第29話 ゼシール王国軍、傭兵部隊、敵を後退させる

「何なんだよ!あいつ!」

「知るか!撃て!撃ち殺せ!」

王国軍が進軍している方向から見て西側、焦っている二人のハーグ王国の兵士がAK47を撃ちまくりながら高速で近付いてくる黒い戦闘服のクロエを止めようとしていた。

何発かクロエに弾が当たっているが、アサルトベストの高い防弾性によって弾かれていた。

クロエはすぐに敵との距離を詰めると、左にいた兵士を左腕のプロテクターからナイフを出して縦に切り裂いた。

そして右の兵士を蹴って、クレーターの端に倒して右手に持っていたHK416C短縮アサルトライフルを六発撃って兵士の心臓をズタズタにした。

『ふぅ……』

ガスマスク越しから息を吐いた。

辺りを見渡すが、敵兵も味方もどこにも見えなかった。

ただ辺りからうるさいぐらい銃声と敵か味方か分からない怒号や悲鳴がクロエの耳に入っていた。

残りが少ないHK416Cのマガジンを交換しながら耳を澄ませていると、

「ま、待て!殺さ、」

サブマシンガンの銃声と共にクロエの近くに撃たれた敵兵が倒れてきた。

その前から銃口から煙が出ているMiniUZIを持った双葉がやって来た。

もう一度兵士の頭に一発撃ち、残り少ないマガジンを交換する。

「敵自体は弱いですが、魔法を使えなくするのは敵ながら良い考えです」

『元は人間の連合軍が作った妨害装置だ。魔法が使えない人間が魔法が使える人間や魔族に対抗するために作られた魔道具が兵器になるとはな』

「どうしますか?一度指揮官と合流しますか?」

『そうだな。一度指示を貰った方が動きやすい』

二人で今後の動きを話し合っていると、Sベルギー製のSCAR-Hアサルトライフルを持った優子がクロエ達と合流した。

「魔道部隊が敵のトーチカに足止めを食らっているとの報告がありました。その近くにゼロさんがいます」

『ちょうど良いタイミングだ。場所は?』

「あそこです」

優子が指差した方向を見ると、どの銃声よりも一番大きい音が聞こえていた。

煙がもうすぐ晴れそうで、うっすらだが味方の銃のマズルフラッシュが幾つも見えた。

「敵のトーチカに何を手こずっているのですか?敵は弱いですよ」

「問題は敵のトーチカです。そこから重機関銃で味方を足止めしているのです」

『なら、さっさとそこに向かって何とかしよう。手遅れになる前にな』

クロエ、双葉、優子の三人は道中のハーグ王国の兵士を倒しながら、激戦になっている場所へと早く移動した。


ようやく火薬の匂いに慣れてきた頃、しばらく姿勢を低くしながら進んでいると、先行していた零の部隊と合流した。

89式小銃やミニミ軽機関銃、64式小銃を持った零の隊員達が制圧したと思われる敵の塹壕で交戦していた。

20式小銃で応戦していた零を呼んで、一緒に塹壕に隠れて状況を確認し合った。

「待たせたな。状況は?」

「五十メートル先の塹壕から敵の銃撃が激しくて足止めを食らっている真っ最中。うひゃ、たまに流れ弾が飛んできてかなり危ない」

零が話しているとちで塹壕から敵の流れ弾が頬すれすれで飛んできた。

零は何とか弾に当たらず、そのまま腰を屈む。

零は撃ってきた塹壕に数発ライフルを撃って話を続けた。

「アーニャの部隊が北にいるけど、あっちも私達と同じ」

「トーチカは全部で何個ある?」

「五個!中からマシンガンで撃ちまくってうざったい!」

「そのまま射撃を続けろ。アーニャの部隊と話す」

零が返事を返して自分の部下と敵の塹壕に向けて何発もライフルを撃った。

零の何人かの隊員は手榴弾を投げて何回か塹壕の敵兵を爆殺しているが、トーチカの中に入らず手前で手榴弾が爆発していた。

手榴弾の投擲距離が短くてトーチカに届いていない。

トーチカの中からマシンガンのマズルフラッシュが二つ見えた。

軽機関銃で俺達を攻撃しているみたいだ。

俺はしばらく観察した後、無線機でアーニャに繋げてみる。

数秒後に繫がって彼女の幼い女の声が聞こえてきた。

「アーニャ、お困りか?」

『ああ。マシンガンの銃撃が激しい。連携して破壊しよう』

「ランチャーで破壊しろ。こちらの指示でタイミングを合わせる」

『了解。準備する』

無線を終えた後、誰かロケットランチャーを持っている奴が近くにいないか探していると、偶然RPGを背負ったアミリアの隊員が目についた。

ラッキー。探す手間が省けた。

「おいお前。今からお前のRPGでトーチカを破壊するからついて来い」

「分かりました」

俺はRPGを持った隊員を連れて姿勢を低くしながら味方が援護射撃している中、横を通り抜けて、トーチカが見える場所に着いた。

トーチカの中のマシンガンは援護射撃している味方を狙っていて、こっちには気付いていない様子だった。

俺は持っていたアサルトライフルを万が一撃ってきた時に備えてトーチカに向けて、隊員が背負っていたRPGを手に持って、弾頭を装填した。

弾は対戦車用の榴弾。

建物の破壊にも使われる高火力な榴弾だ。

RPGを肩に乗せて、いつでも撃てる体勢になった。

「アーニャ、こっちの準備はオッケーだ」

『こっちも準備出来た』

「3カウントで撃つぞ。合わせろ」

『了解』

RPGを肩に乗せている隊員に合図したらトーチカに撃つよう指示した。

そしてマシンガンがこっちに気付いていない事を確認してからカウントを始めた。

「3、2、1、ファイヤ!」

俺が隊員のロケットランチャーを乗せていない肩を叩くのと同時に隊員が腰を上げてRPGの榴弾を発射した。

榴弾は真っ直ぐトーチカの方に飛び、トーチカに当たって対戦車用の榴弾がこっちに衝撃を与える程大爆発を起こした。

塹壕にいる敵兵が爆発の影響で体を倒していた。

左の方を見ると、端に燃えているトーチカが見えた。

アーニャの部隊が破壊に成功したみたいだ。流石だ。

隊員にもう一個のトーチカの破壊を指示すると、隊員が数秒でRPGに新しい弾頭を装填して隣のトーチカに向けて発射した。

そのトーチカも榴弾が爆発して跡形もなく吹き飛んだ。

アーニャの部隊ももう一個のトーチカを破壊した。

後は中央のトーチカだけだ。

だがそのトーチカのマシンガンがこっちに気付いた。

「伏せろ!」

マシンガンの弾幕が飛んできて、俺は何とか伏せて当たらなかったが、RPGを持っていた隊員が何発も撃たれて死んだ。

隊員の手からRPGが落ちて、すぐに撃たれた隊員が倒れた。

クソッタレ。よくも仲間を。

マシンガンはずっと俺の隠れている塹壕を撃ちまくって撃たせないようにしている。

なら、これを誰かに渡して撃たせるまでだ。

すると運良く心配してこっちに来ていたミーナを見つけた。

「ミーナ、ロケットランチャー撃てるか!」

「前に一度だけ撃ったきりですよ!当たるかどうか……!」

「ここからだとマシンガンに狙われて撃てない。お前しか頼めないんだ!」

思い悩んだミーナは自分の頭を叩いて活を入れた。

「分かりました!こちらにソレを!」

俺はRPGをミーナの近くに置いて、ミーナに注意が向かないようにM4A1でトーチカに撃ちまくる。

マシンガンの弾がこっちに向かってきて、ギリギリで塹壕に隠れる。

グレネードのピンを抜いて、トーチカの近くに投げ込んだ。

爆発して一度マシンガンの射撃が止んだが、すぐに射撃を再開した。

これで完全にこっちに注意が向いた。

「ミーナ!撃て!」

姿勢を低くしてRPGを予め構えていたミーナが立ち上がって、RPGを撃った。

ミーナの放った榴弾に気付かなかったトーチカのマシンガンは榴弾の爆発に巻き込まれた。

トーチカを全て破壊した。塹壕にいた敵兵は爆発で怯んでいる。

