第4話

 誰でも傷を負っている

 在処が見えても見えなくとも

 問題はそれを隠すか否か



 時間にして、二回目の瞬きをしようかという程度。その時間にある程度の個人差はあるが、大体そのくらい。

 呼吸も脈も滞ることなく、三人は違う風景の土地に足を着けていた。

 浮く感覚も動く感覚もない。景色だけが入れ替わったかのような錯覚を与えて、作業は終了した。

 三人のうち、二人はこの土地を知らない。

 が。

「大して変わんねぇじゃん。期待して損した」

 フェイは頭の後ろに手を回し下唇を突き出した。

「着いてみて『わぁ! カンドー!』とか思うのは相当頑張らないと無理だと思うぜ」

「じゃあ頑張ってよ。相当に頑張って。俺、感動したい」

「おまえを感動させるために何で俺が頑張るのさ。自分の手で掴み取れよ」

「……なんかカッコイイ風なこと言ってるけど、実は面倒臭いだけでしょ。ね、そうでしょ」

「人をものぐさみたいに言うな。失敬だぞ」

「ものぐさじゃん、実際」

「この……」

 悪口の類を言いかけたものの、フェイがすいーと場を離れて行ってしまったので仕方なく口籠もった。

 イヴェールも辺りを見渡しながら少しずつ移動していた。

 特に珍しいことはないのに、とシンは思う。空は相変わらず黒。空間を照らすのは無数の照明。粗末な家々がひしめき合うように建ち、雰囲気は寂れ、疲れている。湿度が低めであること以外は、アルクァと変わらない。

「ねえ、ここ、何てトコ?」

 せわしなくあちこちを見ていたフェイが尋ねた。

「ネスジア」

 シンは答える。

「ネスジア……。アルクァの他に土地の名前なんて初めて聞いた。何で教えてくれなかったんだよ」

「必要がなかったから」

「何でさ」

「特殊な力がなきゃ見ることの出来ない場所の名前なんて、要らねぇだろ」

「じゃあ何、ここって、咒法師じゃないと来られないトコ?」

「だけ、じゃねぇけどな」

「そんなトコに人って住んでるの? 咒法師の街とかじゃないよね」

「街作れるくらい咒法師が居たら、世界がいくつあっても足りねぇよ」

「まあ、……そうだよね」

 マイノリティ。希有。異端。異質。

 だからこそ、咒法師は好奇の目に曝される。大体、次の瞬間には忌むような眼差しに変わるのだが。

 数が少ないからこうなっている。数が少ないからまだ平和なのだ。

「空気、結構乾いてるね。喉がちょっと痛い」

 イヴェールが首に手を当てて咳払いをしていた。

「始めのうちは気をつけろよ。すぐ喉渇くからな」

 解った、と返事をしたのはフェイの方だった。イヴェールは頷いただけでまたふらふらと何処を目指すでもなく歩いている。

 すぐに飽きる。何も変わりはしないことに、直に気付く。だから敢えてそのことは言わなかった。

「さて。何処に腰を降ろしましょうかね」

 一時的に雨風が凌げて眠れる場所があればそれで良かった。先程下見はしてきたものの、家探しまではしてこなかった。空き家などいくらでもあると踏んでのことだ。

 とは言っても、土地は広い。どの方向に家を見つけるかで後の生活にも多少影響がある。

 例えば、余り賑やかな所に居着くと仕事、つまり悪さがし辛くなる。かといって静か過ぎれば、すなわちそこは不便な所、ということだ。

 さてどうしよう。

 靴でも飛ばして爪先が向いた方にでもしようか。

 そう思ったとき、ふと風を感じた。

 背後に気配がある。ただの通行人、ではなさそうだ。まだこの地には敵はいないはずだが、殺し切れていない殺気がそこにはある。

 敢えて、動かなかった。

 次の瞬間、右腕を捻られた。

 それ以上のことをしてくるつもりは今のところ無いようだ。大人しく動きを封じられておく。

「咒法師だな、貴様」

 男の声がした。低く、ストレスを感じている声だ。

 似たような言葉は何度も掛けられたことがある。嫌われ者の代名詞の一つである所為か、その言葉に好意が込められていることはまず無い。吐き捨てるように言われるか、呪詛を放つかのように言われるかの大抵二択だ。ここ最近起きた例外と言えば、イヴェールに尋ねられたときくらいだ。

 特に害をなしていなくても、噂や迷信は一人歩きする。咒法師の場合はそれが顕著であるようだ。だが、何もしていなくても、嫌われるときは嫌われる。好かれるときは好かれる。人でも咒法師でも、そこは変わらない。

 何を言われてもめげるシンではない。逆にそれを反抗精神の活力に変換しているくらいだ。見下されたからといって、上目遣いなど決してしない。下手に出る理由など何も無いからだ。彼の目線は常に下向き。同時に顎は上向き。むしろ、シンの方が全てを見下す構えである。それが彼の主義でもある。

