第7話

 その後つつがなく午後の授業も終わり、俺はハルヒとともに部室へ向かおうとした。しかし、ハルヒは校内放送で呼び出され途中で別れることとなった。一人で部室に向かい、ノックしてから入ると、ほかの三人はすでにそれぞれの席に座っていた。


「非常に残念ですが、今日はあなたとゲームに興じることはできそうにありませんね」


 いつもと同じような微笑を浮かべる古泉は、口で言うほど残念がっている風ではなかった。


「先に言っておきましょう」


 異常事態です、と古泉は告げた。そうだろうな、慣れてきている自分にほとほと嫌気がさしそうだが、あらかじめそう言ってもらえると心の準備ができてありがたいよまったくコンチクショウめ。


「ハルヒの呼び出しは、またお前の仕業か。何が起こっている。俺の知ってる範囲では昨日から何も変わっていないぞ」


 自分のパイプいすに座りながら視線を長門に移すと、長門はドアへ顔を向けた。俺もそれに倣って自分が入ってきたドアへ体ごと向きを変えた。


「お邪魔しまーす」


 可愛らしい声ではあったが俺はとっさにパイプいすをのけ反らせて少しでも距離を取ろうとした。嘘だろ?いったい何を考えてやがる。明るく部室に入ってきたのはトチ狂った元クラスメイトの殺人鬼、朝倉涼子。


「失礼します」


 ある時は生徒会役員、またある時は喫茶店のアルバイター、喜緑江美里さん。


「…あは、あの、どうも、お久しぶりです。その節は、あの、ご迷惑をおかけしまして」


 最後に、北高の体操服を身に纏い、宇宙人娘二人の後ろですっかり縮み上がった様子のツインテール誘拐犯、橘京子。



「同窓会でもやるつもりか?」


 俺は古泉と長門の二人をやや睨みながら精一杯強がってみる。古泉はどこ吹く風で、あと二人来ます、とあっさりと返答した。と同時に、ガタンと掃除用具入れから音がした。見ると、座っていた朝比奈さんが机に突っ伏してくぅくぅと寝息を立てていた。なるほどね。もう一度ガタンと音を立てて、掃除用具入れが開いた。


「ふぅ。ここ狭いからあんまり好きじゃないんだけどな」


 朝比奈さん(大)が小さく独り言のように呟き、部室の中に予想よりたくさんの人間がいたことに驚いた顔をした。朝比奈さんが驚くのは何度も見てきたが、朝比奈さん(大)が驚いている顔を見たのは初めてのような気がする。古泉が朝比奈さん(大)を見る目がやや鋭いのが気になったが、まあそれぐらい意外な一面を見られたってことだ。

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