第6話 The Start From You And Me
「お前、腕が」
宇宙人の腕はみるみる薄くなっていき、最後には消えた。
「本当の姿どころか消えたぞ。どうなってんだ」
「消えたわけじゃないヨ。ちゃんと私の腕はここにある。触ってみる?」
恐る恐る宇宙人の腕があるはずの場所へと手を伸ばす。すると何かしっかりとした感触がそこにはあった。目には見えないけど確かに存在している。腕の形に固まった空気を触っているようで何とも不思議な感じだった。
「そんなに私の腕が気に入ったのかなぁ。夢中になって触っちゃってサ」
自分でも気づかないうちに無我夢中で目に見えない腕を触ってしまった。宇宙人だというけれど、外見上は俺と変わらないくらいの女の子なのだ。言われてから初めて気付き恥ずかしさのあまり勢い良く手を離した。
「目に見えないものを触るって感覚が不思議すぎて、つい夢中になった。悪い。でも、何で俺には見えないんだ?」
「それはねぇ。私の体が地球人の目では捉えられないからサ。私たちは自分たちの体を見るときは目を使わないんだよネ。だから、見るって言い方も少し違うのかもしれないけど。まぁ、私たちは目を使わないかわりに別の器官を用いるわけ。見ると言うよりかは感じるに近いかも。よくテレビで超能力だ、とか言って透視してる人いるでしょう?それと同じだよネ。実際、自分は超能力者だっていう人は大体が私みたいな宇宙人だヨ」
衝撃の事実だ。超能力者は同じ人類ではなかったのか。俺も昔に超能力者を使えるようになろうといかにも胡散臭そうな本を買ったのを鮮明に覚えている。まさか、超能力者だと偽って金を巻き上げていたとは。あのときは自分も使えるようになると信じて瞑想やらよくわからないイメージトレーニングやらを本気でやっていたというのに。本はまだ家にあるだろうから見つけたら燃やして、その火でバーベキューでもしてやろう。
「お前が宇宙人ってのは理解しがたいが、認めざるを得ないな。それで、お前の目的は何だ。聞く権利くらいこっちにもあるだろ」
「私としたことがまだ言ってなかったネ。んーとねぇ。簡潔に言うとある宇宙人を探し、そして保護することかなぁ。他の宇宙との深い関わりが無い地球人は知らないだろうけど、今、宇宙は大変なことになってるわけ。地球人だけ見ても色んな人がいるように、宇宙人も多種多様なやつがいる。体の大きなやつや、力がすごいやつ。頭だけのやつもいるし、実体を持たない者もいる。それこそ星の数ほどいるんだから、相当ヤバいやつもいるわけ。宇宙ひとつを簡単に消し去ってしまう力を持ったやつとかネ。それで私はその宇宙を軽々消し去るやつを追ってこの地球に来た。その宇宙人自体は悪いやつではないんだけど、その力を自分のものにしようと企む宇宙人がいる。それを止めるためにも一刻も早く見つけ出さないといけない。ここまでわかる?」
今までは腑抜けた話し方だったが、はっきりとした話し方になった。話し方から緊張感が伝わってくる。この宇宙人の力がとても危険なものであるのは、その力を見たことがない俺も恐怖を覚える。
「危険なやつの手に渡らないようにその宇宙人を探すってのは分かったんだが、なんで地球に来たんだ?そして、何で俺のとこに来た?」
「その宇宙の歴史を変えるほどの力を持った宇宙人は観光として地球に来ているの。本人は自分の力に全く気づいてないから困ったところヨ。自分の力に気づいていないんだから、コントロールなんてできるはずない。もし暴発でもすれば地球はおろか、この宇宙が丸ごと消えるわ。その前になんとしても見つけ出さないといけない。その見つけるための一番の手がかりが君ってことなのヨ。その宇宙人はパルティコ粒子っていう特有の粒子を持っているの。その宇宙人が生きている限り、とても微量だけど体から放出されているわ。その粒子を纏うことによって体の形状を変化させることができるの。そうやって元の形から体を変えてこの地球上のどこかにいるわ。そして、その粒子こそがカギなの。この粒子はその宇宙人だけが持っているもの。つまり、その粒子を辿ればその宇宙人を見つけられるってことヨ。そうしてたどり着いたのがここ、地球というわけヨ」