今がチャンスだ。

「突撃しろ!敵を一気に叩け!」

俺の号令で味方が塹壕から飛び出して敵のいる塹壕に走り出した。

何人かの敵がAK47を撃とうとしたが、先に構えていた味方が撃つ方が早く、すぐに撃ち殺された。

味方が塹壕の敵に飛び掛かったりタックルして倒して、白兵戦を仕掛けた。

殴り合い、ナイフで戦い、時には拳銃で撃って敵を倒していった。

俺もM4A1を撃ちまくって塹壕にいた敵兵三人を殺して、砲撃で出来た窪みに隠れた敵を下部のM203グレネードランチャーを撃って爆殺した。

弾切れのM4A1から両脇のホルスターからデザートイーグルを出して、逃げていく敵兵を撃ち抜いていく。

途中火炎放射器を持ったアーニャの部隊の隊員が敵のいるクレーターに火炎放射して敵兵を火だるまにしているのが見えた。

火を消そうとのたうち回って、そのまま撃ち殺されている。

敵は投降するか、一目散に逃げてるかでほとんど戦う意思を持っている者は誰もいなくなっていた。

後は王国軍と俺の部隊に任せておけば大丈夫だろう。

わざわざ俺が出るまでもない。

「動かないで下さい!そのまま手を上げて足を崩して下さい!」

周りをキョロキョロしていると、ミーナがSR25セミオートライフルで三人の敵兵を投降するよう大声を上げて言っているのが見えた。

俺もミーナの隣に立ってデザートイーグルの銃口を向けて威圧した。

「投降しろ。捕虜としての人権を保障するぞ」

「…………」

投降しようか迷っているハーグ王国の兵士六人はこちらを睨んでいた。

捕虜になれば死ぬ確率は下がるが、国に恥をさらす事になる。

彼らの妙なプライドが邪魔して投降を渋らせているな。

六人の敵兵を見ていると、他の兵士はライフルを捨て手を上げて俺達に目を向けているが、一人だけ右腰の拳銃に目を向けている兵士がいた。

嫌な予感がするな。隙を見て撃つつもりかも。

デザートイーグルを怪しい兵士に向ける。

頼む。投降しろよ。出来ればこんな形で一人の兵士を殺したくない。

だが俺の願いは虚しく、その兵士は腰の拳銃に手を掛けてしまった。

俺がデザートイーグルを撃とうとして引き金を引こうとしたとき、後ろから一発の銃声が聞こえ、それと同時に撃とうとしていた兵士の額を撃ち抜いた。

振り向くとそこにはMR73、38口径リボルバーを持ったヒナがいた。

リボルバーの銃口から白い煙が立ち上っている。

「今みたいに反抗しようとしたら撃っちゃうからよろしくねー」

一人の兵士を殺したとは考えられない程明るい声で迷っていた敵兵に言った。

反抗したら撃ち殺されると悟ったのか、抵抗することなく投降した。

味方の兵士が彼らを連行していく。

「なんで……?」

「なんですぐに撃てたか、でしょ?ミーナちゃん」

なんで銃を持つ前に撃ったのかミーナが呆然としていると、その兵士を殺したヒナがミーナの考えている事を読んで答えた。

「答えは一つ。君と魔王様を死なせない為だよ。拳銃に手を掛けたから誰かを殺して自分も死ぬ気だなって気付いて先に撃ち殺したの。ミーナちゃんは撃たないのは分かってたけど、魔王様が撃たないとは思わなかったなー。どうしたのー?」

「…………」

撃てなかったのか。俺は。

俺かミーナを殺そうとしていた兵士を、俺はヒナよりも先に撃たなかったのか。

引き金を引けなかったのか俺は……!

「まあこれで敵の防衛陣地を占領したから、私達の仕事はここまでだね。王国軍はこのまま前線基地を制圧するから、ここで待ってよ」

ヒナは近くの岩に座って、ノンビリと足をばたつかせた。

俺はしばらく、引き金を引けなかった事を悔やんで動けなかった。

ミーナも何でかは知らないが、呆然としたままだった。

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