 その悪く言えば傲慢な主義に基づき、人様の腕を捻り上げた不遜の輩の顔を見るために、シンは顔を後ろに向けた。

「お宅、どちら様」

 視界の中に、一点の赤が見えた。

 点に見えたそれは、男の瞳であった。

 ――赤目……。しかも、鳩の血みたいな紅……。

 色が見えたのは左目だけ。右はモノクルと金の髪に隠されていた。

 隠していた。モノクルを置き髪で御簾を作って隠していた。だが、隠し切れていない。

 そこまで見て取ってから、シンはゆっくりと口角を上げて笑んだ。

 不意に笑んだシンを見て、腕を捻っている男は僅かに怯んだ。

「貴様か?」

 男は尋ねるが、質問の意味がシンには解らない。答えない代わりに、小さく眉根を詰めた。

 質問が通じていないことを知り、男はまた口を開いた。

「貴様か、と訊いている」

「主語がねぇよ。『王様』」

「な……」

 男は完全に目を剥いた。その隙に、右手から術を放った。捻られていたために、手の平は男の方を向いていた。これは誤算だっただろう。右腕が自由になった。

 二人の間で小さな爆発が起き、その爆風に乗ってシンは前方へ一回転して着地。

 男は術をまともに喰らいながらも、腕で顔を庇いながらその場に踏みとどまっていた。腕を下ろし、露わになった表情は赫怒。奥歯を噛み締め、瞳は燃え出しそうな色を放っている。

「相手解っててちょっかい出したなら、もうちょっと考えようぜ。それとも、咒法師は知ってても、それがなんだか解ってなかったのか? 不勉強だな」

 弱い者虐めを楽しむが如く、シンは男を笑い飛ばした。

「貴様ァ! やはり貴様だな!」

「おいおい。初対面で何を意味不明ぬかしてるか。うろ覚えで人違いするなよ」

「黙れ咒法師!」

 男の右手に、一振りの刀が現れた。既に鞘から抜かれた状態で、赤い刀身が妖しく光っている。

 あからさまな殺気が、地を蹴って向かってきた。赤い切っ先は迷わずシンを狙っている。

 シンは動かない。

 直立不動。

「憎しみで、既に盲目か……」

 赤い弧が描かれる。

 描ききる前に、シンは右手を出した。刃は、しゃしゃり出てきたそれを両断すべく襲いかかる。

 だが、侵攻はそこで止められた。

 手の平と刃の間には蒼い力。刀はそれを斬ることが出来なかった。しかも、引き下がろうとしたところを掴まれ、動きを封じられた。

 男は再び目を剥き、息を呑んだ。殆ど素手で得物を掴まれているこの状況が信じられない様子だ。

「放せ!」

「いいけど? ついでに飛べよ」

 シンの左手は既に男の腹を狙っている。右手で放つときよりは薄い蒼が、外しようのないほぼゼロ距離で放たれた。同時に刀身を掴んでいた右手を放す。

 男は後方へ飛ばされた。転倒は何とか避けたが、地面に膝と手を付いた。

 まだ殺気は消えていない。しかし、純粋な殺気ではなくなっていた。

 それこそ泣き出しそうな憎悪、卑屈、悔恨。

 この男、既に折れてしまいそうなのだ。

 目の仇にしてくる理由など知ったことではない。知っていたところで、希望を叶えてやるつもりもない。

「その色……。その蒼の瞳。……違うというのか」

「訳わかんねぇけど、少なくとも初対面だぜ?」

「だが、さっき、王と……」

「それは単に知識があるだけ」

「知識……」

 何を言っても納得しそうもない。面倒臭い男だ。

 戦意を喪失したのか、男の手から刀が消えた。ただ、殺気はまだ溢れている。無理だと知らしめたにもかかわらず薄れない。相当咒法師を憎んでいると見える。

「シィィン! 何かあったのー?」

「おーい、クロード! 今なんか凄い気配をここで……」

 二種類の声が同じ方向から聞こえてきた。

 男とシンは同時にその方向に目をやる。

 やってくる一人は頭に載せたゴーグルがトレードマークの金髪緑眼やんちゃ小僧。コイツは知っている。敢えて言おう。フェイだ。迷子になったものばかりと思っていたが、何か引き連れて帰ってきた。

 もう一人は、茶髪に鳶色の瞳、丈が大きくてガタイのいい男。一見しただけではただの人間だ。だが、気配が違う。大分薄れてはいるが、血の臭いがする。そして、異様に強い目の色をしている。鳶色のその瞳、何かの拍子に赤く燃えそうだ。

 互いに声を掛けながら走っている方向が同じ事に気付いた両者は、一度立ち止まって顔を見合わせた。勿論面識がない彼らは、一瞬怪訝な顔を突き合わせたが、すぐに前の動作に戻る。

