第15.5話

「…ふっ、ふふっ、あっはははは!!!『わぁ!!!』だって、あーおっかしー。イライラしてたのがスッとしたわ。さて、帰って仕事しよ」


 そう言って振り返ると目の前に喜緑江美里が立っていた。とりあえず黙る。


「長門さんの不可視フィールドはわたしには見えていますよ?」


「それもそうね」


 便利だったのでそのままにしていた不可視フィールドを解除する。遮音ではなかったのでつい遊んでしまった。


「どうしてあなたはまた勝手なことをしたのですか?」


「だってさー、長門さんばっかり可哀そうじゃない?前は向こうが長門さんにコンタクト取ってきたからっていう理由があったけど、今度はこっちからなわけでしょう。なら、わたしが代理でやってもいいと思わない?」


「情報統合思念体は天蓋領域と全面戦争をする予定はありません」


 喜緑さんは心配性ね。わたしはやればできる子なのに。


「わたしが心配しているのではありません。あなたの信用がないだけです」


 あんまりだわ。


「あ、わたしが倒れても長門さんと違って誰もお見舞いに来てくれないじゃない。喜緑さんお願いしてもいい」


 喜緑江美里はため息をついた。マズい、真面目に叱ってくるやつだ。しかし今回はそうではなかった。


「あなたはもっとうまく立ち回れるはずなのに、どうしてそうなってしまうのですか」


 考えるフリをして首を振った。ついでに手もひらひらと振って踵を返した。説教じゃないならこのまま帰っても大丈夫でしょ。


「朝倉さん」


 ダメだったみたい…。足を止めて振り返ると、喜緑江美里が自分の髪飾りを外して差し出してきた。


「何コレ。発信機と盗聴器?」


「…お守りです」


 見間違いでなければ、一瞬ムッとした顔をしてた。お守り…おまもり?受け取りながら聞き間違いでないか確認する。何でお守り?


「…なぜでしょう、今日のあなたには渡しておくべきという気がしました?」


 自分で言いながら最後は疑問形になっていた。自分でもなぜそんなことを思いついて、かつ実行しているのか理解できていないように。わたしはそれを見て、こらえ切れずについ笑ってしまった。


「何がおかしいのですか」


 何がも何も。喜緑さんの言動は、まるで人間のように不合理なそれでしかなかった。そう指摘すると、喜緑さんは髪飾りを返すように言ってきたので断った。こんな面白いものをそう簡単に手放してなるものか。手早く自分の髪留めにくっつけた。


「じゃあね、喜緑さん。心配してくれてありがとう」


 うふふっと笑顔で手を振ったけど、喜緑さんはそれを無視して踵を返した。

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