第3話 カレーうどんってたべづらいよね

如月明日香の楽しみその2、おひるごはん。

三途の川役所には、従業員全員が座れるほどの大きな食堂がある。

もちろんありとあらゆる料理が揃っている。

今日の明日香のチョイスはサバの味噌煮定食。

DHAで血液サラサラにしようと目論んでいる。


「今日もお魚なのね。好きねェ」

「楓こそ、ほぼ毎日カレーうどんじゃん。制服に汁が跳ねても知らないよ?」

「コツがあるのよ。」


もしゃもしゃと食べるのに集中する二人。

すると、席の端の方が騒がしくなってきた。


「モニカグローを救ったのは俺の担当した転生者だぜ!」

「あんな小物魔王なんざ大したことないだろう?俺んとこの子なんて戦争を止めて見せたぜ?」

「なにを~!」

「んだこら!」


取っ組み合いの喧嘩に発展しそうな不穏な空気である。


「くだらね。転生させた人がどうなろうと知ったこっちゃないや」


明日香は大きくため息をつく。


「あら、昇給欲がないのね。転生先の子が活躍したらそれに応じて昇給、ボーナスがでるじゃん。あたしこの前臨時ボーナスでちゃった。」


ニコニコとVサインをして見せる楓。


「あ~、それで今朝、見たことないブランドバック持ってたのか~!やるな~!」

「そうなの~。ラッキーよね。ほんと、たまたま与えたスキルが世界を救ったの」

「何それ、そんなすごいスキルだったの?」

「ん~、全然。掃除が好きだっていうから【掃除】ってスキルつけたら、まさか魔王まで掃除しちゃうと思わなかったよね。何事も予想外はあるもんだわ」


キーンコーンカーンコーンと、学校の予鈴のように昼休みを終える音が鳴り響く。


「さ、仕事しましょう」


楓が自分の持ち場に戻る。


明日香も自分のデスクに座る。

パンパンとほっぺたを叩き、気合を入れる。今日はどんな人がくるんだろう。

昇給ボーナスねえ…欲しいけど、そんな、他人の人生を利用したくないと思う。


担当窓口に人影が現れる。今日4人目のお客さんだ。


「ようこそ、異世界転生課です。お望みとあらばどんな世界にだって転生させちゃいます!さあ、貴方のご要望はどんな世界ですか?」


「……」


あ、ダメだ。この陰湿な感じ。自殺だコレ。


「あの、私、死んだんですか?」


振り乱した髪からギョロっとした目がこちらを見てる。

幽霊っぽい感じになっちゃってるけど、とりあえず女性のようだ。

紺色のスーツにスカート。靴は履いてない。

これはたぶん飛び降り自殺だなーなんて思う。


「はい、残念ながら貴女は亡くなりました」


「あの人は、あの人はどうなったんですか!?」


どの人だろう?

手元の書類を見る。

うわ、不倫相手との無理心中だったのね。


「あーっと、どうやら、生きているようですね。こちらにはきていません」


「そんなあああああああああああああああああ!!!!!」


目の前で半狂乱になる女性。名前は照子さん。

よくあることなので、しばらく放置する。

あら、一緒に落ちた男性、奥さんと仲良いのね。

はじめから死ぬ気じゃなかったのかな…。


「私は、あの人とあの世で添い遂げたかったのよ。」


マズイ。話長そう。

要約するとしよう。


「不倫男性の奥さんさえいなければ幸せになれたのに。ああ、私は不幸。あの人は私のことを愛してると言ってくれたのに。だから二人で飛び降りた。幸せな世界に二人でいこうって。」


って感じのことを照子さんは、冷静でなく発狂した状態で言ってます。


これはダメだ。付き合いきれない。


書類にササっと記入していく。


「転生先はアザール。今の地球に似た世界。スキルは【愛され子】。」


発狂している照子さんの周りがグニャリと曲がり、吸い込まれていく。


「スキルの【愛され子】は、照子さんの生き方次第で、みんなから愛されるスキルです。どれだけ愛されるかは未知数ですけどね。」


照子が消えたほうを向きながら独り言ちる。


転生にあたって、実は転生者の希望を聞かなくてもよい。

ただ、納得して転生させたほうが、適正も見えてくるし、転生先で活躍する可能性が高いから話を聞いているのである。

今回のように、発狂して話ができない人には、強制的に決めてしまうことがしばしばあるのだ。


「おっすー、明日香。今回は強制転生だったのかな~?」

「あれじゃ無理だよ楓~。あのままじゃ転生どころか現世で相手男性に化けて出そうだもん~」

「いやいや、幽霊なんていないから。全員転生させてっからw」

「そうかな~?照子さん、今にも呪い殺すって感じだったよォ」

「女は怖いねェ。さ、飲みに行くかい?」

「あれ?もう終業時間?早いな」

「照子さんが長かったもんね」

「ぬあー、たいへんだったよ~!今日は飲むぞ~ヤケ酒だ~!」


今日も明日香は飲みに出かける。


「先輩ッ!今あなたのそばにいきますね!」


明日香を追いかける影があることを、明日香はまだ知らない


続く




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