「フェイ。良かったなぁ、戻って来れて」

「ユン、貴様、何しにここまで来やがった」

 今度はここでも互いの顔を見た。蒼と紅の瞳がぶつかり合う。

「……シン、か。名は、知らんな」

 知らなくて当然だ。口にはしなかったが、何となく通じただろう。

 迎えの存在を知り、クロードと呼ばれた男は立ち上がった。わざとらしく大きな動きでコートの汚れを払う。

 その間に茶髪の男とフェイとがそれぞれ探していた相手の横に立った。

「貴様な、誰がここに来いと言った」

「や。クロードが出ていってすぐに、何かデカイ気配したから、来てみたらこれだよ」

「コーヒー豆片手にか」

「あ、まあ、その、ついでってやつ?」

 よく解らない二人組に出会ってしまった。ひとまず、ストッパーと思しき存在が現れたのは助かる。

 こちらが望まずとも、ネスジアにいる限り縁がありそうだ。トラブルは、むしろ歓迎する方針である。

 とはいえ、まだ腰を落ち着ける場所も見つけていない状態だ。勘違いな男を構うのはその後がいい。

 先程フラフラと離れて行ってしまったイヴェールの気配を探し、後ろを向いた。

「その……男」

 イヴェールは居た。だが、立ち尽くし、瞠目していた。

 遠くからでも顔を青くして唇を振るわせているのがよく解る。彼女が見ているのはただ一点。

「使神……」

 赤い目の男だ。

「使神……。使神なんて……、使神なんて!」

 駆け出したイヴェールの右手には短刀。逆手に強く握られている。この場から一旦無くなった殺気が、ここに再び現れた。

 彼女の種族をもう少し意識していなければならなかった。彼女は天隷。神の使いの奴隷。そして、この赤い目の男は……。

 シンは身体ごと振り返り、脇を抜けていこうとしたイヴェールを正面から抱き留めた。

「放してよ! 殺させて! あの男を殺すの! 使神を、殺すの!」

「イヴェール。あいつ一人殺してどうする。どっちにしろ、おまえじゃ歯が立たない」

「何で邪魔するの。男は男の味方をするの?」

「そう思うなら、まず俺を殺して行けよ」

 天隷である彼女がこんな暗い土地で這うように生き、使神の男を目の前に臆することなく殺気を放ち、殺すと叫べる理由が、何となくだが解った気がした。

 憎しみに突き動かされただけで、天隷はこんな風に動けない。そう、創られている。

 憎くても、殺したくても、最終的には膝を付き腰を折ってしまう。

 だが、イヴェールはそうならない。男を、使神を憎み、刃を手に向かってきた。シンが退けば、金髪赤目の男が、そこにいる。

「退いて!」

 肩を狙い、短刀が振り下ろされる。

 退くつもりは、ない。

 怒りに喰われ、見失いすぎた彼女を通すわけにはいかなかった。思い通りにさせても、傷つくのはむしろ彼女の方だ。

「おい、貴様!」

「ちょ、あんた!」

「シンってば!」

 呼ぶ声がする。

 別におまえらの為じゃない。傷ついて壊れる女を見るのは、懲り懲りなだけだ。自分の望みだ。自分の欲求だ。少し血を流しただけで彼女に正気が戻るなら、安い。

 勢いは全く殺がれないまま、切っ先が肩に食い込んでいった。

 イヴェールの目が見開かれていく間に、刃は全て埋まった。刃先は貫通して背から顔を出している。

 流石に痛い。シンは左目を細めた。

「なんで……」

 確かに不思議だろう。そこまでする必要があったかどうか、自分でも疑問だった。

 彼女の手を押さえても良かった。得物を取り上げても良かった。でも、そんなことをして、彼女に何を伝えられる。力に物を言わせて蹂躙する男が一人増えたと思わせるだけだ。そう思ったから、敢えて刃を受けた。

 次に訪れた混乱に後ずさろうとするイヴェールを、シンは引き寄せた。

「飛べなくなった鳥を、これ以上屠るのか?」

 イヴェールだけでなく、背後でも空気が揺れるのを感じた。小声で言ったのだが、聞こえたのだろうか。

 まあいい。聞こえたのなら聞こえたで、効果はあるはずだ。

「無理に赦さなくたっていい。でも、全部憎んでどうする。最後の一人まで殺すのか? あいつはおまえに何かしたのか? それを、覚えてるのか?」

 泣き出しそうな顔を俯かせて、彼女は頭を振った。一部のことを抜かして殆ど記憶がないことは、彼女自身が言っていたことだ。恐らく、使神への憎しみだけが残っていたのだろう。その所為で無謀な行為に及んだというわけだ。

