小児性愛者の権利保護に関する新たな法案が成立しました

@yazee1120

第1話

俺はあと数年で40歳になる

誕生日が近づくと今でも思い出す。幼かった頃のあの不気味な経験。

当時は何が起きたかわからなかった。

思春期になって、なんとなく、あれがいわゆる性的な暴行だったのだと気づいて、

物心着いた頃から両親がどこか憐れむような目で俺を見ている理由に納得したのだった。

父親が容疑者として疑われて拘留されるところまでいったらしく、そのせいで仕事も辞めたらしい。

引っ越しのとき、魚の折り紙を貼った段ボールの板が業者の車から出てくるのをずっと待っていたことは覚えている。(俺はそれを水族館と呼んでいたので、引越し業者の兄ちゃん達を困惑させた)。

両親とはそんな関係だったから家は居心地がいいとは言えず、高校の頃から下宿をして以来ずっと一人で暮らしている。

適当なバイトをして学費を稼いで適当な大学を卒業して、適当な中小企業に就職した。

当時俺に何が起きたかは、俺の嫌いな親戚がご丁寧に教えてくれやがった。

俺が誕生日を迎えた日、近所の公園で親がちょっと目を離した隙にいなくなり、

1時間くらい探し回ったあげく、茂みの中で寝ているのを見つけたらしい。

俺の服は脱がされた跡があり、犯人の体液が付着していたらしい。

どうやらその体液のDNA検査をしたら父親にとても近かったために、父親が疑われたのだ。

あいつは親父よりも太っていてなんとなくだらしない姿だった。

俺はその後しばらく声が出なくなり、いくつもの病院に親が連れて回ったとも聞いた。

忌々しいことに、俺自身の中にあの不気味な男を見出すことがたびたびある。

自分に何が起きたのかを悟ったときから、幼い少年の身体とはそれほど魅力的なものなのかという謎がときどき頭をもたげた。

そして周りの同年代の子供たちのような自然な発育という機会を逃したようだった。

他人に適切な興味を抱かず、子供らしい青春や恋愛を経験することなくただ歳をとっていった。

中学生の頃に体毛が濃くなり、自分の身体を気持ち悪いと感じてしまった。

大学を出る頃まで俺はずっと少し痩せ気味だったが、就職してからあっという間に10kg以上太り、そこからは何年かに一度増えたり減ったりを繰り返して、ここ数年はとうとう減る気配が見えず腹がだらしなくなってきた。

通りすがりの少年を自分と見比べている自分にときどき気づく。これは羨望の気持ちなのだろうか。

あの歳頃の少年は美しい。

自分を慰めるときに見る動画は、あどけなさが残る肌が美しいモデルばかりだ。

18歳でももっと少年らしい美しさを持つ子だって居るだろうに、ぼやけた造作を童顔と言い替える制作会社は腹が立つ。

俺はいつからか少年が好きになってしまった。

しかし実際の少年に手を出すことは絶対にしない。

他人を傷つけることは許されない。自分が我慢して辛い思いをする方が圧倒的にマシだ。

そう思いながらいつものように新作の動画を漁っていると、

つけっぱなしのニュースが気になることを言っている。


「本日、小児性愛者の権利保護のための新たな法案が可決しました。―

小児性愛者が、過去の自分を対象に性的行為を行って良いとする法案が、世間の予想に反して可決したものです。

施行は来年の春からで、一昨年に一般利用の規制が緩和されたタイムマシン活用の一環です。他の活用法と同じく、30年前までの局所的な時間遡行が認められている国際条約の枠内での利用に限られます。

それでは街角の意見を聞いてみましょう。」

「自分自身にだったら、勝手にやってくれればいいんじゃないですか。うちの子に来にくくなって安心かも―」俺より少し若いくらいの男女のインタビュー映像が流れる


「自分自身…。俺もきれいだったんだろうか。」


しかし、気付いてしまった。

こんなことがあっていいのだろうか。

俺は自分のしたことを悟ってしまった。

それが自分のしたことと厳密に言えるのかは、俺には知識が足りていない。物理なのか哲学なのか、そんなことはどうでもいい。早く止めなければ。



古典的だが閉じきった自分の部屋で炭に火を点けた。睡眠薬がそろそろ効いてくるはずだ。

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