第23話 魔王、武器屋で銃を買う
四千年前の転生者かもしれないアリスに逆プロポーズされてうやむやになった日の夜、俺は約束通り錬子と町に出掛けていた。
中心部の町は外周部よりも治安が良く、人通りが激しかった。
これから戦争になるのに、まだ町に活気があった。
「悪いわね。付き合わせちゃって」
「約束だからな。それに、お前が俺と一緒に行きたい場所が気になってな、どんな所なんだ?」
「傭兵御用達の店だよ。今から行く店は数少ない高級店よ」
「高級店か。何を売っている?」
「見てからのお楽しみ」
錬子にはぐらかされた。
まあその店に着くまで楽しみにしておくか。
町を歩いて数分、途中で中心部の通りから外れて狭い路地に入った。
そこを抜けると、一軒だけポツンと建っているが派手な外装の店があった。
店の近くには銃を点検している傭兵が何人もいた。
その銃はまるで新品のように綺麗だった。
「なるほど。武器屋か」
「数少ない銃を傭兵や民間に売っている高級店よ。会員制でその店のカードを持っている人しか入れないわよ」
「お前はそのカードを持っているのか?」
「そうじゃなかったらここに連れて来ないわよ。まあこのカードを使うのは久しぶりだけど」
「そうか。なら入ろうぜ」
錬子と顔を合わせ、店の中に入る。
中はいかにも高級店らしい内装だった。
アメリカのバーやナイトクラブの暗く、しかし電球で華やかな内装に仕上がっている。
店内には使い切れない程たくさんの銃がショーケースや棚に置かれている。
綺麗に点検された銃は一つの作品のようだった。
何人か傭兵がいたが、雰囲気や目でかなりのベテランだと分かった。
幾つもの修羅場をくぐり抜けた鋭い目で商品の銃を見ていた。
ここにクレアとミーナを連れて来ない方が良いかもな。目をつけられる。
錬子について行き、店の奥のカウンターの男と合った。
ピシッと決まったスーツを着た五十代後半の男で、無精髭を整えていた。
「いらっしゃいませ。今日はどのような銃を買いに?」
店の男が律儀に話し掛けてきた。
錬子はそれをすぐに言葉で返した。
「セミオートで撃てて使いやすいショットガンが欲しいわ。オススメは何かしら?」
セミオートショットガン?
そういえば四千年前、任務中に愛用していたショットガンが壊れて困っていたな。
それが欲しかったのか。
「でしたら、ベネリM4がオススメです」
ベネリM4、別名M1014セミオートショットはアメリカ海兵隊が主に使っている俺の使っているAA12フルオートショットガンと同じ軍用散弾銃だ。
作動方式はガス圧利用式。
2本のステンレス製ガスピストンをチェンバーのすぐ前方に、そのガスピストンの前方に2つのスプリングであるガスプラグを備える方式で、メーカー毎に異なる弾薬の長さや装薬の量に応じて安定した作動を実現できる。ただし、非殺傷用などの低威力の弾薬を使用する際にはボルトを手動で作動させる必要がある。
「ボルトを引きやすくし、早くボルトから散弾を装塡するファストマグがあります。店で人気の散弾銃の一つです」
男が棚にあるM1014セミオートショットガンを錬子に渡した。
錬子はすぐにM1014を確かめる。
何度もボルトを引いて、弾を入れる所も入念に触り、サイドで狙った。
「前に持っていた物より良いわね。パーフェクトよ。コイツを買うわ」
錬子が店の男から請求書を貰った。
「ありがとうございます。後日発送致しますが、発送先は?」
「ゼシール王国よ。話を通してあるから錬子と言えば分かるわ」
なるほど。ああやって支払っているのか。
請求書をチラッと見たらM1014の値段がかなり高かった。
桁が百万もするぞこのセミオートショットガン。それだけ品質が良いって事なのか?