「ごめんなさい……。私……、貴方にこんな……」

「いいって。それより、抜きたいから手放してくれる?」

 イヴェールの右手と場所を変わると、一息置いてから一気に短刀を引き抜いた。顔を顰める程度には充分痛い。

 痛みには強いが、長いこと怪我知らずだったので、この感覚は新鮮だった。進んで味わいたい物でもないが。

 刀身から血を払いイヴェールに返すと、左肩に右手を置いた。光を作り押さえつけ、手を離せば傷は塞がる。自然治癒力もかなり強いが、今回はそれに任せるには傷が深すぎた。治る前に貧血になってしまう。

 服が元に戻らないのだけが悔やまれる。

「さて」

 今度はイヴェールを背にし、二人の男の方へ向き直った。傍で若干オロオロしているフェイは放置だ。

「貴様、何のつもりだ」

「別に。恩を売るつもりもないし、あんたに助けが必要だとも思ってなかったし。俺が好きでやったことだから気にしないで」

 クロードは赤い目を細め、不機嫌そうに睨んできた。

「刺されたかったっていうなら、今から俺が刺してやるけど? どう?」

「そういう話はしてない」

「じゃあ、どういう話がしたいわけ?」

「貴様、咒法師の分際で何を知っている」

 ああ、そういうこと。

「咒法師が物識りじゃいけないみたいな言い方だな。気に入らね」

 口で言うほど不快には思っていない。突けば突くほど眉間に皺を寄せる赤目の男を見ているのが面白いだけだ。

 あれからずっと、彼の傍に寄り添うように立っているユンと呼ばれていた男は、快も不快も表情にせず、ただ心配そうにしているだけであった。二人がどういう関係かは知るところではない。

 この時点で解ることは、二人とも人ならざる者である、ということ。

 何かの事情でこの暗い世界にくらす殿上人。咒法師に抱くのはただならぬ憎しみ。その所為で巡り会った。

 この出逢い。何の意図が働いたか知らないが、面白すぎる。

「ねえ……。俺、結構置いてかれてるんだけど、取り敢えず、あの二人誰」

 放置していたフェイが見上げてきた。説明しないとまたふて腐れてしまう。一度尋ねたことに答えが来ないと、二度三度と尋ねては来ない。ふてさせておいてもいいのだが、それはそれで鬱陶しいこともある。

「俺のことが嫌いなんだってさ」

「来たばっかりで嫌われるなんて仕事早いなぁ。知り合いって訳じゃないんだろ?」

「違う違う。人違いもされちゃったしね」

「誰と?」

「そんなん俺が知るかよ。こんな色男がそこら中にいたら、人様に迷惑だろうが」

「……確かに、シンが沢山居たら迷惑この上ないね。納得」

「コラ」

 質問には答えていないが、納得して貰えた。嘘はついていないので罪はないだろう。

 笑っていると、俯いたままのイヴェールが右腕に抱きつき、額を当ててきた。混乱から醒めて居たたまれなくなったのだろう。肩を撫でてやると、少し震えていた。

 男は嫌いだろうに。面白い女だ。

 そして、奴らも面白い。

 流し目で、向こうを伺った。



「あの目……。気に入らんな」

 蒼い目が嗤っている。

 ユンがこちらを向いたが、クロードは蒼い目を睨み続けた。

 嘲笑。蔑み。笑う。嗤う。あの時と同じ色をして。

「クロード。やめなって。確証もないのに」

「黙れ。どのみち咒法師は好かん」

 思い出せないのが恨めしい。ネスジアに来る以前のことは、断片的にしか覚えていない。それはユンも同じ事で、二人とも記憶を手繰るということが出来ない。

 右目に痛みが走った。疼痛。

「おい、咒法師。この近くには二度と寄るな。不愉快極まりない」

「それはいいけど、あんた、喧嘩売る相手は間違えんなよ。手負ってなくても、あんたは俺には勝てない」

「貴様……」

 拳を握ってみたが、振り下ろす先がない。

 不味い物を無理に飲み込まされたような気分だ。奥歯を噛んで押し黙るしかなかった。

「じゃ、もう会わないといいな」

 言葉とは裏腹のことを滲ませた笑みをして、黒髪の男は連れと共に背を向けて去っていった。彼は一度も振り返ることなく姿を消した。癪に思いながらも、見えなくなるまで睨み続けていた。

