第1話

 世界が棍棒によって砕かれたスイカのように歪に割れた春先の騒動も無事終わり、その勢いを活かさんでもいいのに維持したまま夏を超え、今は高校二年生の二学期を迎えていた。進級時に人的変動がなかったため、どこかゆるいままの雰囲気のクラスだったのだが、どういうわけだか一学期にはいなかった人間が教卓の岡部の横に立っていた。


「あー、というわけで二学期からこのクラスにもう一人仲間が加わることになった。みんな仲良くするように。それと、ハンドボール部はマネージャーも随時募集しているからな」


 ふふっとその転入生は担任の岡部に柔和な笑顔を浮かべ、それを崩すことなく俺たちに向かって自己紹介を始めた。


「ねえキョン。あの転校生なんだけどさ」


 後ろの席からぼそぼそっと声がかかる。んーと首だけ振り返ると、トレードマークの黄色いカチューシャが辛うじて目の端に映った。まあここまでそう短く無い付き合いなので、だいたいハルヒの行動は読めていた。とはいえ、謎の転校生枠はすでに埋まってるだろう?


「そうじゃなくて…あー、なんて言えばいいのかしら。なんかこう、感じない?何か」


 何か。感じるかどうかといえば感じる。普通の女子生徒、というわけではなく、どうにもこうにも容姿端麗というか目鼻立ちくっきりとしており、「学生兼アイドルやってまーす(ハート)」なんて言われても「ああ、そう」と頷いてしまいそうなほどには目立った転校生だった。


「何ていうんだろう…。見覚えがあるっていうか、違和感があるのよね」


 違和感。というよりもおそらくそれは既視感であろう。少なくとも、俺は不思議な既視感を覚えている。『不思議な』というのも、俺はこの転校生とはまず間違いなく会ったことはない。しかし、非常によく見知った奴らと瓜二つの雰囲気をそれぞれ持っている。『それぞれ』というのが、『不思議な既視感』という言いあらわし方になっている理由なのだが、それにハルヒが気づくことはないだろう。何故ならば、この転校生はハルヒにそっくりなのだ。それに加えてもう一人、俺の親友である佐々木にもそっくりなのである。

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