第12話 The Waiting Trap

 「よお、前田!元気してるか?」


一時間目が始まる前の朝の教室は生徒たちの話し声が響き渡っており、二人の会話に耳を貸すものなど誰一人いなかった。


「元気も元気で超元気の絶好調だぜ!実はあれからまたUFOの映像が撮れちゃったんだよなー。すごいだろ、今見せてやるよ!」


そう言うと前田はパンパンに詰まっている重そうなリュックサックの中から一台のビデオカメラを取り出す。


「これは俺が学校からの帰りに面白い物撮れねぇかなと適当に回してたときの映像なんだけどさ。ここ見てくれよ、ここ!」


それは確かにこの学校の最寄り駅までの道の映像であった。ビデオに収められていたのは道路を行きかう車やゆっくりと空を流れる雲などの何気ないものばかりだった。ゆらゆらと流れる雲を撮っていたその時だった。時間が止まっているように雲が動くなかで明らかに場違いなスピードで何かが空を横切っていった。一瞬であったが映ったソレは飛行機には見えなかった。


「これはUFOに見えないこともないな。これはいつ撮ったものなんだ?」


「お?翔太はUFOなんて絶対にない!なんて断言してたくせに今更になって興味津々か?まあ教えてやろう!これは昨日撮ったばかりの撮りたてホヤホヤなんだぜ!どうだすごいだろ!」


「ふむ、昨日か」


「昨日何かあったのか?」


昨日は宇宙犬であるフヘンダフードをぶちのめした日だ。


「いや、何でもないよ。実は俺も宇宙人を見たんだよな。実際に見たら信じるしかないだろ」


「まじか!翔太が宇宙人を見る日が来ようとは!そいつはどんなやつだった?なんかされたのか?話したりしたのか?」


「実はそのことについて前田にお願いがあるんだよ」


「何だ?」


「その宇宙人はとても強い力を持つあまり、他の宇宙人から狙われているらしいんだ。しかし、その力を自分では扱いきれず身を守ることができない。そのため地球に潜伏している友好的な宇宙人に守ってもらおうと考えたんだ。そこでお前の出番だ。俺なんかよりずっと顔が広いお前にこの話しを広めてほしい」


「なんで広める必要があるんだ?直接言えばいいだろ」


「そうなんだが、その友好的な宇宙人ってのがどこにいるのかわからないんだ。この近くにいるってのは分かっているんだが、それ以上のことはダメだ。もし、噂が広まればそれを聞きつけて助けに来てくれるはず、というわけだ。俺は図書室に居るから協力してくれるなら図書室に来てと伝えてくれ」


「なるほどな。わかったぜ。親友の頼みなら聞かないわけにはいかないしな!」


「ありがとう前田。助かるよ」


「そうと決まれば早速行ってきますか」


席を立った前田は教室のグループに声をかけに行ってくれた。


「さてと、こっちも行きますか」




 風がとても気持ちがいい。屋上からの景色は中々のもので、グラウンドを見るとトラックを走っている男子生徒が見える。先ほど前田に話したことは全くのでたらめだ。前田には悪いが敵をおびき寄せるための罠を張らせてもらう。確保したことが知れたら奴らは必ず接触してくる。そこを叩く。図書室といったのは冷やかしを交すため。奴らがあのフヘンダフードを送ってきたことは確実的だ。となるとこちらの位置がばれていたことになる。それはなぜか。ずばり粒子だ。あの生命が放つ粒子を奴らも認識できているとみて間違いない。ならば、図書室ではなく、この屋上にいることがわかるはずだ。つまり、ここへ来たものが奴らだということになる。


全てが決するような予感を胸に風に身を任せていたとき、屋上の扉がゆっくりと開く音がした。



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