第5話

「やあキョン。おはよ…おいおい随分とシケた顔をしてるじゃないか。まるで続編を待っている作家が別のシリーズの新作を再開すると知ったみたいなツラだ」


「そんな具体的な顔をしてはいないだろ」


 藤原襲来の翌朝、登校中に転校生の女子生徒に声をかけられた。昨日のことを考えていた俺は不意を突かれてうっかりツッコんでしまった。


 昨日は結局、朝比奈さんを起こしてすぐ解散となった。朝比奈さんには藤原が声をかけてきたあたりからの記憶がなく、かいつまんで話したところたいそう驚いた様子だが、特に未来から何か情報があるわけでもないと申し訳なさそうにしていた。それはそうだろう、何せ未来の朝比奈さんですら知らないことが起こっているようなのだから。



「まあ別にどうだっていいんだそんなことは。それよりキョン、実は一つ頼まれてほしいことがあってね」


 そういって俺の横を並行して歩きながら、自分の鞄をごそごそとまさぐった。おいおい、昨日の今日で随分と懐かれたな。どういう意図があるのかしらんが、拒絶するのもおかしいのでそのままにしておいたのだが、なぜだろう、なんとなく嫌な予感がする。具体的には誰かに見られるようというような予感だ。


「あんたちょっと来なさい」


 悲しいかな俺の勘は見事的中したようで、氷のように冷たいハルヒの声とともに、首根っこを掴まれた俺は、転びそうになりながら坂道を引きずられるように登ることとなった。


「何あんた。朝っぱらから転校生を口説いてたの?言っておくけど、謎の転校生は古泉君で間に合ってるんだからね。勝手に入れ替えてハーレムを作ろうと目論んでいるのならあんたを叩き出すわよ」


 誤解もここまでくるといっそ清々しい。まず俺は口説こうとしていない。あと、ハーレムも何も、SOS団には朝比奈さん以外ヒロインはいないだろう。まあそれを言ったら今よりひどい目にあいそうなので黙っておいた。ついでに、古泉にはゲームの対戦相手というポジションが俺の中では決まっているので入れ替え戦は求めていないとだけ言っておこう。ハルヒは不満そうにしたまま校門をくぐった。

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