第2話 A Sudden Encounter
「待ちくたびれたってどういうことだよ。そもそもお前は誰なんだよ。なんでこんなとこにいるんだよ」
「それを言うなら君こそなんでここに居るのかなぁ」
目の前の赤い髪の少女は不気味な笑みを浮かべている。俺と同じ高校の制服を着ている。同じ高校ならどこかで会ったかもしれない。記憶の中を探してみても赤い髪の女は心当たりがなかった。第一、髪が赤いとよく目立つから、もし初対面じゃなかったら絶対覚えているはずだ。やはり初対面なのだろう。そんな悠長に考えている場合じゃない。もしこのことが学校に知られたら面倒なことになる。宇宙人でないことを確かめに来ただけなのに、こんなことで呼び出されるのはごめんだ。ここは様子をみて相手の出方を伺うべきか。
「いや、ペットの猫が迷子になってさ、それでこの工場にいるかもしれないと思って来ただけ。そっちは」
「んー。ペット探してたのネ。……でもさぁこんな隠し扉を猫が開けられるかなぁ。まぁ無理だよね。じゃ、この扉を開けたのはそれ以外の目的のため。例えば、何かの証拠集め、とか」
こいつは俺がここに来た目的を知ってるのか。いや、落ち着け俺の目的を知ったところでこいつにはなんのメリットもない。それ以前にこれはただの自己満足であって、俺以外には全く関係ないこと。こいつが関わる道理は全くないはずだ。
「いや、この扉を開けたのは俺の猫が監禁されてるかもって思ったからだ」
「ふーん、あくまでも噓を突き通すんだ。そっちがその気ならいいよ。このこと先生に言っちゃうから」
これ以上は下手な噓を突き通すわけにもいかなそうだ。相手の狙いがわからない以上状況が悪くなるのは避けたい。
「そうだよ、お前の言う通りペットを探してこの部屋に入ったわけじゃない」
「あっ、認める気になった。噓はよくないよ、噓は。嘘ついたところで状況は何も変わらないからネ。それと君が探してるものはないよ。工場の中にも、この世界にも」
「……どういう意味だ」
「知りたぃー?なら特別に教えてあ、げ、る。実は私は宇宙人ですぅー」
頭が一瞬で真っ白になる。こいつは何を言っているんだ。自分は宇宙人だって?頭がおかしいのか。それとも。
「おい、今なんて言った。自分は宇宙人だと言ったのか。」
「少しは驚いたかな。そうです、私は宇宙人なのです」
驚くなんてもんじゃないぞ。友達が撮ったUFO映像が偽物だと、宇宙人なんていないことを確かめに来たのに。まさか、宇宙人に遭遇するなんて。いや、気をしっかり持て。宇宙人だと言われてハイ、そうですかとそんな簡単に信じるほどバカではない。
「お前何言ってるんだよ。俺を怒らせて何がしたいんだよ。この世界に宇宙人なんていないし、宇宙人の存在は全部作り物なんだよ」
「そんなこと言ったってあなたから見て私が宇宙人なのは本当のことなのになぁ」
「だとしたら証拠見せてみろ。そうしたら信じてやる」
「証拠っていわれてもねぇ。じゃあこういうのはどう」
そう言うと宇宙人だと言い張った女は宙に浮き始めた。目の前の不可思議な光景に頭が混乱してくる。
「これはね、重力解除装置ってものでね。これを作動させると無重力空間を作り出せるの。それで浮くってわけ。これで信じてもらえたかな」
「は、重力解除装置ってなんだよっ。そんなデタラメ言うな。どこかに仕掛けがあるんだ」
手を自称宇宙人の上に入れたが糸はなかったし、透明なものの上に乗っているかもと思い下に手を入れたが空を切るだけだった。思いつくことは試したが仕掛けは見当たらない。
「疑い深いなぁ。じゃこれで嫌でも信じるでしょ」
目の前の女は何やら装置をいじり始めた。かと思ったら急に視界がぐらつき始めた。足が床から離れていく。俺は浮いているのか。完全に宙に浮いてしまった。手足を思いっきり動かしてみたがどうにもならない。傍から見ればさぞ不格好なことだろう。
「おい、何したんだよ。早くおろせ」
「なかなか信じてくれないから、君自身を浮かせたら手っ取り早いかなと思って」
宙に浮くという感覚はとても気持ち悪い。頭が横に行ったり、体が逆さまになったりして酔ってくる。激しい頭痛とそれに伴う吐き気と戦いながらやっとのことで声が出す。
「もうわかったから。信じるから早くおろせ」
自称宇宙人はわかればよろしいと言って装置のスイッチを押した。その瞬間忘れていた重力の感覚とともに体が床に叩きつけられた。
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