夏目潤vs優崎優人!(vs白神天稀さん)
『READY⋯⋯ FIGHT!!』
「⋯⋯やっとか。待ちくたびれたぜ。」
草むらであぐらをかいた状態で転移させられた潤はそうにやりと笑った。何かトラブルがあったようでかなりの時間待ちぼうけを食らっていたのだ。
「全く⋯⋯なんでもいいからさっさとやらせろってのっ!」
そうぶつぶつ言いながら立ち上がる。戦場はまたもや真っ平らでどこまでも続く緑の平原。どうやらここ固定のようだ。
「変わりばえしねぇなぁおい。まぁまぁ、やりますかね。敵は⋯⋯確か
今回は向こうから姿を現した。亜麻色寄りの金髪な子供だった。明らかに潤よりかは若い。そして小さい。服装は半ズボンに青パーカーとどう見ても戦う職業の服ではない。
(まぁそれ言ったら
「夏目潤さんですかー?対戦相手ですー!よろしくお願いします!」
「⋯⋯よろしく。」
優人は深々と礼をする。潤は動かない。
「では早速!『幻想刀』!」
彼は虚空から刀を作り上げた。それは綺麗なエメラルド色の刃をした見るからに普通ではない刀であった。それを上段に構え、潤に攻め寄った。彼女はまだ優人を見ている。
「せりゃぁぁぁ!!」
「甘い!!」
刀の間合いに入る前に振り下ろす。すると、潤に向かって斬撃が飛ぶ。黒く澱んだナニカを含んだ斬撃。少なくとも潤にはそう見えた。ここで潤は動きを見せた。最小のサイドステップで避けつつ、そのまま突進して間合いに優人を入れる。接近に慌てたのか彼が体を防ぐように構えた刀を左手で掴み、握力でへし折ると、すぐさま右ストレートを顔へ放つ。すると優人は刀を離し、その右ストレートをバックステップでかわしながら距離をとった。
「⋯⋯」
「危ない危ない⋯⋯夏目さん強いね!」
「⋯⋯お前もよくやるよ。
そう言いながらも思考を重ねる。
(おそらく刀を出したのは錬金術系の魔法だろうな。そして攻撃の主体は呪術。格闘も相当できるだろう。厄介だな。)
そして考察をしながらもなにかを察知して避け続ける。
「⋯⋯見えてるの?」
「いんや、感だよ。だが、アンタは強いとみた。だから⋯⋯」
驚く優人を見ながらニィッと笑う。
「本気度を30%にあげるか。」
瞬間、彼女の左足は優人の顔を捉えた。優人の反応速度も早く完璧に捉えられたわけではないが、頬に傷がつく。
「ひぃ⋯⋯」
「まだまだぁ!」
連撃は続く。回した左足を軸に右足での回し蹴り、さらに回し切った右足を軸にしたサイドキック。回し蹴りに対応する為にスウェーで避けた優人だったが、素早く放たれたサイドキックをモロにくらって体が後ろに吹っ飛んだ。
潤は浮いた優人の胴体に右ストレートを叩き込んだ。体重の乗った速く重い拳が突き刺さって優人は地面にバウンドして転がっていく。
「まっ負けるかぁ!!」
優人も負けじと転がりながらも腕を振るう。
「
空中に煌めく拳型の物体が現れる。ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤ⋯⋯様々な宝石で構成された巨大な拳である。彼の能力である呪いと錬金術を合わせた強力な技を前に、
「ははっ!そうこなくっちゃな!!」
尚も不敵に笑う潤。懐からあるものを取り出して右手にはめる。前面に幾何学模様の絵柄が入ったプレート付きのメリケンサック。名を『魔を喰らう
そうであるが故に現状潤にしか使えない武器である。
宝石の巨拳に対して正対し握った右拳を大きく後ろへ振りかぶる。
「はぁぁぁぁぁぁぁらぁ!!!!!」
拳と拳の激突。その瞬間に全ての宝石が砕け散った。ダイヤはもちろん、ダイヤよりも割れや欠けに強いとされているサファイアやルビーでさえも粉々に砕け散って風圧によって吹き飛んでいった。そして後に残った呪いの拳を無能力者の潤の拳が押し返していた。やがてそれはひび割れ、霧散していった。
「えぇ⋯⋯あなた何者です?」
「うちの世界じゃ最強のお姉さんさ。ほら、もっとかかってきな?」
「⋯⋯えぇ、行きます!!ソロモンの腕輪!!」
優人が叫ぶ。すると、バキバキと硬質な音を立てながら手足が黒く輝く鉱物に覆われていく。背中からはその鉱物が大きな翼の形に生えていく。
「ソロモン⋯⋯ねぇ?」
「せやぁ!!」
今度は潤が距離を詰められた。翼を羽ばたかせ飛びながらの打撃。明らかに速度が上がっている。眼前に迫った拳をなんとか避けカウンターの左を胴に打ち込んだが、するりと避けられてしまった。
「なるほど、飛行能力。確かにジェットパックも反重力装置も能力もねぇ
そんな独り言を言っている間も優人はヒットアンドアウェイを繰り返している。潤もギリギリのところでかわしている。
「そして速い。自らの出せる速度を生かして
しかし彼女は笑っていた。飛びかかってきた優人の羽を鷲掴んで捕まえた。
「ひぇっ」
「捕まえたぁ!」
そのまま素早く背中に回って逆側の羽も捕まえ、手前に引きながら優人の背中を踏みつける。メキメキと悲痛な音が響く。優人も抵抗したが動じず、ついに翼は引きちぎられてしまった。
「ぎぎぃぃぃ!!!」
「とどめ!!」
テレンテレンテレレン!テレンテレンテレレン!
緊迫したこの状況に不釣り合いな陽気な音楽が流れ始めた。潤は優人を踏みつけたままポケットから震えるスマホを取り出す。
「はいなんだ?⋯⋯うん。ふむ。うーん、今?⋯⋯今ねぇ⋯⋯まぁいいか、いいぜ。友達の頼みだからな。うん、そこね。ちょっと遠いから車飛ばすわ。多分間に合うわ。うん。待ってな。じゃあまた後で。」
そんな会話をして電話を切る。そして潤は優人に笑いかける。
「よかったな優人君?君の勝ちだ。」
「は?」
「ちょっとお呼ばれしちまったし、そこ今から急いで用意して車飛ばさねぇといけないくらいの距離なんよ。仕事ならともかく巻き込まれただけの暇潰しだし。友達に呼ばれたなら行かないとね?」
「はぁ⋯⋯?」
呆気に取られる優人から足を退かし、軽くスーツの汚れを払ってから潤は叫ぶ。
「おい運営!
『え?あ、はい。GAME SET!! WINNER!! 優崎優人!!』
「んじゃ、帰るわ。またやろうや。今度は最後まで⋯⋯な?」
「⋯⋯正直嫌です。」
「ははっ!正直でよろしい!」
夏目潤は笑顔を浮かべ、手を振りながらデスマッチの舞台から去っていった。
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