エイリアンいんべーしょん!

やしろ みよと

第1話The Adventure Begins

宇宙人なんているわけない。テレビの中ではUFOらしき謎の光原体の映像が流れていた。黄色の光が不規則な動きとともに夜空に舞っている。そして気づけば数秒後に消えていた。そんなありきたりな映像を見て、たいして可愛くもないタレントは「なにこれ、すごーい」なんてありきたりなコメントをしていた。


「おい翔太、昨日のビックリムーブメント見たか」


「昨日に仰天映像39連発ってやってたやつだろ」


「そうそれだよ、今回のはやばいのが多かったよな。特にUFOのやつ」


 こいつは前田。俺の隣の席のどこにでもいる普通の男子高校生だ。俺たち学生の本分は学業だというのに、授業中に昨日のテレビ番組の話なんてしている状況は日常茶飯事だ。俺からすれば学校の授業はつまらないものだ。先生は教科書をただ読んでいるだけ。教科書に答えが載っている授業とは違って、友達との会話は答えがないだけまだ面白い。


「あのなぁ、あんなものは作り物に決まってるだろ。宇宙人なんているわけないんだよ」


「と、思うだろ。実はな、あの映像を撮ったのは俺なんだぜ。本当びっくりしたよ。だって光った物体が空を飛び回ってたんだぜ。証拠見せてやるよ。」


そう言って、前田が持ったビデオカメラには、テレビで見た映像と全く同じものが映っていた。








 これからする行為に意味なんてない。ただの自己満足だ。例え宇宙人ではない証拠が見つかったとしても、前田に教えるつもりはない。これはただ、前田のビデオに映っていたのはUFOなんかじゃなくて、宇宙人がいないことの確認作業だ。そう、誰のためでもなく自分のための確認作業だ。








「鳴田製鉄所、やっぱり雰囲気が違うな」




 ビデオに映っていた廃工場へと着いた。正確にはビデオで撮られていた場所は廃工場の前だが、いろいろ仕掛けができる場所とすればこの廃れた工場しかない。前田はガサツな性格だから、工場内を探せば手作りUFOの証拠が出てくるだろう。


 今から100年ほど前に建てられたこの工場はネジを製造していた町工場のものだったらしい。しかし、そのネジに安全性の問題が見つかったことによりたちまち廃工場になった。そのため、この工場で働いていた人たちが夜な夜な化けてでるという噂だ。幽霊なんかに興味はないが、一応立ち入り禁止になっているので一目を避けて夜に忍び込むことにした。工場内に電気なんて通っていないので、中は光がひとつもない。自前の手回し発電ができる懐中電灯をもって慎重に中を探索する。何の用途に使うか分からない大型の機械が立ち並んでいる。それらの機械は埃をかぶっていて、所々さび付いている。床にも埃はびっしりこびりついており、雪の上を歩いたように後ろには自分の足跡がしっかりと付いていた。


 他の足跡が全く見られない。前田は工場に入らなかったのだろうか。あいつのことだから、絶対何か残しているはずだ。映像では工場の方向から光る物体が飛んできていた。てっきり、工場内からドローンを光らせて飛ばしていたものと思っていた。二階も覗いてみたが、埃がかぶっているだけで、足跡はおろか人がいた気配すらしなかった。あの映像と工場は無関係なんだろうか。


「最後に地下室だけ覗いて帰るか」


 時間は午前0時をすこし過ぎた。地下室といっても6畳ほどの物置スペースといった感じの部屋だ。階段を降りて懐中電灯を照らす。ステンレスで出来た棚に段ボールが入っているだけの殺風景な場所だった。段ボールの中にはネジが入っていてそのどれもがさび付いていた。


「段ボールの奥になにかあるな」


 ふと棚の段ボールに目を向けると灰色の壁ではないものが目に入った。段ボールをどけるとそれは鉄の扉だった。隠し扉だろうか。棚の段ボールで隠れてすぐにわからなかった。


「工場にこんな扉あったなんてな。しかも棚で隠してあった。これは何かあるな」


期待に胸を躍らせながら扉に手をかける。意外にも鍵は掛かっておらず、重厚な見た目とは裏腹に思ったよりも簡単に扉は開いた。


中は薄暗く部屋というより倉庫のような印象を受ける。棚はなく直接段ボールが高く積まれている。中身はネジだ。長さや太さが違うネジが山のように入っていた。この部屋にあの映像に関係するものはないのだろうか。


「あのさぁ、ネジを見るのは勝手だけどさ、そろそろ気づけよぉ」


急に人の声が聞こえて心臓が跳ね上がる。声の方を向くと透き通るような赤色の髪の女があくびをしながら立っていた。


「来るのが遅すぎて待ちくたびれちゃったゾ」


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