「俺さ、クロードほど良く覚えてないからアレだけど、あいつ、そんなに似てた?」

「ああ。特に嗤うときのあの目が、よく、似てる……」

「咒法師ってみんなああなのかもよ?」

「それはそれで不愉快なことだ」

 クロードも反転し帰路に就いた。ユンも後に続く。

 右目の疼痛はまだ続いていた。しかもそれは、幻痛だ。今になってこんな感覚に襲われるとは思っても見なかった。悪夢は見ても、痛みは忘れていたというのに。

「咒法師とは、何だ」

「さあ、俺も良くわかんない。ただ、クロード相手に滅茶滅茶強かったな」

「強さもそうだ。だが、奴が持ってる知識。あれはなんだ」

「なんか言われた?」

「王、と。そう、言ってきた。天隷の女を連れ、使神との関係を知り、手負いと言い、あの強さ……」

「そういえばあのちっちゃいの、緑の目だったな。そんな種族、居たっけ?」

 ユンが言うとおり、そのことも引っかかっていた。

 不可解なことばかりだ。はっきり言って、咒法師のことなど何も知らないに等しい。解っているのは、憎むべき相手、ということくらいのものだった。

「それに、クロードを王様って言うなんて、ただの物識りって感じしないな。これで『緋の王』だったら完璧」

「黙れ」

「……」

 かつて周りが勝手に呼んできていたあだ名を、あの男は知っていた。あの様子だと、ユンが口にした呼び名も知っている。

 呼び名が何だというわけではない。だがそれは、神に仕える者達が使っていた呼称だ。卑賤の咒法師が知っていていいものではない。

「貴様はどう思う」

「……」

「……なんだ」

「や、黙れって言うから……」

「状況を判断する能力もないのか貴様。最強とまで呼ばれても、所詮は殉徒だな。戦うしか能がない」

「料理も出来るよ」

「その減らず口に貴様の剣を頬張らせてやろうか」

「俺の味覚がおかしくなっちゃったら大変なことになるんだからなぁ。しーらない。それにさ、羽根のない殉徒から爪を奪ってるんだから、大人げないことよそうぜ?」

「預かってやってるのに人聞きが悪いこというな。そういうなら捨てるぞ、こんなもの」

「あー! こんなものとか言った! ヒドイやクロード。俺の大事な物……」

 戮訃、殉徒、天隷、使神という序列の中、下から二番目であるにもかかわらず最強と呼ばれた男が、こんな子供じみた泣き言を言うとは。恐らく、わざとそう言っているのだろうが。

「で、どうなんだ」

「俺がこうなる前の状態だったとしても、勝てるかどうか怪しいな。負けたこと無いからよくわかんないけど」

「一度あるだろう」

「それ言うなよ」

 一度。その一度のためにこの地に堕ちた。這い上がることも取り戻すことも出来ず、狼狽するように生きるしかできなくなった。

 そうなる原因となった咒法師に酷似した男を、ユンさえも勝てるか怪しいと評する。

 知識。力。

 関わらない方が身のためであることを、本能が告げている。

 だが、もしもあの男が仇であるのなら、という思いは捨てられない。そうであるのなら何があっても食いつきたい。

 半ば堂々巡りに陥った思考に没頭していたクロードは、家にたどり着いて中に入ると、後ろ手でドアを閉めた。

「むぎゃ」

 変な声が外からしたが、あまり気にしなかった。

 遠くで悶絶する声がして暫くすると、鼻を押さえたユンが入ってきた。どうやら忘れてきてしまったらしい。

「ドアの癖に何て攻撃力!? このっ。悪いドア!」

 ドア相手に元気なことだ。

「ほら、ユン。遊んでないでコーヒーを淹れろ」

「はーい」

 ドアには靴痕が無数に付いている。子どもの八つ当たりのようだ。

 電源も切らずに起きっぱなしであったパソコンの前に座り、嘆息。結局、答えなど何も得られなかった。余計なものに出会ってしまっただけだ。

 今日のことが吉と出るか凶と出るかはまだ解らない。少なくとも、馬が合いそうな相手ではなかった。

 ユンがコーヒー豆の封を切ったらしい。いい香りが漂ってきた。

「今はもう……いいか」

 詰まるところ、面倒になったわけだ。

 パソコンの電源を落とし、画面を閉じた。そして、目の前から退かすと、少しだけ気が楽になった。

 何も解決していないが、たまには放り投げることも悪くない。

 空いたスペースに、ユンが淹れたてのコーヒーを持ってきた。

 いい香りだ。

 せめて飲み干す間くらい、悪いことは忘れよう。そうするよう、努力しよう。


   *


 歩いているシンの足取りがいつもより軽い。

 歩き始めたときからそのことが気になっていた。

 彼の足取り軽く軽快なのはいつものことだが、今日はそれがいつにも増して軽い。上機嫌そのものだ。

「ねえ、なんか、スッゲ機嫌良くない?」

「まあな」

 シンは軽く答えるが、声は更に軽い。

「あのクロードとかいう男」

「デカイ方?」

「いや。俺の腕捻った赤目の男」

「あー。珍しい色してたね。蝙蝠の目と同じだよ、あの目」

「あの男。また縁がありそうだ」

「えーっ。俺、あいつあんま好きじゃないよー。まさか、それがウキウキの理由?」

「そんなトコ」

「うっわ。シン、それ、悪趣味違う?」

「悪趣味とは何だ。面白いじゃん。ああいうヤツ」

 何がどう面白いのか二百字程度で説明して欲しい。

 シンは赤目の男、クロードのことを『使神』と言っていた。それが正しいのならば、世界の実質の支配者と言われる階級・種族のことだ。金髪に紅い瞳。世界と同時に天隷の支配者……。

