涼宮ハルヒの__

むーらん

プロローグ

 そこは静寂だった。静寂でしかなかった。音もなく、時間もない。色もない。あるもの以外、何もなかった。ソレは憂鬱で退屈で、溜息ばかりついていた。憤慨を覚えたり、動揺することもなかった。そもそもここには謀略もなし、それ以外に何もなかった。ソレはそのままで存在するのみで、分裂して増えることも、また自壊して消失することもなかった。永遠の中に、一瞬の煌めきを見出すまでは。


 それは、音のないこの場では、僅かなノイズだった。時間の存在しないこの場では、一瞬の出来事だった。光のないこの場所では、薄いオレンジ色を発していた。


 ソレはそこから初めて動いた。オレンジに光ったあたりへ手を伸ばすと、手触りがあった。そこで初めて、ソレは五感が戻っていることを理解した。数多のノイズの中に、何かが漂っていた。人のようだった。五体満足のようだが、どうやら壊れているようだ。気まぐれに触ってみると、あっさりと直った。直してやったというのに、お礼も言わず消えた男に、先回りして声をかける。


「バカな!」


 意味のあるノイズを発する男は混乱しているようだった。自分が誰か分かっていないのか、それとも僕が誰か分かっていないのか。僕は初めて声を発する。


「まずはお互い、自己紹介をしようじゃないか。そうでないと」


 僕はキミを、藤原君と呼ぶくらいしかできないぜ?

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