第8話 To Be Disappointed

人は珍しいものが好きな生き物だ。それは学校にいる生徒だってなんら変わらない。突如として新たにクラスの一員となった転校生は言わば珍しさの塊だった。毎日同じような光景ばかりで飽き飽きしているクラスメイトの群れはあっという間に転校生を囲い込み、転校生は見えなくなった。


「一刻も早く話しを聞きたいところだってのに、クラスの連中が邪魔で話しにいけねぇな。他のやつに聞かれるとまずいし、敵の宇宙人がクラスの一員かもしれないからな。絶対に二人きりじゃないとだめだ。まぁ、休み時間は授業の度にあるしな。焦る必要はないか」


 と考えていたら放課後になっていた。甘かった。転校初日の転校生の持つミステリアスな魅力には誰もかなわないということか。実際、昼休みはおろか授業の間の休み時間でさえも例の転校生が一人でいる時間は訪れなかった。ホームルームが終わって五分しか経っていないというのに教室を見回すと数人が残っているだけで大半の生徒はもう帰ったか部活へ行ったようだった。


「ちょっと待て、まさかあいつ帰ったのか……」


なんのためにクラスに乱入してきたのか問いただす必要がある。心当たりがないわけでもないが、聞いておくにこしたことはない。まだ学校を出てはいないはずだから急いで下駄箱に向かう。


「おいい、ちょっと待ちやがれ!」


下駄箱に着くと宇宙人こと赤宙 未来が今まさに帰らんと上書き用のスリッパを下駄箱にしまっていた。


「おい、今、確実に目があっただろ、帰ろうとすんな!」


目と目が合った感覚があったにも関わらず、何もなかったようにスリッパを下駄箱に入れ靴を履きだしたので慌てて止める。


「あぁー、君か。なんか用事?」


「なんか用?じゃねぇんだよ!お前なんで普通にクラスに入ってきてんだ。どういうことかちゃんと説明しやがれ」


見るからに面倒そうな顔をして赤宙は口を開く。


「説明、説明ってさぁ、君はそればっかりだよねぇ。その頭が飾りじゃないんだったら、ちょっとは自分の頭で考えてみたら?」


誰のせいでこうなったと思っていると言いたいところだが、直接の原因は吞気に地球観光をしにきた宇宙人のせいだ。直接こいつのせいではないためここはグッとこらえる。大人の対応。そう、大人の対応だ。


「大体の見当は付いてる」


「で、その見当ってのは?」


「ずばり、お前は俺に気がある!俺を見て一目惚れしたお前は少しでも俺の気を引くために同じクラスにきた。どうだ、図星だろ!」


 てっきり顔を紅潮させ、自分の目論見を好きな相手に知られた恥ずかしさで身悶えすると思っていたのだが。恥ずかしさで赤くなった顔などどこにもなく、代わりにゴミを見るような目があった。


「なんでそうなるかなぁ。頭おかしいわけ?もしそうだとしたら、放課後に一緒に帰るという絶好のチャンスを棒に振って一人で帰ろうとしないでしょ。このクラスに来たのは君を護衛するため。一応、君は命狙われてるからね。まぁ、現在進行形で守る気なくなってきてるけど」


 しまった。俺としたことが不覚だった。それにしたって、転校してきたとき自分の方を向いてにっこり笑ったんだぞ。これをされて自分のことが好きじゃないと思える男はいるものか。しかし、なんとも言えない空気になってしまった。


「あー。なるほどね。護衛か。ま、まあ、分かってはいたけどね。さっきのは単なる冗談だよ。冗談さ!」


今更、冗談だと言ったところでもう手遅れなようだ……。


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