 不安に思い、盗み見るようにしてイヴェールの表情を伺った。

 彼女はまだシンの腕にしがみついて、目を伏せている。顔色は青白い。

 無理もない、と思った。個人的な関係があったかどうかはともかく、彼女にとって使神とは蹂躙してくる者でしかないはずだ。使神と天隷との関係性や関わり方は殆ど知らない。でも、心休まるものとは到底思えない。

 複雑だ。社会経験は五歳児に等しいこの身としては、大人の世界とは難儀である。

 ここに好いた腫れたが入ってくるともうお手上げだ。得手不得手は解っても、愛憎になると理解の範囲を超えてしまう。経験したことがないから解らない、というレベルではない。言葉が持つ意味さえも下手をしたら解らない。

 理解が及ばないことは、感性が受け付けない。受け付けない物が入ってくるともやもやと不快になってくる。

 最近、その靄が立ち籠めることが多くなった。原因は分からない。

 不用意にイヴェールに声を掛けるわけにもいかず、フェイは視線を二人から逸らした。

 その先の空が、もやもやと動いていた。

 動く空、というのは聞いたことがない。しかもその靄は規模を大きくして景色を黒く染め始めた。

 黒い景色の中に赤い点がちらほら浮いていた。

 やがてはっきりしてきたそのフォルムに、見覚えは十二分にあった。

「シン! 蝙蝠、また来たよ!」

 シンの方に向き直ったフェイだが、目線の先で黒髪の男はニヤニヤ笑っていた。大分前から襲撃の兆候を知っていたかのようだ。

 たまにこの男に腹立たしいと思う。自分一人だけ強くて、余裕を見せて、愉しんでいる。巻き込まれる方としてみれば、彼と同じだけの力量を持っていないわけだから常に冷や汗が流れっぱなしだ。

 もう少し、弱い方のことを考えてくれてもいいのに。

 それとも、威を借りて余裕を見せていればいいとでも言うのか。

 わからん。フェイは口をへの字に曲げた。

「そう拗ねるなって。これでも俺、ご機嫌と不機嫌の境目にいるんだぜ」

 だからなんだ。思ったが言わなかった。

 中途半端な精神状態であるらしいシンは、立ち止まり、前方を見据えていた。

 黒い機械は無数にあり、どこからともなく湧いてきたかのような印象を受ける。前回この蝙蝠に追いかけられたときも同じようにして現れた。

 しかも今回は、別の土地に着たばかりだというのにこの有様だ。

「着て早々、随分な歓迎だな。ストーカーかよ、イヤラシイ」

 シンも同じ感想を抱いているようだ。

 彼はいつものように右手を突き出したが、何故かフェイの方を向いた。

「同じやり方じゃ芸がないかな?」

 お伺いを立てられているらしい。

 黒い大群はすぐそこまで迫ってきているというのに、そんな悠長な質問をされるとは思っても見なかった。一瞬、何を訊かれたのか理解できなかったほどだ。

「カッコつけなくていいからさっさとやっつけろよ!」

 慌てて喋った所為で、腹話術に失敗した人形のように、言葉よりも多く口が動いてしまった。

 ぱくぱくしている様を見て、シンがまた笑った気がした。

「仰せのままに」

 にやけたまま気取って頭まで下げると、シンは改めて眼前の敵を凝視した。

 シンはまだ術を放たない。相手を引きつけているようにも見えるし、余裕を見せつけているようにも見える。

 首を一回し。音は鳴らない。肩凝りとは無縁の男だ。

「勝てない喧嘩を何度も売るのは、愚か者の所業なんだけど、気付けねぇよな」

 シンはもう、相手が誰だか解っている。解っていて、見下して、莫迦にして、口角を上げて嗤う。

 笑んだ目は細くなり、瞳孔は収縮。

 突如、前方から爆炎が発生した。瞬いている間に何らかの術が放たれたらしい。

 炎は渦を巻いて蝙蝠達に襲いかかっている。

 初めて見る咒法だった。前方に発生している炎からやってくる熱風で、頬がちりちりと痛い。いつもは蒼を伴う涼しげな術ばかりなのに、今回は炎ときた。この分だとまだ手札を隠しているに違いない。

 近くの民家は焼けてしまわないだろうか。

 疑問に思ったときには、炎は敵だけを焼き尽くし、収縮し、酸素を失ったかのように消えて無くなってしまった。そういう特製の術なのか、使役者が調節したのかは解らない。横目で見ると、シンは既に右腕を降ろしている。手の甲にはいつものように一筋の傷が血を滲ませている。この血の理由も知らない。

