第2話 お役所仕事だってちゃんとやってるんです

プハーッ

仕事のあとのビールは美味い!

転生課の平社員である如月明日香の唯一の楽しみが、この一杯であった。

でも、男の人と飲むときは、カシスオレンジにしている。そのほうが可愛げがあるだろうとの無駄なあがきであった。


「店員さーん、もう一杯~!」

「こっちもこっちも~!」


同じく同僚の弥生楓との飲み比べ対決は佳境に差し掛かっていた。


「プハーッ、もう飲めねえ。今日はアタシの負けだ~」


明日香がギブアップする。が、目の前の楓はもう寝ていた。


だいたいの場合、二人とも、翌朝には、「なんでこんなことしたんだろ」と毎回後悔している。


それでも朝はやってくる。目の下のくまさんをファンデでごまかし、髪を無理やりポニーテールにしてぼさぼさを隠す。通勤は自転車なので急げば始業に間に合う。

二日酔いで食欲がなかったのでそのまま職場に向かう。

もはや始業で課長が何を言ってたかもグロッキーで覚えていない。さあ、今日のお仕事開始である。


仕事内容は、案内だ。ただ普通の案内じゃない。明日香の担当区域である日本人を、片っ端から成仏させずに異世界に転生させる。もう日本の地獄も天国も数がいっぱいなのだ。ずいぶん昔に天国と地獄のお偉い方々が集まって決めたんだそうな。

むろん、私はそんなお上の事情は知らない。私たちあの世で働いてたメンバーは総じてこの三途の川役所で働くことになった。

現世の役所と大して違わない。生前に対する妙なクレーマーもいるし、こっちの話を一向に理解できない人がいる。特に比率の多いボケちゃった高齢者の相手をするときは一苦労である。毎日が非常に忙しい。

だが、福利厚生はばっちりだ!有給もとれるし、絶対定時あがり。完全週休二日制!給料もいいよ!

だから毎日飲み歩きが出来るのだが。


さあて、今日の異世界転生者は・・・

と、窓口に向かうと、


「お姉さんこんにちわ、僕の名前は晃司です」


まだ10歳くらいであろう少年が座っていた。


「ん~。晃司くんね、晃司くんは死んじゃったの。わかる?」


なるべく優しく話しかける。


「うーん、とっても痛かった。トラックにバーンされた」


「ようこそ、異世界転生課です。お望みとあらばどんな世界にだって転生させちゃいます!さあ、晃司くんのご要望はどんな世界ですか?」


とりあえず決め台詞は言う決まりになってるので言う。


「異世界ってなあに?」


そこからか。まあ、子どもだから仕方ないよね。


「異世界ってのはね、地球とは違う、絵本の中の世界みたいなところにいけるのよ」


何年もこの仕事をしているが、上手く説明できてる自信がない。


「晃司くんの将来の夢はなあに?」


とりあえずとっつきやすいところから聞いてみる


「スイレンジャー!」


しゅばっと椅子の上にたってポーズを決める


「ん?なあにかな?それは。」


「悪いヤツをやっつける。ヒーローなんだ。」


そっかそっか。テレビのヒーローモノね。なるほど。


「じゃあ、夢をかなえてあげよう!」


書類をサラサラ書き始める


「転生先はシードラムーン。ただいま悪の組織が蔓延っていて危険。晃司くんのスキルは【変身】変身するとすべての能力が10倍になって必殺技も使えるよ!どうかな?」


明日香は目をキラキラさせながら書類を晃司に見せる。


「わぁ、変身できるの?」

「そうだよ!晃司くんの思い描いた姿に変身できるよ!」

「やった~!僕そこに早くいきたい!」


鼻息が荒くなった晃司の周りをシャボン玉が包む。

そのまま地面に吸い込まれていった。


「ふう。」と一息つく明日香の机にコーヒーが差し出される。


「いい子だったじゃないか。でも、交通事故で家族全員死んじまったのは可哀そうだね」

「楓のとこには、その事故のお母さんが行ったんでしょ?大丈夫だったの?」

「大変だったよ。ずっとね、泣いてた。息子はどうなったのか、心配してた」

「そっか~。」

「お母さんには平和な未来都市に転生してもらったよ。簡単に人が死ななくなった世界にね」

「え~、あそこも人気があって員数パンパンだって聞いたよ?よく差し込めたね」

「なんとかね。楓さまにかかればどうってことないよ」

「楓さま~、それならついでに私の給料を上げてくださいませ~」

「そりゃさすがに無理だね。さ、次の人たちにいこっか」


転生先は一人一人選ばれる。

彼女らの仕事場で、家族が再会することはない。




続く

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