第3話 The Alien's Request

床に叩きつけられたときの痛みが夢でないことを証明していた。これは紛れもない現実で俺は今宙に浮いていた。不可思議な体験をしたことで返って頭は冷静になっていた。よく考えてみればおかしな点は最初からあった。まず、髪の色だ。ヘアカラーを使ったとしてもこんなに透き通った赤になるとは思えない。次に埃だ。この部屋には埃が積もっていたので歩くと靴跡がつく。そして、今ここには俺の靴跡しかない。いくらなんでも扉を開けた時点で一歩も動かないのは無理だ。しかも、この部屋に入口は一つしかないにも関わらず最初ここに来るまで靴跡はなかった。なのに、この自称宇宙人は先に部屋に入っていた。


「やっと信じる気になったぁ。最初から重力解除装置使えばよかったな」


「お前が宇宙人っていうのは信じるが、お前のことを信じるかどうかは別問題だからな。俺にとってお前は見ず知らずの不審者ってことに変わりないからな。俺がこの部屋に入ったときに待ってたって言ったよな。それはどういう意味だ」


「なんかカリカリしてるなぁ。まぁ無理もないか。実はこの地球に来たのはとある宇宙人の調査をしにきたんだよネ。うん、それでね。他でもない君に会いに来たのは君がその宇宙人に近い存在らしいだよぉ。誰かまでは私にも分からないけど、君を捕まえれば何かわかるかなって」


「俺の知り合いに宇宙人なんていないし、17年生きてきて宇宙人にあったのはこれが初めてだよ。詮索するのは勝手だが、俺の生活を乱さないでもらいたい」


「うーん、普通はこんな反応かぁー。でも君の近くにいることは確かなんだよなぁ。でも私一人だとどうしても出来ることが限られちゃうからなぁー。来たばっかりで地球のことはよく分かんないしぃー。そ、こ、で、君の出番っていうわけ。君には私の宇宙人探しを手伝ってほしい」


「俺がお前を手伝うだって、そんなのお断りだ。だいたい俺はお前を信用してない。そもそも俺にメリットが無いだろ」


「じゃーさ、こういうのはどう。もし手伝ってくれたらここに来てたことは言わない。黙っとく。で、説明に入るけど……」


「ちょっと待て、いつ俺が承諾したんだよ。確かにここは立ち入り禁止で学校に知れたら面倒なことになる。それは俺も望んでない。でもそれとこれとは話が別だ。この先どんなことが起きるかわからない正体不明の依頼を受けるくらいなら、学校で喜んで反省文を書く」


「君が私に協力してくれないと困るなぁ。んー、こう言えばいいかな。その宇宙人を狙っているのは私みたいに温厚なやつだけじゃない。血の気も多い連中が来てるかもしれない。要するに君は危ない状況にあるってことさ」


俺は狙われているのか。どういうことだ、こっちは覚えがまるでない。あの日から宇宙人なんて居ないと自分に言い聞かせて生きてきた。なのになぜ、こんなことになったのか。


「俺が狙われてるってどういうことだよ。なんで狙われないといけないんだよ。ちゃんと説明しろ」


「んーと、説明してもいいけどぉ、条件がある。君が私に協力してくれるって約束してくれるなら私が知ってること全部教えてあげる。でも、もし協力してくれないなら……」


「そんなこと言われたってこっちは急に宇宙人なんて言われて動揺してんだよ。いきなり決めるなんて無理だ」


「決断力がないとこの先自分の身を守れないよぉー。あ、時間切れかも」


「は、時間切れってなんだよ。ちゃんと説明しろ。おい」


「あのね、物事すべてには制限時間があるんだよ。テストだって時間が決まってるし、人生だって死んだら終わるでしょ。だからこの話し合いもここまで。私としては君ともっと話していたところだけどネ。それじゃ、お返事待ってるヨ」


そう言った瞬間さっきまで話してた相手はいなくなった。消えた。一瞬で消えてしまった。今までのことがまるで夢だったような気がしてくる。


「いったい何だったんだよ。いや、考えるのは後だ。まずはここから出ないと」





ドアを開けて出ようとドアノブに手を伸ばしたまさにそのとき、ドアノブをつかんでないのに開いた。


「きみー、こんなとこ入っちゃダメだよ。ここ立ち入り禁止なの知ってるでしょ」

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