第4話 ログに残る手がかりを求めて
長山高校での男子生徒殺人事件から
二夜が明けた。
結局、リュウヤはタケガミに
アンドロイド・ハヤサカを突き出してからも、
保護者であるジンヤ同伴の下、警察署での
事情聴取に付き合わなければならなかった。
夜遅くまでかかってしまったため、
昨夜は入手したメモリーログの分析を
行うことはできなかったのだ。
(今日の放課後こそは
オオカド探偵事務所に行かなくては!)
そんな決意を胸に、珍しく興奮気味に
登校してきたリュウヤを迎えたのは、
興味本位の野次馬の群れ……
もとい生徒たちの人だかりだった。
「ホンドウ君、事件をあっという間に
解決したらしいね!すごいね、名探偵だね!」
「昨日ハヤサカ君を徒手空拳で瞬く間に
やっつけたんじゃないかって言われてるけど、
ホントなの?ねえねえ!」等々……
苦笑いをしながらやり過ごすリュウヤ。
そんなこんなで授業中以外は質問攻めの状況を
切り抜けるだけで時間は過ぎ去った。
やっと下校時間が来たときには、
周りの生徒に捕まらないよう
速やかに学校を後にしたのだった……。
そして、場面は変わり、オオカド探偵事務所。
本日は珍しく、ここのところ常に
出払っていたナルミ所長の姿もそこにはあった。
「ほうほう、それはそれは、
なかなか大変だったね~。」
ナルミは事のいきさつを聞いて、
労いの言葉をかける。
若干、表情や仕草はヘラヘラしすぎな部分も
あるものの、リュウヤは素直に彼の言葉を
受け入れ、礼を述べる。
「それでは、所長、早速作業に入ります。
機器をお借りします。」
「はいはい、どぞどぞ~。」
リュウヤは昨日ハヤサカを倒した際、
彼の内部メモリからコピーしたメモリーログを
事務所の再生機器……仔猫の姿を模した
ロボットに突き刺して起動を試みる。
ほんの一瞬仔猫はピクンと挙動を止め、
甲高い電子音を発した後、再生機器としての
機能を働かせる。目の部分から宙空に
光線が放たれ、
ホログラフとして1人の人物の虚像を描き出す。
「殺されたテラハラ先輩か……。」
リュウヤは呟きながら、映し出された光景を
凝視する。その様子は親しい者からすれば、
彼には珍しく感情の昂りが表出しているのを
感じられるだろう。
そしてハヤサカ……坊主頭の少年は
映し出された像の中では、
緊張感のない顔つきで、
ボンヤリと視線を虚空に泳がせている。
彼の偶像は当初遠目に見えていたが、
靴音と共に撮影の実行本体である
ハヤサカが近づいていく場面の
再現が進むにつれ、
段々と大きな像となっていく。
「こんにちは。」
当時、テラハラに対して投げかけられた
ハヤサカの声が忠実に再現される。
実に無味乾燥で抑揚なく響く声は、
リュウヤが昨日聞いたのと全く同じものだ。
その声を聞いてなおテラハラはボンヤリとした
表情を崩さず、ずっとそのままだ。
しかし、それも数秒後には、みるみるうちに
双眸を見開いて発声者の顔を凝視する様となり、
表情には畏怖の感情が克明に見て取れた。
「……あ、ああああ!」
突然、テラハラが叫びだした。と、
同時に振り返ってありったけの力で
逃走を図ろうとしている様子が映る。
しかし、ハヤサカはアンドロイド。
即座に人間との運動性能の違いを
披露するかのように疾走、跳躍、石礫を
淀みなく繰り出した。テラハラの逃走は阻まれ、
遂には右の肩口を掴まれ捕捉されるところまで
場面が進展する。
「コウタロウ・テラハラ。僕がここまで来た
理由はわかっているようだな。
ならば観念して貴様の命を捧げるがいい。」
「……!やはり、あそこの手の者か!?
では、俺の首切りをするのは、
上の役人ども?」
「死にゆく者が知る必要などない。
時間の無駄というやつだ。」
「ふ、ふ、、ふざけるな!
俺はあそこにいた時も優秀だった!
選ばれた者なんだ!この世界でも変遷を
続け、勝ち続けたからここにいるんだ!
たまたま、一回ミスしただけで!
挑戦もせずのうのうとしている負け犬どもと
一緒にするんじゃない!」
「能書きだけは達者だね。でも、もういいよ。
バイバイ。」
ハヤサカは最後にそう言うと、リュウヤと
戦ったとき同様、体内から無数の刃物を放出し、
テラハラはズタズタに切り裂かれ、
断末魔の悲鳴が……というところで
映像はかき消えていく。
もうこれ以上は見る必要がないと判断した
リュウヤが冷静に再生を中断したのだ。
「ほぅほぅ。ワタクシも色―んな現場を
くぐってきたけども、これはなかなか
ゾクゾクしちゃうねぇ。」
ナルミはほんの少しだけ恍惚めいた様子で
呟いた。そんな所長を横目に見ながら、
リュウヤはテキパキと再生機器の
シャットダウン作業に入っていく。
「所長、再生用デバイス、お借りしました。
僕の我が儘を聞いてくださって
ありがとうございました。」
「ああー、いいって、いいって。
リュウちゃんにはいつもいつもいーっつも
助けてもらってばかりだからね!
せめてもの、お礼をしなくっちゃってわけ!」
(それだけ強調されると
逆に胡散臭くなるんだけどな。)
リュウヤは内心では苦笑しながらも、
ナルミへの感謝の念を込めてお辞儀する。
そして元の姿勢に戻るやいなや
単刀直入に切り出す。
「所長、今回の件、
所長が最近関わっていた事件と
関わりのあることなんでしょう?」
「えぇー、そんなわけないジャン。
なんで、なんで、なんでー?
そんな風に思うのさあ?」
(この過剰なまでの反応、
やはり間違いないか。)
「まぁ、その態度だけでも
一目瞭然だとは思いますが、
証拠としてはこの子です。」
そう言ってリュウヤは、
今は丸まって眠っている仔猫、
もとい再生機器ロボットを
両の掌の上に乗せる。
ナルミはあたかも小さな子どもが
新しい玩具にでも面白がって
食いついているような、そんな表情で
リュウヤの顔をのぞき込んでいる。
「この子にはボクが手に入れたメモリーログを
差し込んで再生する前から……
強い関連性があるデータがあった
みたいですね。
デリートをかけていたようですが、
ゴミ箱にまだ残っていたようですし、
関連項目や参考データとして
提案してくれましたよ、賢い子だ。」
「あーらら。それは、
初歩的なミスしたなぁ、
お願~い!忘れてくれない?」
ナルミがなんとも威厳のない、おどけた調子で両手を合唱させた途端、
「……話してくれますね?
今、僕たちの周りで一体
何が起こっているのか?」
リュウヤは笑みを浮かべながら、
有無を言わせない調子で
これまでのやりとりを締めくくったのだった。
ペンドラゴン-比翼の鳥- リアび太 @Riabita
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