第5話 単純な解決策

 それから、二日後のこと。


「おい、イコライ」

「ん?」

「お前、ソラちゃんと何かあったの?」

「……え、なんで?」

「いや、なんでって、お前な」


 更衣室でフライトスーツに着替えながら、イコライとカイトは話していた。

「普段、俺の前であれだけイチャイチャしてるのに、今日はほとんど会話してないだろ」

「は? お前の前でイチャイチャ? いつの話だ?」

「……イコライ、お前、今日のAMMは八発だったな」

「そうだよ」

「じゃあ、お前を殺すのに必要なミサイルは九発か。それはコストがかかり過ぎるな。だったら俺の得意な機銃で撃ち落としてやろう。あれならAMMも関係ないし」

「とりあえず、お前が怒ってるのはわかった。で、何の話だっけ?」

「ソラちゃんだよ!」


 カイトが本気でイラついているようだったので、イコライは二日前の夜に何があったのか白状した。すると、カイトはなぜか感嘆のため息をもらした。

「ほんとすごいよなあ、ソラちゃんは。彼氏と喧嘩までするのか……ロボットなのに、ちゃんと自分の意志がある、ってことかなあ」

「……科学者によれば、人間に自由意志があるかどうかは怪しいらしい。というか、多分ない、っていうのが通説になりつつあるらしい」

「へえ?」

「でも俺は『意志があるように見える』ってことが大事なんだと思う……ソラは良い子だよ。喧嘩もするけど、俺のことを想ってくれている。たとえそれが『そういう風に見える』だけだとしても、そんなの、人間の女の子だって同じことだ。だから俺は、ソラの気持ちに応える。優しくしてもらっておいて、何も返さないのは、俺の主義に反する」


「……うん、なるほど。そりゃソラちゃん怒るわ」

「え?」

 イコライはカイトの言ったことに虚を突かれて、間の抜けた子供のような顔になった。

「な、なんで?」

「あのな……お前のそういう、義理堅いところは好きだよ。まともなやつなら、誰だって好感を持つと思う。でもな、他の誰もお前に求めていないことの中に、ソラちゃんだけがお前に求めていることがあるんだよ」

「なにそれ?」


 カイト・メイナード……イコライと、その後も長きに渡って共に戦うことになる戦友……は言った。

「愛だよ、愛。それも、アガペー(博愛)じゃなくてエロース(性愛)の方だ。小難しい哲学なんかいらねーよ。『君のことが好きだ』って言ってやらなきゃダメなんだ」

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