「ねえ、シン……」

 終始シンの腕にしがみついていたイヴェールが顔を上げた。

「使神が使役していた機械をいとも簡単に焼き尽くしたり、使神と互角以上に戦ったり……。咒法師って、何なの……?」

「俺にもよくわかんね。厄介者、ってコト以外、誰も教えてくれねぇんだもん」

 本人にも解らないことをこれ以上問えず、イヴェールは口を閉ざした。

 過去のこととは言え、蝙蝠は使神が監視用に使っていたものだ。そうイヴェールから聞いている。それを難なく破壊し尽くしてしまう力は、やはり尋常ではないのだ。

 ここに来て、一つ引っかかった。

 使神と蝙蝠。

 点だけだった事柄に、ここに一つ、線が生まれた。繋ぎ方が間違っていなければ、の話だが。

「シン。蝙蝠ってさ、使神が使ってたんだろ? さっきのモノクルの男、使神なんだろ?」

 そこまで言ったとき、ちょっと待ってて、とシンはイヴェールの手を解いて一人歩き出した。

「ちょっとぉ」

 制止など聞きもしない。

 一歩二歩、するすると歩いていく。

 フェイとイヴェールは置いて行かれた恰好で立ち尽くしていた。待ってろと言われたからには立ち止まっているべきだろうとも思ったからだ。

 服の袖を引かれた。顔を向けると、イヴェールが服を握ってきていた。呼んだ、というわけではないようだ。安堵をくれた腕が離れていってしまって、心細くなったのだろうか。

 人に頼られることは経験がない。すべてを委ねられると荷が重いが、腕くらい、袖くらい、貸してあげて悪い気はしなかった。

 気が付けば、シンは数メートル先にいた。このまま置いて行かれるかも知れないと、心配になり始める距離でもある。

 彼の背を追って見渡した辺りは、若干の煤が付いているものの、塵も殆ど残さず建物に損傷もない。大したものだ、と上から目線で褒めてみる。

「……あ」

「……あ」

 出来事に気づき二人揃って声を上げたとき、シンの右手の中に黒い物が収まっていた。

 それは物陰から飛び出してきたのだが、あっさりとシンに捕獲されてしまっている。素手で捉えたそれを、シンはまじまじと見ている。黒いオモチャはじたばたと暴れているが、シンは涼しい顔をして掴んでいる。握力以外の力を使っているのか、手には暴れる蝙蝠を掴むに充分な力が込められているようには見えない。

 シンが、侮蔑するかのような笑みを口元に浮かべて首を傾げた。

 その様を蝙蝠はどう捉えたのだろう。いっそう暴れて逃げようとしている。

「おばかさん」

 呟くと、シンは手にあった蝙蝠を握り潰した。破片クズは彼の手から離れるに従って細かい塵となり、風に乗る頃には質量を殆ど失っていた。

 無に帰す。

 そんな感じだった。

「何か解ったの?」

 戻ってきたシンにイヴェールが尋ねた。

 まあ、と首肯しながらシンは黒い粉が残る手を叩く。

「とにかく、あの男を目の仇にすんなって。あの傷物、腐ってもこんな姑息な真似しないさ」

「何でそんなことが解るのよ。使神に蝙蝠。繋がるじゃない」

 やはりそう思うのは自然だ。問い掛け途中で場を離れたシンは、戻ってきて答えらしき物を返してきたが、イヴェールでさえ納得していない。

「繋がってるように見えるだろうけど、繋ぐべき点は別にある。あの男は蝙蝠の事なんて知っちゃいないさ。関係ないんだからな」

「なんでそんなこと言えるの」

 イヴェールが食いかかる。フェイも同じ気持ちだった。

 会ったばかりという使神の何が解って、知った風に断言するのか。

 答えて欲しいか、と言わんばかりにイヴェールからフェイへとシンは視線を巡らせた。

「犯人、俺もう知ってるしね」

 知っている?

 心当たりは一つだけ。珍しくシンが感情を揺らした声の主。高音域が耳に痛い声の持ち主の女。

 予想が当たっているかどうかを確かめるのは、少し怖い。人の内側をみだりに掻き乱してしまうのは避けたかった。特に、シンならば尚更。

「でもまあ、ツラは暫く拝めそうにないから、その前におうち探ししなきゃな」

 割と機嫌が良さそうなのを見て、訊いても良かったかも知れないと後から思った。

 シンが歩き始めたので、後に続いた。イヴェールの手はシンに戻ることはなく、フェイの袖を掴んでいた。歩き続けるうちに、彼女の手は彷徨うように離れていった。

 この腕は、落ち着く場所ではなかったらしい。

 歩きながら、フェイは緩く空を仰いだ。

 どれだけ進んでも、トタンやコンクリート打ちっ放しの家ばかりで、高さはせいぜい五、六階が限度。空に限界があるとでも言いたげに高い建物は見あたらない。

 滅入る空。貧しい街。足りない光。アルクァで感じていたこと、そこに乾いた空気が足されたのがネスジアであった。嫌いなどとは言っていられないが、好きになれそうにない。アルクァも似たようなものだったが、憂鬱の種はここよりは少なかったように思える。

