第15話

「シッ。声を出さないで。ゆっくり歩いて、そう、そいつから離れて」


 俺はゆっくりと古泉の背中を眺めて歩いた。クソ、そういえば姿が見えないだけであの場にはこいつがいたんだった。殺人未遂犯、朝倉涼子。こいつの存在に、長門は気が付いていないのか。


「気が付いてても、涼宮さんの前では動けないかもね。でも、もしわたしが本気であなたを殺そうとしたら、それでも長門さんは動くと思うけど」


「何が目的だ」


 俺を殺すだけなら、こんな会話をする必要はない。こいつが目的もなくこんなことをするとは思えない。


「別に?ただ、お話ししたいと思っただけよ」


 特に目的なかった、詰んだ。と現実逃避しようかと思ったが、俺の反応にかかわらず朝倉涼子は話し始めた。


「そいつ気に入らないわ。全然脅かしがいがないし。何よりそいつも転校生だったんでしょ?何よ謎の転校生って、転校してきただけであたしが一ヶ月話しかけても無視し続けた涼宮さんに声かけられたんでしょ?あたしの努力は何だったのよ」


「でね。まあそいつ気に入らないから言うわけじゃないんだけど。さっきのことを信用するのはちょっと待った方がいいと思うのよ」


「いえ、確かに調べなおしてみたら、戸籍上は何の変哲もない女子生徒だったわ。ただ、わたしが最初に確認した時はデータベースになかったのよ、本当よ。けど、喜緑さんと長門さんはデータベースにあったっていうし、わけわかんないわ」


「あとね、さっき部屋の中をぐるって見回したとき、わたしと未来人の人とあのツインテールの女の子のことを目で追ってたわ。それにそいつも言ってたけど、見てたのは涼宮さんの机じゃなくてヤスミって子だった」


「どう?怪しいと思わない?そいつの言うことより私の言ってることの方があってる気がしない?」


 なるほどね、それが本当だとしたら確かにそうだな。あとは話し手が信用に足りるかどうかが大事なってくる。


「あなたも相変わらずいい性格してるのね。まあいいわ。こんなことを言いたかったわけじゃないのよ」


 じゃあ何だったんだよ今の話は。愚痴か?愚痴だったのか?


「長門さんを傷つけないと約束して。約束してくれるなら、天蓋領域とのコンタクトはわたしが代わりにやってあげるわ」


 思わず足を止めてしまった。不審に思ったのか、古泉が振り返る。俺は何でもないと手で合図して再び歩き始めた。


「どう?あなたにとっても長門さんにとっても、悪くない話だと思うけど」


 俺は考える。この約束をする朝倉の狙いは何だ?確かに長門の負担を代わってくれるというのなら願ってもない。ただそれだと、…それだと、俺は今何を考えようと思ったのか。


「あら、もしかしてわたしの心配とかしちゃってる~?」


 見えないが、たぶん憎たらしい笑い顔をしているのだろう。なんなんだこいつは。


「分かった。その代わり頼むからな」


「交渉成立ね。あなたこそ、約束忘れないでよ」


 ふっと、ずっと横にあった気配が消えた。俺はほっと息を吐き出し、


「気を抜いてるとこ悪いけど、わたしはいつも見てるわよ。お風呂で頭を洗っているときとかね」


「わぁ!!!」


 不意を突かれて叫んでしまった。ビックリしたように振り返るハルヒたちに、俺はバツの悪い顔で何でもないと誤魔化した。やっぱりあいつの話なんて聞くんじゃなった。

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