第8話

「安心してね。今回は味方だから」


 ウィンクしながらそう言われて警戒心を解くほど、俺のお前に対する心証はよくはねえよ。朝倉はひどいわと大袈裟に嘆いてみせ、座っている長門の背後に立ち長門の顔を撫でながら頬ずりした。長門はされるがままにさせているので、まあ害はないのだろう。喜緑さんはそんな朝倉をやや冷めた目で見ながら、朝倉の横に立った。


「おい」


 そう言って俺は古泉に目で合図する。眼前の殺人鬼にも当然気を払ってはいるが、俺はもう一人の部外者にも警戒心を失ってはいないぞ。


「ふむ。橘さんはこの学校の体操服がよくお似合いですね」


 空気を読む気がないのか、古泉がやは的外れな感想を漏らした。それを聞いて恥ずかしそうに手で顔を覆う橘。何なんだお前ら。俺が予備のパイプいすを指さすと、古泉はなるほどと頷いて橘にパイプいすを出してやった。


「あーぁ!あたし達は立ったままなのにー!」


「おや、これは失礼。てっきり疲れないとばかり思っていたもので」


 朝倉の嫌味に古泉が皮肉で返していた。両者ともに笑顔でにらみ合っている。一人パイプいすを出された橘がオロオロしだして、余っているパイプいすを両手に一つずつ持って恐る恐る朝倉と喜緑さんに差し出した。それを長門が受け取って広げていた。ちなみに橘が着ている体操服には『長門』と書いてあるので、どうやら長門から借りたものらしかった。


「これだけ集めて、今から何を始めようっていうんだ」


「あと一人、肝心な方がまだ来てませんよ。おっと、来られたようだ」


 古泉の言葉を受け、俺は入口の扉を見た。しかし、扉が開かれることはなく、代わりに窓側から声をかけられた。


「お久しぶりです。キョン先輩」


 懐かしい、ような気もする声だった。前に聞いた時より幾分か元気が消え失せてしまっているようなのは、頭にあったニコちゃんマークの髪飾りがなくなっただけではないのであろう。窓際に立っている彼女は渡橋ヤスミ、元SOS団新入部員であった。

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