「観光ってどういうことだよ。そんな危ないやつが旅行で地球に来てるってのか。そんなにふらっと宇宙人は来れるものなのか?」
「そぅ、大抵の星は厳重な検査があるから簡単には入れないんだけど、この地球では宇宙についての理解が遅れているでしょう?つまるところ、入り放題な状態なの。だからこの地球に入ること自体は何も難しいことじゃないわ」
地球が他の星の連中にとって出入自由であったことは衝撃だった。それではまるでパスポートなしで海外を自由に行くようなものだ。しかも、他の星から来るということは少なくとも星から星へと渡る移動手段を持っているということ。それはつまり、そいつらは地球以上の科学力を持っていることと同意義だ。どんな危ないものを持ち込むかわかったものじゃない。それだけではない、科学力が地球より上ということはその気になればいつでも地球に侵略できるということだ。今までは宇宙人なんていないと思っていたのに、目の前に宇宙人が現れて、地球に宇宙を滅ぼすほどの危険な力を持ったやつがいる。整理してみたところで、信じられない。頭の中がくちゃくちゃになった気分だ。
「そうなのか……。なんか、今日で俺の価値観がぶっ壊れていくんですけど……。そいつが観光に来れる状況なのはわかった。まだ、肝心なとこが分かってない。なんで俺のとこに来たんだ」
「それは、簡単な話ヨ。君から一番その粒子を検知したからサ」
「ちょっと待ってくれ。俺はそんな宇宙人に会ったこともないし、そもそも存在自体を知らないんだぞ。何で俺なんだ」
「それに関してはまだ、私もわからない。けど、宇宙人を見たことがないからってのは理由にならないヨ。基本的に宇宙人が星に入るときはその星の環境に合わせて体を変えるからネ」
「つまり、俺はそいつと会ったことがあって、なおかつ俺が一番そいつと関わっている可能性が高いというわけなんだな?」
「そういうこと。現状は君が一番の手掛かりなわけ。もちろん協力してくれるよネ。というか拒否権はないんだけどネ」
そう言って先生に見せた俺が猫を探している写真をひらひらと見せびらかしてきた。
「脅しのつもりか?」
「別にぃ。ただ、この写真が?だと先生が知ったら君はどうなるのかなぁ、と思っただけヨ」
「はっ。俺がそんな作り物の写真にビビるとでも思ったか?あんなクズどもに何言われたって平気だ。助けて貰ったことは感謝してるが、面倒ごとはごめんだ」
「ふーん。そう。ならこっちはどう?」
手を見るとさっきの写真とは別の写真がそこにはあった。なんと写真の中の俺は女子トイレでピースをしているではないか。しかも全裸で。
「おい、ちょっと何だそれ!」
「んー、これはぁ君が女子トイレに入ってるとこを撮った写真だけどぉ。どうかしたぁ?」
「待て待て。俺は女子トイレなんて入ったことないぞ。お前、その写真を捏造しただろ!」
「……ん?何か言った?」
お手本のようなビジネススマイルを顔に貼り付けて、圧をかけてくる。
「この野郎、わかった。お前に協力する。だからその写真捨ててくれ」
ビジネススマイルの顔がしてやったりと言わんばかりのしたり顔になる。非常に不本意だが、ここで従っておかないと面倒なことになるのは火を見るよりも明らかだ。廃工場に忍び込むレベルではない。こんな写真が先生に見つかった日にはもう高校生ではいられないだろう。
「じゃ、これからよろしくネ」
にやにや笑いながら手を前に出してくる。せめてもの仕返しとしてその手を思いっきり力を入れて掴む。
「こっちこそよろしくなぁ!」
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