「畏まりました。ところで、今錬子と仰いましたか?」
「ええ」
「あなたの噂はかねがね聞いております。何でも、ナイフで相手を数秒で倒すとか」
「場合によるわ。実際はもっとかかる。私なんかより隣のこいつが凄いわよ」
「あの黒髪の少年がですか?」
「例の魔王よ。素手で熊の首を折れるわ」
「違う。訂正しろ、虎だ」
錬子の発言を聞いた店の男がすぐに頭を下げた。
「申し訳ございませんでした魔王様。私の恥知らずな発言をお許し下さい」
「別にいいよ。てか俺はゼロという名前があるからそっちの方で呼んでくれ」
「分かりましたゼロ様」
様付けは取り外せないのね。そっちも止めてほしいけど。
「お詫びと言ってはなんですが、ここにある商品を一つ、無料で差し上げます」
太っ腹じゃないか。急に銃をプレゼントするとか言い出したぞ。
錬子に目を合わせるとニヤリと笑った。
俺の事を悪く思っている奴はそんなにいないと言っているようだった。
この男も純粋に俺の事を尊敬している。
城で大声で批判された男を思い出すと、何ともまあ複雑な気分だ。
だが新しい銃を貰えるならラッキーだ。
「これが銃のカタログです」
男から店のメニューを貰った。
そこには銃の名前と写真が一面にびっしり詰まっていた。
こんなにあると悩むな。どれにするか。
「おっ。こんなゴツいのもあるのか」
俺かカタログの商品の中で気に入ったのはベルギー製の汎用機関銃MK48だった。
アメリカの特殊部隊で使われるこの機関銃は5.56ミリのMK46機関銃を元に7.62ミリ仕様に作られた。
近代カスタムされたこのマシンガンは様々なアタッチメントを付けられるレールが幾つもある。
敵を一気に片づけたい時に使うことになりそうだが、気分でたまに傭兵の依頼で使うかもな。
「このMK48マシンガンを貰おう。あとハイブリッドサイト、マズルブレーキ付けられるか?」
「ありがとうございます魔王様。錬子様の銃と一緒に配送させて頂きます」
「あと、アサルトライフル用の銃剣があったら欲しい。これは金を出そう」
そう言うと男が下の棚から箱を出して置いた。
開けると、何本もの銃剣用のナイフが入っていた。
「砥石で丹念に研ぎました。高級ですが、今日はゼロ様が来てくれた最高の日。半額で提供します」
やれやれ。安くするのは譲れないか。
俺は銃剣の中で一番良かった赤い持ち手の銃剣を買った。
何かと俺にサービスしてくれるなこの男は。
マシンガンとアタッチメントを無料でくれるし、銃剣だって半額にした。
この店はそういうサービス精神が良くて繁盛しているかもな。
店の買い物を終えた俺達は店の男に礼を言って外に出た。
出る前に店の男から会員証のカードを貰った。
いつでもサービスしてくれると笑顔で言って挨拶した。
修理や欲しい物があったらここに寄るか。
店から出て中心部の繁華街にまた入って、大通りを歩いた。
このまま城に戻るのは癪だから露店で小型の樽に入ったビールを買った。
樽の蓋を開けると冷えたビールが見えた。
二人でビールを一気に飲んだ。
「あ~。久しぶりのビールだ」
「クレア達の前では飲めなかったからたまには悪くないわね」
ビールのアルコールと味を楽しみ、二人で賑わっている町の大通りを歩く。
ちなみに俺と錬子は酒が強い。基本幹部達は酒に強かった覚えがある。
「こうやって二人で歩くのはいつ振りかな?」
「最後にお前と二人きりだったのは四千年前の最後の戦いの前だな」
「あの勇者との戦いからもう四千年か。長いような短いような」
錬子はかつて錬子と戦った事がある。
ほとんど勝った事がなく、任務がある時はよく勇者と対決していた。
「あの勇者……カイルだっけ?あんたと似ているよ。女に優しい所がね。私は殺しにきてたのに普通に返すしさ、あんな優しい奴が人間至上主義の連中の駒になっちゃうなんて」
当時人間至上主義は勇者、聖女、大魔法使いを偶像崇拝していた。
彼らは全員人間で、魔王軍を倒す力を持っていたから奴らにとって都合が良かった。
本来の目的を隠して、勇者達を利用出来ると思ったからだ。
「魔族より人間の方が醜いって本当だね。私は人間だけど、奴らみたいな真似は出来ない」
「それでいい。奴らは魔族にとっても、人間にとってもクソだ。奴らの好きにはさせない」
「うん。カイル達を利用したあいつらはいずれ代償を払わせてやる」
「…………」
変わったな。前の世界の錬子は殺しに全てを捧げていた。
利用されていようが、彼女は殺しが生きる全てだと思っていた。
あの頃の錬子に比べたら、今の錬子は明るくなって人を想うようになった。
あの冷徹な錬子は前の世界で死んだ。
ここにいるのは、仲間を優先的に考える優しい女だ。
「ゼロ。王国軍から聞いた?」
「ハーグ王国の動向を知る人間史上主義の男の情報だろ?」
数日前、王国軍の諜報部が王国とハーグ王国の近くにある町にハーグ王国の情報を握る人間至上主義の男がいると俺達に伝えた。
その町はハーグ王国が領有している町で、奴は雇った傭兵を囲んで、密かにここの情報を流しているらしい。
王国軍からはこの男の捕獲を依頼された。
スラマンから依頼された以上、王国軍の依頼にも応えないといけない。
それに他国の部隊が他の国の町に行くとあっちから問題にされる。
王国軍が動けないから、軍ではない俺達が奴を捕まえる。
その計画を明日から考えていこう。
「錬子、お前にもきっちり働いてもらうぞ」
「はいよ。まああの子の許可を得てからね」
「クレアを説得するのは案外簡単だ。ミーナを引き合いに出せばすぐに落とせる」
「…………あなたはミーナの事、どう思っているの?」
「俺達の大切な仲間だ。なんだよ、突然どうした?」
「まだ気づいていないならこれ以上言わないけど、ミーナがどれだけあなたを思っているのか見てよ、絶対に」
「お、おう」
……凄え気迫。
ミーナが俺の事をどれだけ思っているかって?
あいつは何が言いたいんだ?
アリスの件もあるし、頭を悩ます事が多いなぁ。
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