第9話

「突然の招集にもかかわらず大変結構な出席率ですね。発起人として感謝いたします」


 古泉が如才なく挨拶を始めると、「ちょっと」と朝倉がそれを遮った。


「挨拶なんていいわ。それより何?私が駆り出されるほどのことなのかしら」


「ええ、まあ。僕としては貴女が役に立つ事を神に祈るばかりですよ」


 対して面白くない冗談を笑うような古泉の笑顔に対し、朝倉は外面用の笑顔になって押し黙った。笑うという行為は本来攻撃的なものであるなんて言うが、笑顔の応酬でこれほど恐ろしいというのを俺は見たことがない。あんまり煽るな古泉。


「朝倉涼子はとても優秀。彼女が役に立たないというのなら、私も同様の評価を受ける必要がある」


 恐ろしく意外なことに、両者の争いを止めたのは長門有希だった。古泉も長門の働きぶりを軽んじる気はなく、速攻で折れた。朝倉涼子はというと、喜緑さんが止めに入るまでしばらくの間、長門を猫可愛がりしていた。俺はお前がどういうキャラだったか解らなくなってきたよ。


「さて、本題に入ります。全員の認識を共有しておきましょう。一つ目、藤原氏の目的は目下として不明。二つ目、周防九曜に動きはなし。最後に涼宮さんの閉鎖空間には、変化は起きていないです」


 ただし、と古泉はそういって橘京子に続きを促した。予期していなかったのか一瞬えっと声を出してぼそぼそと話し始めた。


「古泉さんたちの入れるところではなくて、あたしたちが入れる方の場所が、ちょっと前から変わっちゃったというか、なんて言うか…変、なのです」


 変。変わった。佐々木の閉鎖空間が、変化した。普遍性こそがハルヒのそれとの違いだったはずなのだが。


「そして昨夜、彼女が僕の夢に現れました。そして非常に困ったことになっているということで、このメンバーを集めるように頼まれたのです」


 古泉が話し終えると、全員の目がヤスミへと向かった。ヤスミはえへへっと力なく笑うのみだった。


 ところで、と古泉がヤスミに集まった注目を再び自分へと戻した。


「先ほど共通認識を簡潔にまとめましたが、補足などはありませんか?特に、朝比奈さん」


「残念ながら、彼の足取りはまだわかっていません。その目的も」


 あらかじめ用意していたように、朝比奈さん(大)は言葉少なくそれだけ言うと黙り込んだ。


「あの、あたしが知っていること教えましょうか!」


 橘の突然の申し出に、朝比奈さんが大袈裟なほど驚いた顔をした。そして、何か知っているのと少し困ったような表情で尋ねた。


「あの…はい。でも、あなたも何か重要なことを教えてください!そうでないと、あたしも何も教えません!」


 ぐっと朝比奈さんが強張った。橘ではなく古泉を少し睨むような、難しい顔を作った。おそらく、橘京子に入れ知恵したのを古泉だと察しているのだろう。当の古泉は何のことやらと肩をすくめてトボケていた。

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