邪気な感情を消そうとしすぎて変な声が出てしまいとてつもなく恥ずかしい。

「なんやねんそれ笑笑 声裏返ってもうてるやん。せやで同じサッカー部同士仲良くしよや」

 そう言って暖かく迎え入れてくれた。これが私とケンジとの初めての出会いだった。それからというもの私はケンジと色々な話をした。出身の話や中学時代のことなぜこの高校にきたのかなど最初の苦手な印象はすぐに解けてしまうくらいに意気投合した。その日は軽く先生から学校の説明があり終了した。三限の終了のチャイムがなり下校となったが私たちにとってはここからが本番だ。

「ほな初日の練習いこか」

とケンジと軽くグータッチをしてグラウンドへ向かった。

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フットボールに生かされ殺され kakeru @kakeru3329

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