二軒先の角を曲がって彼と出会った物語

永遠莉華

珈琲と思い出

いつものように珈琲を飲むと、ふとあそこの珈琲のことを思い出す。『また、久々にあそ

この珈琲を飲みにでも行こうかな。』と思い、家から二軒先の喫茶店に向かった。でも、そこの喫茶店は何年か前に閉店をしていた。


これは私がまだ小さかった頃の話である。昔はよく、おじぃちゃんに二軒先の喫茶店に連れて行って貰っていた。そこの喫茶店は、とてもじゃないけど綺麗な景観とは言えなかった。

植物の蔓が店の外観に絡まっており、何処か落ち着くような外観であった。そこの喫茶店のマスターは、お爺さんであった。そのお爺さんはとても優しく、物知りな人であった。

外見は白髪頭で、白い髭を生やしており、いつもスーツ姿であった。そんなお爺さんは、この喫茶店を一人で切り盛りしていた。この時の私は、マスターであるお爺さんに憧れを抱いていた。そして、憧れを抱いていた私はマスターに尋ねた。

「マスターは、なんでこの喫茶店?を開いたの?」

私はこの頃まだ小さかったため、無粋な質問をしている事には気づくわけもなかった。しかし、マスターはその無粋な質問に応えてくれた。

「それはね。ただ、私がこの空間で仕事をしていたいと思ったからなんだよ…でも、君にはまだ分からないか。」

私はマスターが言った事がよく分からないでいたが、この歳になるとその言葉の意味が何となくではあるが、わかるような気がしていた。でも、今となっては確かめることが出来なかった…

マスターが言った後、私はよく分からないと首を少し傾げながら、不思議そうな表情で言った。少し経つと本を読み始めていた。その本は、幼い子供達が読むような絵本や昔話ではなく、絵がない小説であった。しかし、幼いため漢字が読めなかったので一緒に来ていたおじいちゃんに聞きながら読んでいた。おじいちゃんに私が漢字のことを尋ねると、とてもいい笑顔で、嬉しそうに1字1字丁寧に教えてくれた。

「これってなんて読むの?」

私がそう言っておじいちゃんに尋ねた時に指で指していた漢字は『紫陽花』であった。

「これはね、アジサイって言うんだよ。アジサイは6月頃に咲いている花だがらもう少ししたら見れると思うよ。咲いたら一緒に見に行こうね。」

私はおじいちゃんが教えてくれた『紫陽花』がとても気になっていた。そして同時に早く6月になってくれないかなとも思っていた。この時の月日は5月25日であった。

私は少し後悔していた。あの日、もしも私があんな事を言わなければ、きっと未来が変わっていたのだろうとふと珈琲を啜りながら思っていた。そして、珈琲を啜りながらあることも思った。

『これじゃ、マスターの入れてくれた珈琲の味には程遠いな…』

そう思いながらも珈琲を私は啜った。

小説が読み終わる頃には日が沈みかけて、黄昏時になっていた。おじいちゃんはお会計を済まして、私と2人でその喫茶店を後にした。家に帰ってお父さんとお母さんを見つけると、私は今日覚えた漢字の話をした。すると両親はすごいじゃと褒めてくれた。

その事が嬉しかったのは今でも忘れない。今思うとあれがあったから今こんなにも本が好きなのかとしみじみ私は思って、また珈琲を啜った。

『もう、珈琲を全部飲み干したのか…なら、また、入れないとな…』

そう思いながら私は、椅子から重い腰をあげて台所に向かい珈琲を入れた。そうしてまた戻り珈琲を啜った。

「今日は一人かい?」

マスターは私が1人で来ていることに気づいてそう声をかけてくれた。私は素直に首を縦に振って、おじいちゃんが大切な用がある事を伝えた。そうして喫茶店の本棚から1冊の小説を手に取った。そうして開いた。

「今日はその本を読むのかい?おや?その本昨日読んでいた本だね。」

「うん。昨日読んで分からない漢字はおじいちゃんに教えて貰ったからね、今度はスラスラと読むことができるはずなんだ。」

そう言って私は昨日と同じ小説を読んだ。昨日よりはスラスラと読めてはいたが、やはり、まだ幼いため分からない漢字が多かった。その漢字達に悩まされた時私は頭を、ボリボリとかいた。

「やっぱり、漢字は難しいなぁ。」

私は小さくそう言った。マスターはその事を聞き漏らさなかったらしく、唇の端を上にあげてニコリと私に笑いかけ相槌を返した。しかし、私はこの事に気づいていなかった。むしろ、マスターが何をしているかすら目に写っていなかった。私の目に写っていたのは、小説の物語が書かれている1文字1文字ずつしか入っていなかったのだ。

『そっか私はこの時から小説を読むのが好きだったのか…』

そうして小説を読んでいると雨がポツポツと降ってきた。それは、次第に強くなって行った。その事に気づいて私は自宅に戻った。しかし、そこにはいつもいるはずのおじいちゃんの姿がなかったのだ。

「お母さん、おじいちゃんまだ帰って来てないの?」

尋ねると少し焦った顔になっていた。それは、連絡すら取ることが出来なかったからだ。でも、もう少しで帰って来るだろうと思って待った。しかし、帰ってくることは無かった。何日か経った頃警察の人が家を訪れた。そして、お母さん達は泣き崩れていた。私は何故泣き崩れているのか分からなかった。だから、お母さんに尋ねた。

「なんで泣いてるの?」

そう尋ねると、おじいちゃんが交通事故にあって亡くなった事を知った。そして私もその場で泣き崩れた。

『今日が、おじいちゃんの亡くなった命日か。おじいちゃんには悪い事をしたなぁ。もしも、あの日の前日にあんな事を言わなければ交通事故にあわなかったかもしれないかったんだろうな。』

そう思うと涙が込み上げて来た。そして私はまた珈琲を啜った。

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二軒先の角を曲がって彼と出会った物語 永遠莉華 @Nobesan

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