「な、どんな家がいいかな」

 一人前を歩いていたシンが振り返った。

 本音を言えば、今この瞬間は、家よりもシンの右手に出来た新しい傷の方が気になっていた。術を使う度に増える傷。怪我ならばすぐに綺麗に治るのに、術を使って出来る傷はすぐに塞がっても跡が消えない。

「部屋は三つあった方がいいよな。フェイもずっとソファじゃヤだもんなぁ」

 他人の気がかりなど知る由もなく、話は勝手に進んでいく。

 確かに、寝返りは打てないし、頭から足まで水平にならないから落ち着かない。

 だが、ソファで寝ていたのはシンの方であって……。

「……って! 俺を部屋からほっぽり出すのも辞さない構えだったの!? その酷い思考、どこから来るの? 悪い頭? 黒い腹?」

「随分褒めてくれるじゃねぇか。そんなこと言わせるのは何処だ。右脳か? 左脳か? それともこの口か?」

「口に脳味噌は付いてません!!」

「じゃあ、頭吹っ飛ばせばいいわけか」

「莫迦でしょ! 何でもそれで解決すると思ってるでしょ!」

「ああ。飛ばせば黙るからな」

「色々通り過ぎて莫迦ですらない! オカシイ!」

 言葉の応酬をしている途中で、突如、片耳を掴まれた。そして強く引かれた。

「いて」

「いででで」

「大声で騒いでないで、真面目に家探ししなさいよ。今夜野宿する気?」

 右手でフェイの、左手でシンの耳を摘み、イヴェールが言った。言わずもがな、ご立腹の様子だ。

 シンの方を強く摘んでいるのか、単に反応が大袈裟なだけなのか、彼は大分痛がっている。きっと、前者だろう。見た感じ、摘むと言うよりも摘み上げると言う方が、イヴェールの手の位置からして正しいように思える。

 そして、フェイから先にイヴェールの手が離れていった。シンはまだだ。

「キャンプがいいなら一人でやってよね。私とフェイはアルクァに戻して」

「ごめんごめん、解ったから、耳、放して」

「真面目に考える?」

「考える。他人が三人住める家をば」

「よろしい」

 やっと解放されたシンの耳は、やはり赤い。痛そうだ。

 自分に、シンの耳を引っ張ることは出来ない。彼女と自分の境に何があるのだろうと、フェイは首を傾げた。違いなどいくらでもある。決定的なものは解らなかった。

 イヴェールがシンの背を叩き、先へ進めと促した。いつの間にか、彼女の腕はシンの左腕に巻き付いている。

 あんなに険しく悲痛な顔をしていたイヴェールが、今は笑っていた。無理は隠し切れていないが、それでも笑おうとしている。

「頑張ってるからなのかな。でも俺は……」

 まだ、怖がってるだけなのかも知れない。

 独り言はフェードアウトした。子どもと大人が同居する心で、大した時間しか目を開けていない癖に、背伸びをしようとして、それなのに足は震えて踵を上げられずにいる。

 付いていこうとしていた足が自然と止まった。

 気を抜くと止まってしまうのか。物のついでのように呼吸まで止まってしまいそうだ。

 息を、しなくては。

「フェイ? どうしたの?」

「ん。何でもない」

 振り返ったイヴェールに笑顔を見せて、フェイは二人に駆け寄った。

「ぼーっとしてると捨て子にしちゃうぞ」

「元々そんな感じだから気にするもんか」

「おー。ベソ掻いて反論するかと思ったらやるじゃん」

「今まで一度だってベソなんか掻いたこと無いだろ!」

「俺が虐めると、泣きそうな顔して怒るじゃん」

「あ……。虐めてるって言う自覚はあるんだ」

 こんな大人げない大人との意味のない言葉の応酬。かと思えば、時に意味深すぎて通じない。

「こら、いじめっ子。私が虐めてあげようか」

「方向性にも因るなぁ」

「言葉は効かなそうね。痛いのも強そう。そうなったら、窒息するまでくすぐってあげる!」

「それ苦手かも!」

 と言う割に嬉しそうなのは気のせいか。

 男という生き物は好かないはずだと勝手に思っていたが、イヴェールはフェイやシンには良く笑う。シンに対しては大分砕けてきているように感じた。

 彼女のこともよく解らない。知り合ってまだ二日。会話量はそれほど多くない。それなのに、何故あの不良との方が距離が詰まっているのか。

 解らない。詮索する気はないが、不可解である。

 しかし、この二人の間で、息をしなくては。

 フェイは、深呼吸した。

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