第10話 Confronting The Enemy

 


 この世で最も重いものはもう愛していない女の体だと言った人がいるそうだ。俺は宇宙人と会ったこと以外は普通となんら変わらない高校生だ。普通の高校生にはそんなシチュエーションに遭遇することはまずない。代わりにこの世で一番重いものは何なのかと聞かれたら、今この瞬間の空気だと答えるだろう。


 あれから未来と一言も会話を交わしていない。こうなることが分かっていたなら、ついてこないほうが良かった。二人で帰っているというよりは、見ず知らずの人が少し離れたところを歩いているという感覚だ。


 「わんわん!」


 急に視界に犬が飛び込んでくる。犬にあまり詳しくないがおそらく柴犬だ。子犬なのか両手に乗るのではないかというほど小さい。


 「可愛いな。どうしたんだ?迷子か?」


 犬は首輪をしていなかった。ネームタグもない。もしかしたら、野良犬かもしれない。しかし、野良犬にしては毛並みが良いように思う。誰かが世話をしているのだろうか。しかし、これは仲を戻すチャンスかもしれない。


 「おーい。待ってくれ」


 少し先を歩いていた宇宙人が睨みをきかせて振り返る。


 「さっきは言い過ぎた。悪い。その実は、犬を拾ったんだ。どっから来たのかわからないけど可愛いだろ。撫でてみるか?


 ひょいっと犬を持ち上げようとしたとき、未来の目が見開いていく。


 「ストップ!早くそれを捨てて!」


 「何言ってんだ。こんなに可愛いんだぞ。ほら」


  まさに犬に手を伸ばしたその瞬間、俺は誰かに突き飛ばされた。もちろん周りに人はいないため、俺を突き飛ばしたのは宇宙人である未来だ。


「何すんだよ。痛えじゃねえ……」


 いきなり人を突き飛ばすなんてどういう神経しているのかと文句を言おうとしたが目の前の光景に阻まれる。さっきまで俺がいた場所に大きな爪痕があったのだ。地面はコンクリートで爪跡などつくはずがない。しかもその大きさは優に1メートルはあるほどだった。


「は、何が起きたんだ?」


 「よけて!」


 未来の声にあわてて前を向くとそこには先ほどの犬の姿は消えていた。代わりにあるのは地球上のものとは思えないほどの大きな犬型のなにかだった。


 必死の思いで地面を蹴る。その直後コンクリートには大きなあの爪痕が刻み込められていた。


「何だよ、こいつは?」


 全く冷静でいられない俺の問いかけに至って冷静に未来が答える。


「これは、宇宙生物よ。その名もフヘンダフード。地球でいうところのケルベロスに近いかしら」


「ケルベロスだと!あの地獄にいるっていう」


「そうね、首はひとつだけど。ケルベロスより少し強い程度だから大丈夫よ、おそらく」


「おい、ケルベロス見たことあんのかよ。俺はない。しかし、目の前のこれがケルベロスだと言われても全く驚かないッ!」


そんなやりとりをしている間も爪の猛攻は続く。本当にぎりぎりのところで避けてはいるが、直撃していないだけで普通にかすっている。正直めちゃくちゃ痛い。足も限界に近づいている気がする。


「おい、これに勝てんのか!もう俺は限界が近いぞ。体の限界も近いが、精神的な限界がもうそこまできてる。怖すぎて足がすくみそうだ」


「よしきた!」


そう言うと宇宙人は俺の前に立ち宇宙犬と対峙する。


「思いっきり任せて言える立場じゃないんだが、お前戦えるのか?秘密兵器とやらは無いんだぞ」


「誰が秘密兵器なしでは戦えないって言ったのよ。こんなやつくらい私だけで十分だわ」


 策があるようには思えない。だがここは信じるしかない。ここで負けたら俺の命はないのだ。宇宙人なのだから、ビームくらい出せるかもしれない。


「覚悟しなさい犬。私に喧嘩を売ったことキャンキャン泣くほど後悔させてやるわ。まずは、バリアユニット展開!」


 呪文のように唱えると水色の膜のようなものが彼女の全身を覆いはじめた。これがバリアなのか……。




 「それもっと早く俺に使っといてくれよお!!」


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