第27話 爆食

「如月くんがいるから、私がどうなっても安心だね」


急な課長のコトバに戦慄する明日香。


「え?どうにかなっちゃぬんですか????」


舌が回らない。

決して誤字ではない。

明日香は気が動転していた。


「いやあ、モノのたとえだよ。今のところ人事異動する予定はないから安心してくれたまえ。」

「お、驚かさないでください。心臓に悪いです。」

「単純に褒めたかっただけなんだけど、そんな顔面蒼白になるようなことかい?」

「課長、「死亡フラグ」という言葉はご存じですか?余計なこと言ってほんとに異動になったらどうするんですか!?」

「ははは、だいじょうぶだよ。人事異動なんて現象、ここ100年聞いたことないから。」

「短いんだか長いんだかわからない!!!」

「上のポストもいっぱいだから、昇進もないしね。ははは」


課長代行のときの忙しさから、笑えない明日香であった。






「もう食べられないよ…」


今日の担当転生者の第一声がこれだ。


「ようこそ、異世界転生課です。お望みとあらばどんな世界にだって転生させちゃいます!さあ、貴方のご要望はどんな世界ですか?」


「もっと食べ続けられる世界にいきたい」


茂木さなえさん、25歳。死因は食べすぎによる食あたり。

まて、食あたりで死ぬことってあるのか?

まあ、目の前にいるから仕方ない。


「私は世界のありとあらゆるものを食べつくしたい。」


スリムな身体からは想像つかぬほど、食欲があるようだ。

ぎりぎり話が通じてると信じたい。


「それでしたら、『セムフィースト』がよろしいと思われます。この世界では、すべての取り決め、紛争をフードファイトで決定いたします。あなたほどの大食いチャンピオンなら、この世界でも活躍間違いなしです。」

「私、負けないわ。」


超やる気になってくれてる茂木さん。


「一緒にスキルもおつけしますね。【水中毒耐性】【食あたり耐性】【言語理解】です。前世の記憶は持ち越されますが、この転生課での記憶は消えます。」

「食べられるなら何でもいいわ。」


この人、だいじょうぶか?食欲がすべてを優先しているよ?

なんでこんな人が日本にいたんだろう。産まれる世界が間違っていたとしか思えない。


青い炎が茂木さんを包み込む。


「よい世界をありがとう。すべてを食べつくしてくるわ。」



後に、比喩でなく、文字通りすべてを食べつくす茂木さんは、『セムフィースト』にて同じく転生した神と伝説的バトルを繰り広げるが、明日香には知る由もない。




毎度のことながら仕事帰りに居酒屋で飲む明日香と楓。


「私はごはんより、お酒をずっと飲み続けたいなあ」


ぐいと一杯、清酒「人殺し」を飲み干す明日香。


「いや、貴女、毎回バカみたいに飲んでるわよ」

「うひひ~」

「うわ!酒くさっ」

「お酒が飲めて幸せです~」

「そうね~。一升瓶抱っこしながら寝ちゃうくらいだもんね。」

「あれ~?そんなことあったかなあ~?」

「あるあるじゃないの!」

「今日は~、楓を抱っこして寝ちゃうぞ~」


両手をわきわきさせて楓のほっぺをむにむにする。


「やめろ!もうただのオッサンと化してるじゃない!すいませーん。たこわさとたこ焼きくださーい」

「タコばっかりwwwタコ!たこ!ちゅー。」

「ウザ!いいじゃない!食べたいのよ。」

「大食いの人ってさ~、好き嫌いなさそうで羨ましいよね~。」

「実際のところどうなのかしらね。大食いのひとでタコアレルギーとか聞いたことないしねぇ。」

「聞いたことないだけかもだけどねえ…」

「私はピーマン嫌いなのよねー。って、あれ?」

「くかー」

「うわ、日本酒持ちながら寝てるよ…。」

「もう…飲めないよ…むにゃむにゃ。」

「やめてそんなテンプレ!恥ずかしい!」


二人のヨルはこれからである。



続く




※今回の転生先コラボ者さんは、

「白永くんはいっぱい食べたい ~転生したら食事の神だったので、すべて美味しくいただきます!~」

作者 縁代まと  様

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921406081


茂木さなえさんをよろしくお願いします。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はーい、ここは異世界転生課です! 松田ゆさく @yusaku86

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