第16話
「もしもーし。こちら朝倉涼子。今報告いいかしら?どうぞー」
『こちら喜緑江美里。かまいません。どうぞ』
「まず朝比奈みくるの証言の確認だけど、確かに高密度の集積体…集積帯とでもいうのかしらね、まあ確かにあったわ。わずかだけど生成の異なる箇所があったから、それがそうなんでしょ、たぶんね。そこにいた存在についての手掛かりは特になかったわね」
「あと、あのツインテールの子の組織の件だけど、本当に何も知らないみたい。あの子以外の幹部とか言う奴も全員締め上げてみたけど収穫なしよ。ボスとか言う奴だけは見つからなかったけど、他に打つ手が無くなったらまた探してみるわ」
「それで今は天蓋領域の人型ターミナルを捜索してるんだけど、情報制御レンジ拡大申請をしようとしたらアクセス権がないって返ってくるのよ。喜緑さん何かした?」
『あなたの情報結合解除の権限を長門有希から正式に移譲された時点であなたのアクセス権を全て剥奪してあります』
「剥奪してあります、じゃあないわよ。何やってくれてるの?同期処理も失敗するからおかしいと思ったわ」
『あなたの言動に起因する措置です。ですが…今回はしっかりと働いているようですので、あなたにアクセス権を返還しましょう』
あら、喜緑さんがちょっと優しい気がするわ。まあわたし褒められて伸びるタイプだから、その調子でどんどん優しくしてね。などと言うとまた権限を剥奪されかねないので素直にお礼を言っておくにとどめた。
「情報制御レンジ拡大。攻性情報展開。サーチングモードへシフト。当該対象の探索を目的とした広域空間での索敵許可を申請」
見つけた。何よ、けっこう近くにいるじゃない。座標は…山かしらね、ここ。まあ行ってみれば分かるでしょ。ということでさっそく向かった。小高い山の中腹に、対象は眠るように横たわっていた。
「久しぶりね、九曜さん。ずいぶん探したわ」
天蓋領域の人型ターミナル、周防九曜はピクリとも動かなかった。本当に眠っているのかもしれない。こちらとは論理基盤が異なるので、端末側は別にメンテナンスが必要なのかもしれない。つまり、今ならハード端末を簡単に破壊できる。
「なんてね」
今回は彼女の破壊が目的ではない。この星の未来人に加担しないようコンセンサスを取ればいいだけだ。そう思い、彼女とコンタクトを図ろうとふと顔を見てギョッとした。閉じた両目から、涙が流れていた。何だ、この端末は。そんな機能を、一体何のために。
「まあいいわ」
こういったことを考えるのは喜緑江美里にまかせよう。報告を済ませようとしてふと思いつく。そうだ、どうせならもう一つ調べておこう。あのツインテールの子が変と言っていた、涼宮さんと類似する力を有する人間の作る空間を。あたしは山の頂上へ向かった。途中、開けた場所を見つけたのでそこでもいいかと立ち止まる。ひょうたんのような石があったのでそれに乗り、方角を確かめる。
「あっちね」
あたしはその場で跳躍して、一直線にその空間を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます